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エピローグ

「みっちゃん大丈夫!?」


 私は頃合いを見計らって2人の元へ飛び出した。


「ユッ! ユリ!? いや、あの! だっだだだ大丈夫よ!! ねっ!? マー君!?」


「おっ!? おぉおおおう!? だっ、大丈夫、問題なか!! ん? いや、え!?」


 おうおう、2人とも顔真っ赤であたふたしちゃってまぁ……。ゆでダコにでも変体したのかい?


 私がニヤつく顔を必死で抑えていたら。


「あー!! 大変マー君が怪我してる!! 私、保健室に連れて行ってくる!」


「え? あぁ、このアザはさっきんとじゃなくて柔道の練習で……ぐぉ!?」


「あ、うん。行ってらっしゃーい」


 みっちゃんは怪我をしたマコト君をお姫様抱っこしてダッシュで走って行き、私はそれをヒラヒラと手を振って見送った。


「ふぅ……行ったか。もう出てきて良いよ」


「いてて、これでよかったんすか?先輩?」

「なかなか見事な投げられっぷりだったな」

「あんな綺麗なジャーマンスープレックスは初めて見たよ!」


 私が声をかけると、さっきマコト君に投げられた不良と取り巻きが、背中をさすりながら歩いてきた。


 何を隠そうこの不良達は、私の部活の後輩たちで、みっちゃんとマコト君の仲を取り持つ為に一芝居打ってもらったのだ。


「うん、ありがとう助かったよ。ごめんね、痛かったでしょ?」


「いえ!! 先輩の頼みなら、これくらいかすり傷っす!!」


「ダメよ! 背中擦りむいてるかもしれないから、とりあえず水洗いして後で部室に来なさい! ちゃんと消毒してあげるから!」


「うっ、うっす!! ありがとうございます!! 失礼します!!」


 投げられた後輩は直立から素早く礼をして、背中を洗いに走って行った。


「おい! おまえだけ中村先輩から介抱されるなんてずるいぞ!!」

「くそ、俺が投げられときゃよかった……」

「でも、投げられてわかったけど、マコト先輩ちっさくてもカッコ良かったな」

「「言えてる〜」」

「「「あははははははは!!」」」


 残りの二人も楽しそうに喋りながら後を追って行った。うん、私も良い後輩を持ったものだ。


「中村? うまく行ったのか?」

「先生!」


 私たちの担任であり、柔道顧問の先生も様子を見に来てくれた。


「とりあえず予定通りには……」


「助かるよ、ああも毎日覗かれるとみんな集中して練習にならんからな……」

「本当ご迷惑おかけします」


 実は、みっちゃんがマー君を視姦する為に毎日のように覗きに来ていたのだが、当然柔道部のみんなにはバレバレだったのである。


 覗き窓はマー君のような低身長からはよく見えない位置にあるのだが、普通の高校生の体格なら、そりゃもうバッチリ見えるのだ。


 あれでコッソリと言い張るのだから、節穴にも程がある。


「本当に大丈夫だろうな? あの二人……」

「まぁ、これで落ち着けばいいと思うんですが……」


 私は大きくため息をつき、肩の力を抜いた。


 そもそもの始まりは、マコト君が転校してくる前日だった……。





 * *





「転校生を守れ!? 一体どう言う事ですか? 先生!!」


 私は職員室に呼ばれていた。


「いやな、中村は村尾と仲いいだろ? あいつの問題行動を一番知ってるのは、お前なんだ……なんとか助けてほしい、この通りだ」


「ちょ!? 先生!? 頭上げて下さい!! 一体なんなんですか!?」


 話を聞くと、明日私達のクラスに来る転校生の見た目が小学生みたいな見た目で、みっちゃんが襲わないか心配なのだそうだ。


 みっちゃんは自分ではバレていないと思っているようだけど、小学校、公園、通学路、で男の子を視姦してるから保護者から学校に、なんとかしてくれ、と相談が結構あるようなのだそうだ。


 うん、知ってる。私も毎回その後処理してきたんだもん。もう、完全に慣れっこだよ。


 幼い日に初めてみっちゃんと出会った時、私は「この子は他の子と何かが違う」と感じた。


 あの頃のみっちゃんは、オカッパ髮のずんぐり体型で眼鏡をかけていた。


 でも、眼鏡の奥の瞳からは熱い気持ちというか、信念というか、強い意志を幼心に感じたんだ。


 私は興味が湧いて、ずっとみっちゃんと行動を共にする事になった。


 するとみっちゃんは、見る見るうちに変わって行った。


 髪型を変え、視力を矯正し、ずんぐり体型は成長と共に、残す所は残して細く縦に伸びて行き。


 さらに、勉強やスポーツもそこそこできる、高嶺の花になり過ぎない感じの程よい美人になった。


 ただ一つ特殊な性癖だけ残して……。


 でも、私もそんなみっちゃんに触発されて、一緒に頑張るようになり、恥ずかしながら『ミナユリ美女』と近隣で言われるようになっていた。


 話は戻り、先生からその転校生の写真を見せてもらった。


 こいつはヤベェ……みっちゃんのドストライクだわ……。


 何このみっちゃんの理想と妄想と夢を詰め合わせて濃縮したような男の子は……。


 私は久しぶりに背中に嫌な汗をかいていた。




 * *



 翌朝。


「おっはよー! みっちゃん! ねぇ!? 知ってる!? 今日転校生が来るみたいよ! し・か・も・男子という事がわかっているのだーー!! んふふ、ワクワクするねぇ!!」


「んー私はあんまり興味ないなぁ……」


 よし……とりあえず、同級生の男の子と言う事は刷り込ませた。


「むー、みっちゃんは学生生活を楽しもうとする気概はあるの!? 勉強や部活動ばっかじゃ、せっかくの青春が灰色だよ!? ねぇ、もっとラブコメみたいな事しようよぉ〜」


「あーもー! 暑苦しいから離れなさい!! 私はそういうのはいいの!」


「いだだだだだだ!! ごふぇん! みっひゃんギフ! ギフゥ!!」


 私は両頬の痛みと引き換えに、恋愛には興味ないと言う言質を確保した。


 これでもしも何かあった時は、いびって抑え込めるネタができた。


 朝の仕込みは終わった。後はみっちゃんが暴走しないように観察するだけ……。


「コラー! 席につけー!!」


 打ち合わせ通りに先生が教室に入ってきて転校生の話をした後、私に向かって目で合図を送る。


 私もやるだけはやったと言う旨を頷いて返した。


「……みんな、よろしく頼むぞ……。おーい入ってきて!」


 マコト君が教室に入ってくる。


 初めて本物を見たけどコイツはヤバイ、写真で見たより数倍はヤバイ。


 さらさらの黒髪で、女の子かと思うくらい白い肌をしている整った顔立ちで背丈は120㎝を越えたくらいか……。


 正に正統派。声もよく通るソプラノボイスだし、これはみっちゃんじゃなくても母性本能を刺激すること請け合いだ。


 みっちゃんを見たら既にガタガタと震え出していた。


 おう、どうした? そんなに背中丸めて自身を抱きしめて?


 背中の皮を破って、本能剥き出しのみっちゃん2でも生まれてくるのか?


 しかし、もし襲いかかっていたら、先生と一緒に押さえ込む手はずだったんだからその場に止まっているだけで上々だ。


 後は事前に用意した、みっちゃんから対角線の位置である廊下後方の席へ座らせ……。


「先生! マコト君は小さいから前の席がいいと思います!」


 何言っとんじゃこの女ぁ!!


 いつものおしとやかな、猫かぶりキャラはどうした!? 自分を抑えようと耐えていたんじゃないのか!?


 しかもそこは田中の席だろうが!! 田中!! いいか? 絶対断れ!! 自分の席を死守するん……。


「ど・け・♪」


「は……い……」


 田中ァアアァアアアア!!!!


 断れやぁ!! はい、じゃねぇんだよ!! その危険人物の側に無垢な子ウサギを置くようなもんなんだぞ!!


 先生止めろ!! 事案になるぞ!!


 私はキッ! っと先生を睨みつけた!


「お、おう……じゃあ、黒瀬君……あそこで」


「はい!」


 馬・鹿・野・郎ぉおおおおおおおーー!!!!


 止めろやァアアァアアアア!! なんで行かせた!! なぜ止めなかった!!


 お前は1人の男の子の人生を、猛獣の檻に放り投げたようなもんなんだぞ!!


 私が昨夜から必死こいて考えたプランを返せ!! こんちくしょう!!


 みっちゃんを見ると満面の笑みを浮かべてマコト君を向かい入れていた。


 しかし、そこで思いもしない事態が起こる!!


 なんと、みっちゃんとマコト君が幼馴染だったのだ!!


 さっきまで暴虐の限りを尽くさんと暴走仕掛けていたみっちゃんが、急に無理矢理なお姉さんキャラになった。


 これには私もビックリした、先生はこの事知っていたのか!?


 狐につままれたような表情で先生を見ると、目ぱちくりしながらめっさキョドってて、首をプルプルと横に降る。


 あぁ……知らなかったんだね。


 でも、これで初日の暴走は免れた……。


 私はとりあえず、ほっと息をつき椅子に深く腰掛けた。


 だが、次の日から地獄は始まった……。


 みっちゃんがマコト君から目を離さない。


 まるでロックオン機能でもついてるかのごとく、常に教室内にいるマコト君を見続けている。


 対面で私と話ししてるのに、眼球だけが隣の席のマコト君の方を向いている。


 正直めちゃくちゃ気持ち悪い。


 その他にもクラス中から……。


「村尾さんどうしたのあれ?ヤバイよ?」

「2人とも前の席だから、授業中に嫌でも目に入る……授業内容が入ってこない」

「ミナミさんの笑顔が怖くて……」

「ユリ!! なんとかして!!」


 なんで、みんな私に言うのよ!!


 そりゃ昔からみっちゃんの後始末はしてきたよ? でも、あれは別物だよ……。


 そんな私の苦悩を知ってか、クラスのみんなも私に協力してくれるようになった。


 まずは、マコト君の情報収集から。


 日頃の行動パターン、考え方や好きなもの、得意なものや苦手なものなど男子を通じて情報を掻き集めた。


 そこで面白い事実がわかった。


 なんとマコト君、みっちゃんが小さい時から好きだったと言うのだ!


 なんでも、小さい時に約束した事を頑なに守り自分を磨き上げてきたのだと。


 でも、いざ再会すると見た目が変わっていない事が恥ずかしく、うまく顔を見れないそうだ。


 ウブかっ!!


 これだけみっちゃんの異常なロックオン目線を受けて平然としていたのは、そう言う事だったのか!!


 このままだと、クラスの意識が全て2人に持っていかれて授業どころではない。


 そこでみんなと話し合い、もういっその事くっつけてしまおう、と言う流れになりクラス中が一致団結した。


 ここまで、クラスが一つにまとまったのは文化祭や体育祭でも無かったかもしれない。


 まぁ、よくよく考えればいくら見た目がショタでも、マコト君はれっきとした高校生。


 合法と言うか、別に何もおかしくはない。


 さっさとくっつけてしまえばよかったのだ。


 そして、ある日の放課後。


 作戦は決行され、無事に成果を出す事となったのだ。


「やれやれ……手間のかかる親友を持つと辛いねぇ……」


 私はグッとひと伸びして、最後の目的地の保健室へ向かう。


 タガが外れたみっちゃんがマコト君に襲いかからないようにする為に……。


 しかし、次の日から私達の思いとは裏腹に、遠慮という言葉を放り投げたみっちゃんはマコト君にべったり張り付く様になってしまい。


 より一層クラスからの苦情を受ける事になるのは、もう少し先の話になるのだった。


 おわり

最後は苦労人のユリちゃん視点でした!


裏ではクラス全員でこんな事になっておりました。


それを踏まえてもう一度読むと……なんと!二度美味しい!!


ミナミの暴走っぷりと、それに気づかないタクヤの鈍感っぷり。


それに振り回されるユリと、クラスのみんなの奮闘を脳内再生しながらお楽しみください。


それにしても、これを書くにあたり色んなショタを調べました……。


おかげで新しい扉を開きかけました……。


ショタ好きの人も、そうでない人も最後までお読みいただきありがとうございました!!


最後に面白かったと思ったらしたの星をポチッとして頂くと、次回作のモチベーションアップにつながります!


よろしくお願いしまーーす!!


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