34 記憶(レンブランド視点)
「この子はラインハッシュ。いずれお前の側近となる者だ。覚えておきなさい」
国王である父に彼を紹介されたのは、6歳の時だった。彼の名前はラインハッシュ。赤めの強いブラウンの髪の毛に、綺麗なサファイア色の瞳をした少し年上の男の子。
「よろしくね、ラインハッシュ」
「はい、よろしくお願いします」
笑顔で挨拶しても、真顔で淡々と返されてしまった。緊張しているのかな。仲良くなれればいいのだけれど。
ちょうどその頃、ひとつ下の弟アルフォンスにも側近となるシャルドという男の子が紹介されていた。
第一王子、第二王子となる者にはそれぞれ側近がつく。王子としての振る舞い、知識、国政など王家の血筋をひく人間として必要なことを一緒に学び、時に叱責してもらう。
子供の頃から一緒に学ぶことで、より信頼感を強めることも目的だと聞いたことがある。
ラインハッシュとシャルドは見るからに対照的だった。人懐っこく社交的なシャルドと違い、ラインハッシュは必要以上に人に近寄ろうとしない。それは第一王子に対してもだ。側近としてはある意味正しいのかもしれないが、俺自身としてはもっと仲良くなりたかったんだと思う。
「なぁ、ラインハッシュ、ライって呼んでもいいかな?」
「第一王子が側近に対してそのような愛称呼びはふさわしくありません」
「でも、アルフォンスのことシャルドはアルって呼んでるよ?」
「あのお二人は仲が良すぎるんです。そもそもシャルドは側近としてアルフォンス様に馴れ馴れしすぎです。もっと距離感というものを考えるべきかと」
これだ、ラインハッシュは固すぎる。まだ10歳なのにこの固さ。
「俺はラインハッシュともっと仲良くなりたい。決めた!ライって呼ぶからな!これは第一王子命令だから拒否できないと思うんだぞ」
「……仕方ないですね…わかりました」
はぁ、とうんざりした顔で、でも少しだけ嬉しそうな顔でライは言った。
シャルドとラインハッシュは同じ側近同士仲が良さそうだった。仲が良さそう、というか、ライバル的な感じなのかもしれない。
子供の頃はシャルドがラインハッシュにづかづかと近寄って、ラインハッシュがそれを嫌がるような様子だったけれど、成長するにつれてラインハッシュもシャルドの扱いに慣れたようだった。
子供の頃はいつも4人で走り回ったり、アルフォンスとシャルドと悪戯をしてラインハッシュに怒られたり。
成長してからは王子として学ぶことも多くなり、それぞれが切磋琢磨して時に高めあい時にぶつかり合ったりもした。
沢山の時間を4人で過ごして、信頼関係を築きあげてきたはずだった。
それなのに。まさか、ラインハッシュがこんなことをするなんて。
ずっとずっと、あの出逢った時から俺たちのことを恨んでいたのか?あの楽しかった日々も、辛かった時に側にいて励ましてくれた日々も、笑顔も怒った顔も全部全部偽物だったっていうのか?本当に?
俺は、俺は信じたくないよ、ライ。




