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第三章 (8)

 本格的な夏が始まる直前。

 チムニ村から、二台の馬車がハルムーニに向かって旅立った。

 まずは“豊穣の大地屋”の馬車。

 代表は、ヤドニ。

 副代表兼お目付け役として、陶芸家のソウ先生。

 売り子役として、ゴウとスジ。この二人はヤドニの取り巻きである。

 そして最後に、“森緑屋”からのお手伝い要員として、マルコ。

 馬車に積まれている商品は、農作物や加工肉といった食品類。

 そして、謎の陶芸作品である。

 “謎の”という表現がつくのは、作品のすべてが紙で包まれており、目録を作ったマルコでさえ、中身を教えてもらっていないからだ。


「現地にてお披露目する。それまでは秘密じゃ」


 いい加減にして欲しいと、頭を抱えるマルコであった。

 出発に際しては、村長、タミル夫人を始めとした村人たちによる、盛大な送迎の式典が執り行われた。

 このようなイベントはチムニ村では珍しく、なんと総人口の六分の一にあたる、五十人もの人々が顔を出した。

 代表であるヤドニは、初の晴れ舞台に舞い上がり、愛馬の上で得意げに鼻を膨らませていた。その姿を見つめていたタミル夫人は、息子以上に鼻息が荒かった。

 ただひとり無関心な様子だったのは、村長くらいのものだろう。

 かけられた期待は大きいものの、今回の自由市場の成否については、マルコ自身、まったく読めていない。

 ほとんど彼の手の離れたところで、商品と売値が決まってしまったからである。

 辛うじてつけることができた条件は、ただひとつ。

 最低でも、ハルムーニの往来日数と自由市場の期間を足した二週間、夏場でも日持ちのするものを商品とすること。

 土を入れた小さな布で野菜の根を包めば、ある程度鮮度を保ったまま輸送することができるのではないか――シャーロの献策によるマルコの提案が商工会に受け入れられて、すべての農作物がいもになることだけは免れた。

 不安は加速する一方だが、村人たちは勝ったも同然とばかりに喜んでいる。

 芸術家であるソウ先生はともかくとして、準備作業を何も手伝わなかったヤドニ、ゴウ、スジについても、完全に浮かれきっている様子。自由市場に参加すること自体が目的ではないかと疑念をいだいてしまうマルコであった。

 そして一日遅れて、シャーロ、エルミナ、メグの三人が出発した。

 見送りは、留守番役のダンと子犬のハルである。

 ようやく修理が完了した馬車は、荷台に立派なほろがついており、百十台分の“怠け箱”を積み込んでも、なお余裕があった。しかし、今回は自由市場で商品を売り捌くわけではない。“怠け箱”の他には、ハルムーニのお得意先に卸す商品が、数点積まれているのみである。

 旅の目的は、ふたつ。

 ひとつは“瑪瑙商会”に、“怠け箱”を有利な条件で売り捌くこと。

 そしてもうひとつは、リーザに会うこと。

 手紙などでは何度かやりとりをしていたものの、実際に顔を合わせるのは、三ヶ月半ぶりとなる。

 まずは、エルミナとメグを会わせたいとシャーロは考えていた。

 口に出しては言わないが、特にメグには、思いきり甘えさせてやりたい。

 そして彼自身についても、とある決断をしていた。

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