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少女たちの家と五色の護衛


「オラオラオラァッ! 金持ち共、ガールズハウスのお出ましだァッ!」


 屋敷の上空を旋回するリトルプリンセスから、ゴリが身を乗り出している。その手に握られたマシンガンを上空へと撃ちまくっており、あたりに銃声が木霊したことで人々の間に動揺が生まれる。

 やがて上空でホバリングしたリトルプリンセスから、次々と降下用のロープが伸びてくる。それにしがみ付いて降りてきたのは、ゴリ、エマ、リーナ、ルイーサ、ミラの五人であった。


「さあて、テメーら。スカイのババアが来る前に、全部掻っ攫ってくぞォ」

「もう~、姉御は~。本当に奪うつもりなら、ババアが来た後でいいじゃないですか~」


 ゴリの言葉に、エマがアヒル口を作る。


「本当です。漁夫の利を得れば、もっと容易く手に入るのに」

「これじゃあ警備全員を相手にしなくちゃならないじゃないですかぁ」


 エマに続いて、リーナとルイーサが不満を口にした。


「そうっすね。でもこれが、姉御って感じがするっす」

「そうそう。本当はちゃんとお手伝いしたいのに、素直じゃないのよね」


 しかしミラと、そして上空でリトルプリンセスをホバリングさせているケイテは違った。


「うっせーんだよ、テメーらァッ! やる気ねーんなら帰れやァッ!」


 一際大きい声を上げたゴリだったが、彼女らは誰一人として帰らなかった。


「い~やで~す。身寄りも頼りもないあたし~達を~、拾ってくれたのは姉御でしたから~」

「今でも一人になってる女の子がいないか、目ざとく探してますもんね」


 エマとリーナがマシンガンを構える。


「居場所くれたのは、姉御だけでしたもんねぇ」

「そうっす。ウチらの帰る場所は、姉御のとこだけっすから」


 ルイーサとミラがそれに続き、上空のケイテが締めに入る。


「そんなあなただから、私達はついてきてるんですよ。あなたが決めた道なら、最後まで付き合わせてもらいます。私ら空賊、ガールズハウスッ!」

「「「「命以外は置いていきなァッ!」」」」


 ケイテの号令に合わせて、他四人が飛び出した。周囲の人間をマシンガンで脅し、金目のものを奪っていく。ただし必要ない暴力は振るわず、命を奪いもしない。

 それは空から援護しているケイテも同じであった。リトルプリンセスから機関銃が放たれるが、必ず人がいない場所を狙って威嚇射撃としている。


 一人出遅れたゴリは、その場で後頭を掻いていた。


「ったくよォ、物好きにも程があんだろオメーら……アンタが残してくれたモンのお陰で、アタイ、ちゃんとやれてるよ」


 ふと、ゴリが空を仰いだ。その目は何処か、遠くを見ている。


「こんなイイ女待たせてんだからなァ。さっさと帰ってこい、バーカ……さってとォッ!」


 自分の視線にリトルプリンセスが横切った時、ゴリはマシンガンを構え直して真っ直ぐに前を向いた。


「奪えや騒げや、アタイら空賊。これがガールズハウスだァッ!」


 ゴリが強奪に加わったことで、会場は一気に大混乱に陥っていた。

 逃げ惑う者、大人しく差し出す者、勇敢に立ち向かう者と対応は様々だったが、彼女らの勢いを止めることはできない。


「な、な、なんだこれはァァァッ!?」


 素っ頓狂な声を上げたのは、セメタスだった。先ほどまで優雅なパーティだった筈が、一瞬にして阿鼻叫喚のパニックになってしまっている。


「ふむ、空賊か。なんなら私が出た方がいいかね?」

「い、いえご心配なく。私にお任せください。こんなこともあろうかと、護衛を雇ってありますので。おいッ!」


 ドリストンの善意を、セメタスは丁重にお断りした。

 万が一、ここで空軍大将の彼が出張って騒ぎを収めようものなら、これ幸いと貴族のあり方に文句をつけられる可能性がある。せっかくヨハンとの婚姻で継続の目処がついたというこの大切な時に、下手な隙は見せられない。


 一瞬でその辺りの損得勘定を終えた彼の言葉の後に、赤、青、緑、黄色、桃色の全身タイツ姿の五人組が現れた。


「爆撃レッドッ!」

「旋回ブルーッ!」

「経理のグリーンッ!」

「炒飯イエローッ!」

「魔性のピンクッ!」

「「「「「五人合わせて、航空戦隊、カットビンジャーッ!!!!!」」」」」


 五人がポーズを決めた時、彼らの背後で爆発が起きた。会場は大パニックにレベルアップした。

 セメタスが怒鳴った。


「何をしておるんだ貴様らァァァッ!」


 雇い主に怒鳴られたカットビンジャーの間に動揺が走る。彼らは円陣を組んで、井戸端会議を始めた。


「おいレッド、依頼主が激オコだぞ」

「ああブルー。どうやらカルシウムが足りていないらしい。グリーン、経費でミルクを落とせないか?」

「い、いえその。さ、最近厳しくて。お、主にイエローの食費で」

「あたしがミルク出してあげましょうか? 魔性の名は、伊達じゃないわよぉ?」

「落ち着けピンク。ここは全年齢版の世界だ。っていうかブルー、イエローは何処行った?」

「あそこですレッド。瓦利斯飯店(ヴァリスはんてん)で炒飯食ってます」

「ふむ。素晴らしい味だ、おかわりを要求する。あとシェフを呼んでくれ、お礼を言いたい」

「まさかイエローにシェフを呼ばせるとは……瓦利斯飯店(ヴァリスはんてん)、恐るべしッ!」

「早く空賊の対応に当たらんか、このおたんちん共がァァァッ!」


 再度セメタスの怒鳴り声が上がったことで、彼らはようやく顔を上げた。


「何故怒られているのかは皆目見当もつかないが、我らカットビンジャーにお任せあれッ! カモン、我らが五つの星、ファイブスターズよッ!」


 レッドが天空に向かって人差し指をかざした時に、ヨハン邸宅の上空に五機の航空戦闘機が飛び込んで来た。

 五つの戦闘機は全てかつてクラウスが乗っていたゲオルク、スターペガサスと同等の形をしており、白、青、緑、黄色、桃色にそれぞれの機体が塗られている。


「ま、まさか、自動操縦かッ!?」


 旋回した五機が垂直着陸で降りてきた時に、セメタスは目を丸くしていた。彼らはずっとこの場に留まっており、一人は炒飯を食べてさえいたのに、航空戦闘機は勝手に降りてきたのだ。

 ゲオルクでさえ人が搭乗して操っている中で、遠隔操作で飛行機が操縦できる機能など、彼は聞いたことがない。こんな技術は、この国にはない筈だ。


 傭兵を雇うにあたって懐事情の関係上、一番安かった彼ら選んだだけであったが。ひょっとして彼らは、ただのイロモノではないのではないかと、彼は密かに期待を寄せる。


「オラ、乗ってきたぞ。さっさと金寄越せや」

「ははー、お疲れ様です。いつもありがとうございますッ!」


 かと思ったら、中から普通にガラの悪い男が顔を覗かせた。しかもレッドは彼らに対してペコペコ頭を下げており、手渡しで金を握らせている始末だ。

 セメタスはズッコケた。


「さあ行くぞ悪党共ッ! 我らがカットビンジャー、お相手いたすッ!」


 白い機体に乗って垂直離陸を始めたレッドを見て、ドロシーが普通の疑問を抱いた。


「レッドというお名前で、何故白い機体なんですの?」

「ペンキ代がなかったんだッ!」

「……世知辛いですわね」

「な、な、何でもいいから、早く空賊共を追い出してくれェェェッ!」

「「「「委細承知ッ!!!!」」」」


 セメタスの声を受けて飛び立った四機の航空戦闘機が、リトルプリンセスを目掛けて突撃を始めた。

 なおイエローが乗る筈だった黄色い機体は、未だに着陸したままである。炒飯のおかわりがまだだからだ。セメタスはもう、怒る気にもなれなかった。


「みんな乗って、ズラかるわよッ!」


 追われたケイテがリトルプリンセスを操り、ロープを垂らしながら高度を落とした。地面スレスレに垂らされた紐に、ガールズハウスの面々が次々と掴まっていき、機体へと登っていく。


「アタイらの仕事の邪魔するたァ、いい度胸だ。可愛がってやれ、お前らァッ!」


 乗り込んだゴリが声を上げ、機関銃が放たれる。ドッグファイトの始まりだ。

 四機のファイブスターズと一機のリトルプリンセスは、撃ち合いながら会場を離れていった。


「よ、ようやく空賊共を追い払うことに成功しました。ご安心ください、皆様。奪われたものもすぐに取り返して」


 やっと落ち着いた、とセメタスが場を仕切り直そうとしたその時、追加で航空戦闘機の音がした。彼らが戻ってきたのか、と顔を上げた彼は、目を丸くすることになる。

 何故なら会場上空に現れたのは、真紅の航空戦闘機だったからだ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございますッ!

もしよろしければ評価、ブックマーク、感想やレビュー等、お待ちしておりますッ!

(=゜ω゜)ノ

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