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ロゼ・ワールド  作者: 鈴藤美咲
アスペクト
20/22

蒼、その日まで

 仰ぐのは、漆黒の空。

 見渡す景色に光は無し。


 タクト=ハインは今いる場所でじっとしていた。

 世界を越えて、ロトが来た。また会えたと、タクト=ハインは心を踊らせた。


 ーー此処でじっとしてろ。


 ロトはそう言って、タクト=ハインがいる場所から離れた。


 タクト=ハインは葛藤していた。

 ロトは何処に向かったのか。

 再会に浮かれて冷静な情ではなかった。ロトが向かった先が何処かをはっきりと聞いていなかった。


 ーーおまえを苦しめている根を俺が枯らす。


 ロトがいう言葉の意味すら理解していなかった。


 煩悩、試練、固執、確執。

 どれも思いあたる。ロトは何れかの為に、我が為に動いた。

 解っていれば、付いていった。

 例え止めるをしても、ロトは振り切るだろう。


 ロトの無事な姿。

 臆測、翻弄と心を揺すぶっても優先するのは其処だと、タクト=ハインは髪に手櫛をした。


 毛先から離した指先に冷たく硬い感触。

 タクト=ハインは指先に目を凝らす。銀色に発光した、小石の大きさの塊。


 ロトの欠片だと、タクト=ハインは思った。ロトが瞬間移動の際に撒き散らした“力の粒”が形を留めていた。


 ロトが持つ“力”は未知数。1度はこの世界で“力”そのものを狙われた。皮肉にも、今我がが身を置いているのはーー。

 タクト=ハインは銀色の粒を指先から地面へと落として靴底で踏み潰し、さらに何度も磨り潰す。

 奴らは例え粒子だろうと、手にすれば徹底的に分析をして更なる開発の材料にする。


 タクト=ハインは頭に掌を乗せて、髪を何度も叩く。ロトの欠片を一粒でも残さないようにと、タクト=ハインは髪を振り乱す。


「ふ」と、鼻で笑う声がして、タクト=ハインは顎を突き出した。


「ロトくん、いつから此処にいたの?」

「俺、何度もおまえに声を掛けたぞ。全然気付かない様子だったから、終わり頃を見計らうをしていた」


 タクト=ハインは膝を曲げて腰を下ろす。そして、背中を丸めて俯いたーー。



 ***



 タクト=ハインはロトと共に列車に帰り付く。


「カナコ?」

 列車の1両目の前でじっと立っている少女の姿を見たタクト=ハインは険相した。


「何? どうして? まるでこっちが厄介者みたいな言い草ね」

 カナコは顔を動かさずに、タクト=ハインをじろりと、見た。


「止めろ、おまえたち。お互いの言い分は列車の中に入ってからしろ」

 ロトは、タクト=ハインとカナコの険悪な情況を阻止した。


「ごめんなさい、ロト。タクト、あなただってわかっている筈よ。ロトはーー」

「カナコ、タクトを追い詰めるな。タクトの役割りはキミが考えている以上に重く、圧せられている。俺はひとつを、ひとつだけしか手助けが出来なかった。もっと手を貸したいが、俺がこの世界でキミたちがいう“力”をさらに発動させれば、キミたちがいる世界の均等が崩れる恐れがある」


「……。先ずは、身体を休ませよう。ロトくん、お茶を淹れるからまだ行かないで」

 タクト=ハインは、声を震わせていたーー。



 ***



 〔タクト、おまえの自由は誰が為にではない。自由は、時を悠する。志に勇、路は雄。時に心を澄ませ、駆けるをおまえならやり遂げられるを俺は信じる〕


 タクト=ハインは列車の個室で目を覚ました。

 ブラインドカーテンの隙間から溢れるあたたかく、まぶしい乳白色の光が室内を斑に照していると、タクト=ハインは目蓋を擦った。


 サイドテーブルに置かれていた1枚のメモ用紙を手にして、綴られる文章を読む。そして、二度寝をするかのように、ベッドに敷かれる掛け布団を被った。


 ロトは、帰った。ちゃんとした別れの挨拶を交わすこともなく、ロトは帰ってしまった。

 大の男が大泣きするわけにはいかないと、タクト=ハインは布団の中で膝を抱えていた。


 別れのかたち。永遠にと、願うは叶わない流れてしまった時の刻み。タクト=ハインは、思い出という記録を記憶に換えようと、堪えていた。


『まもなく、レッドウインド号発車です。ご乗車をされている皆様、引き続き車内でのひとときをご堪能されてください』


 車内アナウンスが聞こえると、タクト=ハインは被る布団を剥がしたーー。

今回も、ロトくんに出演をお願いしました。

トト様、ありがとうございます。

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