27 嫉妬
キィイン!カキィイン!
剣がぶつかり合う音が森に鳴り響く。
時に風の魔法や火の魔法、氷の魔法など様々な攻撃魔法や防御魔法も繰り出されている。
人数ではラインハッシュ側が圧倒的に優勢だったが、実力ではアルフォンスたちが優勢だった。
あっという間にラインハッシュの仲間を倒すと、アルフォンスは辺りを見渡す。
「ラインハッシュの姿がない」
「あいつ、いつの間にか逃げやがりましたね」
「くそっ!あいつは絶対に地獄につき落としてやる」
クリスが剣を地面に突き刺し悔しそうに言うと、ミレーヌがそっとクリスの近くに行く。
「お兄様、とりあえず私は無事でしたし、お兄様も皆様も無事でした。それでよかったではありませんか」
「ミレーヌ……」
なんて優しい子なんだ、とクリスが目を輝かせる横で、苦しげな表情のアルフォンスとそれを見守るシャルドがいた。
屋敷へ戻る最中、アルフォンスは自分の馬にミレーヌを乗せ相乗りし、ミレーヌのそばから片時も離れなかった。
「あの、そんなに抱きしめずとも大丈夫です、アルフォンス様」
「いや、馬から落ちては大変だろう」
「でも……」
「いいんだ、俺がこうしていたい」
(いや、でもこんなに密着していては私の心が持ちません…!!)
「クリス様、あれはいいんですか」
「良いわけないだろう!でもミレーヌがなんとなく嬉しそうだからな……いやでもやっぱり許せん!」
「この度は、私の軽率な行動のせいで皆様に大変なご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ございません」
屋敷へ戻ると早々に、深々と頭を下げて謝罪するミレーヌ。
「とにかくご無事だったんですから、ね」
「皆様お疲れのことでしょう。ひとまず本日はお休みになって、明日今後の話し合いをいたしましょう」
シャルドとジェームスがそう言うと、クリスもその言葉に同意してその場はお開きとなった。
コンコン
ミレーヌが寝る支度を済ませベッドの端に座って一息ついていると、部屋の扉がノックされる。
「はい」
「俺だ、入ってもいいか?」
アルフォンスの声だ。
「はい、どうぞ」
ゆっくりと部屋に入ってきたアルフォンスの顔は、何か思い詰めたような顔をしている。
(今日のことで随分とお疲れでしょうに)
ミレーヌが心配そうな顔をすると、アルフォンスが無言でミレーヌの横に座った。
「今日は本当にすまなかった。俺達のせいで、ミレーヌには怖い思いをさせてしまって……」
「そんな、私の軽率な行動が招いた結果です。むしろ私の方が謝らねばなりません。本当に申し訳ありませんでした」
また深々と頭を下げるミレーヌの姿に、アルフォンスは胸が苦しくなる。
(俺達のせいでこんなことに巻き込まれてしまっているのに、また自分のせいだと言い張るのか。どうしてこの子はこんなにも……)
「ミレーヌ、連れ拐われたとき、ラインハッシュに何かされなかったか」
アルフォンスの言葉に、ミレーヌは一瞬ドキッとした。馬車の中での出来事を思い出して、目線が泳ぐ。
「いえ、その、別に何も……」
「本当のことを教えてくれ、ミレーヌ」
アルフォンスはそっとミレーヌの頬に片手を添えて、目を合わせる。その美しい顔に、ミレーヌは思わず赤面した。
言うまでこの手は離さないという気迫を感じて、ミレーヌはぽつり、ぽつりと馬車であったことを話す。
(そんなことが……)
ミレーヌの話に、アルフォンスは頭を鈍器で殴られたような感覚になる。未遂とはいえ、ミレーヌの唇を奪われそうになり、ましてやミレーヌを押し倒しただなんて。そう思った瞬間、アルフォンスの体は勝手に動いていた。
「そんな記憶は早く忘れてくれ」
そう言って、アルフォンスは静かに指でミレーヌの唇をなぞる。
(な、な、な)
突然の出来事に、ミレーヌの頭の中は爆発しそうだ。と、思わずミレーヌはふらつき、そのまま後ろに倒れ込んでしまった。
ベッドに横たわった形になったミレーヌに、アルフォンスは上から覆い被さる。
(な、待ってください、この状況は流石に)
自分の置かれた状況にパニックになったミレーヌは、どんどん顔を真っ赤にする。
「君はあいつにもそんな煽るような顔をしたのか」
潤んだ瞳で顔を真っ赤にしながら見つめてくるミレーヌを見ながら、苦しげに言うアルフォンス。
「そ、そんな、しません!こんな風になってしまうのは、アルフォンス様だからで……」
か細い声を必死に絞り出すミレーヌの様子に、アルフォンスは心底嬉しそうな表情をして、微笑む。
そして、ゆっくりと優しくミレーヌに口付けた。




