24 誘拐 ♢
「あの、どこまで行くのでしょうか」
第一王子とアルフォンス様の間に起きた出来事を聞くためにラインハッシュ様についてきたのだけれど、かれこれかなりの間歩いている。一体行き先はどこなのだろう。
「そうですね、ここら辺でいいでしょう」
少し前を向いていたラインハッシュ様がくるり、とこちらを向いて歩いてくる。そして、突然。
目の前に手をかざしたと思うと、にっこりと微笑む。
「おやすみ、ミレーヌ嬢」
そうして、私の目の前は真っ暗になった。
ゴトンゴトン……
何かに揺られている。意識が戻ってきたのでゆっくりと目を開けると、目の前にラインハッシュ様がいる。
「馬車……?」
「お目覚めですか。まだ時間がかかるからもう少し寝ていてもいいんですよ」
ラインハッシュ様にそう言われて戸惑いつつ起き上がると、両手が縛られている。
「これは一体?!」
「あぁ、すみません。そんなことしなくてもあなたは逃げ出したりしないとは思うのですが、念のため。まぁ、今後の展開のためにも必要なことなので」
にっこりと微笑まれるが、目は笑っていない。この人、何を考えているのかわからない。
「私は話を聞かせていただけると思ってついてきました。それなのにこれはどういうことでしょうか」
ラインハッシュ様に言うと、クックッと楽しげに笑っている。
「あなたは本当に箱入り娘なんですね。人はきちんと見定めた方がいい。第一王子の側近だからってホイホイついてくるなんて、バカですよ」
両手を縛る拘束を解こうとするが解けそうにない。むしろ両手首に食い込んでくる、痛い。
「どこに向かっているのです?一体どうするおつもりなのでしょうか」
馬車の窓にはカーテンがかかっているが、カーテンの隙間からほんの少しだけ外が見える。確認すると、どうやら森の中を走っているようだ。
「ティムール王国ですよ。あなたを第二王子が誘拐したことにするんです、まぁ、無事に辿り着ければの話ですが」
ラインハッシュ様の言葉に驚愕する。そんな、どうしてそんなこと。
「そんなことして何になるのですか!困ります、帰してください!」
思わず中腰で立ち上がり、馬車の扉を開けようとするが、ラインハッシュ様に塞がれてしまう。
「!?」
そのままラインハッシュ様に抱き止められ、馬車の椅子に横倒しにされてしまった。
ラインハッシュ様のお顔が間近にある。サファイア色の瞳がじっと見つめてくる。怖い、どうしよう、動けない。
「これが第二王子を虜にしたとはね。ここで少しつまみ食いしたら第二王子はどう思うかな」
ラインハッシュ様の手が頬に延びてきてそのまま唇を指でなぞられる。嫌だ、怖い。
「やめてください!」
顔を背けるとすぐに顔を掴まれて真正面を向かせられる。
「大人しくしてないと本当に食っちまうぞ」
ギラギラと輝くサファイア色の瞳が真っ直ぐにこちらの瞳を射抜く。口に弧を描くラインハッシュ顔がどんどん近づいてきて……
どうしよう、嫌です!アルフォンス様、助けて!!!
ヒヒーン!!
馬車が大きく揺れて急停止する。
「何者だ!」
馬車の外で騒ぐ声がする。
「ミレーヌ!!!」
その声は。
「アルフォンス様!!!」
お読みいただきありがとうございます。好みの作品だ、続きが気になる等、思ってもらえましたらブックマークやいいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると執筆の励みになります。




