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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第三章 喪失編
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Sideセリ 異世界

「こちらになります」


 先ほど戦ったテラ選手のいるという待合室に案内してもらうと、そこにはテラ選手ともう一人、まだ幼さの残るダークエルフの少女がいた。

 シノブと同じ銀髪。女子高生くらいに見えるけれど同じくらいの年齢かしら?

 似ているような似ていないような。種族が違うから似ているように見えるだけということも考えられるけれど。

 この少女は一体……?


「ようこそいらっしゃいました。セリ様」

「おじゃまします。私の知っている少女について教えてもらえるという話でしたが……、ええと、テラさん。そちらの子は?」


 私はダークエルフの少女に目を向けて聞いた。


「こちらはディープブラッド第8王女リーゼロッテ・ヴォルドシュミット様でございます」

「王女様……ですか」


 言われてみると確かに。

 庶民ではとても手にすることのできないような明らかに上質な衣類と、そんな品のあるたたずまいをしている少女の横に控えているテラ選手のメイド服姿。

 一般的に想像される王女様と絵に描いたように一致するその情景に眩暈がしそうだ。

 まさかここで王女様とご対面するなんて……。


「リーゼロッテ様が是非あなたと話をしてみたいと」


 そういうとテラ選手はお茶の準備を始めた。

 王女様が一体私に何の話だろうか?

 私は不思議に思って再び少女へと目を向けると、突然少女がかわいらしい声をあげて笑い出した。


「…………何がおかしのでしょうか?」

「ふふっ、だってこれが笑わずにいられますか?お兄様はあなたに会うためにあれほど無駄な努力をしていたっていうのにまさかあなたの方からこの世界に来るなんて。セリさん。いえ、こう言えば分りますか?イージスの年増ナイト、セシリアさん?」

「……は?」


 なんでその名前を……だってそれを知ってるのはヴァルキリーヘイムにいた仲間だけ。その上私に向かって年増なんていうのは……。

 まさか……。

 思考が疑問の答えにたどり着こうとした瞬間、部屋の中にコップの割れる音が響き渡った。


「ま、まさかこの方がヴァレリア様のおっしゃっていた『姫』なる人物でございますか!?…………し、しかしヴァレリア様の持っていらっしゃった人形とは随分姿が違っているような気がするのですが……」


 テラ選手がカップを落として目を見開いている。

 紅茶は無残にも床にまけてしまっているが、どうやらそれどころではないらしい。

 それにしても……人形?


「あれはこの人自身がゲームのために創造した姿。テラにも分かるように言うならボードゲームの駒を自分の好きな形に作ってみたということです。つまりは所詮この年増ナイトさんの願望を形にしたものだったというわけです」


 も、もしかしてそれってセシリアのこと?

 た、確かにそうだけれども!


「ってさっきから人のことを年増扱いするその子はまさか……」

「ふっふっふ。そのとおり!何を隠そうリーゼこそこの世界におけるお兄様の最愛の嫁!ニーフェ改めリーゼロッテ王女殿下なのです!」

「やっぱり!でもなんであなたがここに…………、ということはここはやっぱりゲームの世界なの!?」

「違いますよ?セシリアさんは異世界転生という言葉をご存じありませんか?」

「異世界転生って確かトラックに引かれたり、病気で亡くなったときに発生する妄想的なアレのこと?」


 話に聞いたことはある。現代日本で死亡した場合、その記憶を持ったままさらに特別な力を得て地球とは異なる世界に生まれ変わるという夢物語。

 その際に現れる神|(笑)さまは宗教的な一面を欠片も見せず、もの凄く俗世にまみれた描写がされるところも宗教観の薄い日本人ゆえだろう。

 そしてその物語はその大半が終わらずに中断されてしまうと言われる呪われたジンクスを持っているらしい。専門家の間ではそれをエタると呼び、無責任の代名詞であるとする仮説も存在するが、現実はその仮説を蹂躙するほどにエタ作品は蔓延し、当たり前のようにみんなの隣に寄り添っている。

 エタるくらいならば書かなければいいのだ。本当にごめんなさい。


「そう、アレです。あれが何とリーゼたちにも起こってしまったのです」

「でもあなたたちって確か……」

「そうです。既にセシリアさんもご存じかもしれませんが、私たちはA.I.。つまりデータの塊にすぎませんでした。しかし、そんなリーゼたちを召喚するお馬鹿な人間たちがなんとこの世界にはいたのです」


 なるほど。神様ではなく召喚パターンなわけね。


「でもそれなら異世界転生じゃなくて異世界召喚じゃないの?」

「普通ならそうなったでしょう。でも考えてもみてください。リーゼたちに肉体はありません。だからリーゼもお兄様も初めはこの世界に来たものの魂だけの存在でした。しかしお兄様は気付いてしまったのです。召喚によってデータではなく魂となった私たちならば転生することでこの世界で本物の肉体を持てるのではないかということに!」

「それって……」

「そしてお兄様とリーゼはダークエルフの王女として生まれ変わりました。女として生まれてしまったことは誤算でしたが、もちろんお兄様も目的はただ一つです。悔しいですがお兄様の最愛であったあなたなら分りますよね、セシリアさん?」

「ま、まさか……」


 信じられない……、けど、もしかして全部私のために……。

 私は高鳴る感情を抑えきれずに涙を。


「ハーレムを築いて不特定多数の美少女たちとニャンニャンすることです!」

「殺すわ」


 流さなかった。


「おおう、凄まじい殺気ですね」


 いけない。思わず剣に手が伸びてしまった。


「お気持ちは分かります。しかしそんなお兄様の野望もこの世界の神々によって阻止されてしまうことになったのです」

「違う世界に来てまで何をやってるのよ、あの子は……」

「ちなみにセシリアさんの探しているシノブという少女はこんな姿じゃありませんでしたか?」


 そう言ってニーフェは絵画を取り出した。

 するとそこには確かに私がこの世界に来るまでの半年間、日本で一緒に過ごした少女であるシノブの姿があった。


「シノブ……」

「やはりそうでしたか」

「なら地球に来たシノブはあの忍の転生体だったっていうの?」

「そうなります」

「でもそれはおかしいわ!」


 そう、そんなはずがない。そんなことはありえない。


「だってあの可愛らしかったシノブはあの忍ほど下品でも気持ち悪くもなかったもの!」

「いなくなった元カレに対して死人に鞭を打つようなことを言うなんて恐ろしい女ですね。気持ち悪さについて否定することは絶望的に不可能ですが。ふむふむ、しかしその言い方ですとそのシノブさんは記憶を失っていたのではないですか?」

「え、ええ……」


 確かに私が最初に見つけたときにはすべての記憶を失っていた。


「そのシノブさんにシノブという名を付けたのもセシリアさんですよね?」

「そうよ…………、ダークエルフで女だったからその……何となく、だけど」

「何となく……ですか?」


 ニーフェが意地の悪そうな笑みを浮かべてこっちの様子を伺ってくる。

 うん、他意はない。決して同じダークエルフであったあの子に優しくすることで代償行為を行っていたわけではない。ないったらないのである。


「そ、それはいいでしょ!でもまさか本当にあの子が忍だったなんて……」

「おそらく記憶喪失が影響しているのでしょう。お兄様とて生まれながらにハーレムを夢見る変態ではなかったはずです。ただ童貞を拗らせた結果、あのようなありさまになってしまっただけなのです」

「そんな……」


 だとしたら世の中の童貞はみんなああなるっていうの?

 いや、そんなはずがない。忍みたいな人間はこれまで生きてきた中でも他に見たことがない。

 ということはもしかすると私の思っている以上に童貞が少ないってこと?

 まさか日本で童貞は忍だけだったってこと?


「今でも目を閉じれば思い出せます。セシリアさんのフィギュアをペロペロするお兄様の姿が」


 そう言ってニーフェは懐かしむように過去に思いを馳せているようだった。


「潰すわ」


 いけない。思わず手に力が入って剣の柄を握り潰してしまった。


「ところでセシリアさんはどうやってこの世界に来たんですか?」

「それは、あの子……シノブが黒い渦に吸い込まれそうになってたから、引き戻そうとして私も一緒に吸い込まれたのよ。だからあの子もこの世界に来ているはずなんだけど……」

「ふむ、そうですか。ちなみに私たちもまだお兄様の行方を掴めてはおりません」

「そう……なの」

「しかしお兄様の片割れは確認しております」

「え、片割れ?」

「これは私の推測になるのですが、お兄様はおそらくこの世界の神々によって封印されてしまいました。その際にお兄様の人格と、ヴァルキリーヘイムで戦ったアバター、そしてその神にも匹敵するエネルギーを持った魂が封印されてしまったのです」

「一体何をしてそんなことに……」

「お兄様はこの世界でも太刀打ちできる者がいないほどの力を持っていましたから、恐らく権力と力をもって世の美女、美少女たちを凌辱していく未来を幻視して嘆いた神々が封印したのかもしれません」

「あの忍がまさかそこまで……」

「童貞を拗らせていましたから考えられない話ではありません」

「まさかそこまで深刻な症状に……」

「しかし神々が封印するにも限界があったのでしょう。お兄様はその煩悩だけでも凄まじいほどのエネルギーを持っています。神様だってきっと本心ではそんなものに触りたくもなかったはず。だからこそお兄様のこの世界の肉体であるヴァレリアと、神月忍の肉体が封印を逃れることとなったのでしょう。そしてその一つが世界を超えてセシリアさんの傍にあったと」

「なんで私のところに?」

「セシリアさんはお兄様の脱・童貞のお相手となるお約束をしていましたから、それを引き金にお兄様の欲望は世界を超える力を得たのでしょう」

「そ、そこまでの約束はしてないわよ!」


 私が約束したのはその……リアルの世界で……ごにょごにょ……するだけだし……。


「そしてもう一つ、神月忍の肉体はこの大会に出てきています」

「え!?それは本当なの?」

「ええ、私が直接確認しましたから間違いありません。あちらも記憶がないようですが、今は美少女侯爵令嬢の奴隷となって戦っています。もしかすると大会で勝ったご褒美にニャンニャンしているかもしれません」

「捻じ切るわ」


 手の中のものがぐにゃりと折れ曲って金属部分がぶち切れた。

 剣の替えを用意しないと。


「というわけでここはひとつ、お兄様を元に戻すためにお互いに協力しませんか?」

「なんか戻さない方が世の中のためのような気もするけど……まさか見捨てるわけにもいかないわよね。解決策はあるの?」

「引き続きお姉様……セシリアさんがシノブと名付けた少女を探しながら神月忍の肉体を確保することです。ちなみにリーゼが神月忍の肉体に勝ったらそれをもらうことになっています」


 なぜだろうか。そうするしかないはずなのに、そうなったらそうなったで忍の肉体が心配で仕方がない。

 ニーフェは出会った頃から忍の貞操を狙っていたから。


「で、もらったらどうするの?」

「それはもちろん体の隅々まで舐めまわしてこねくりまわして無理やり貞操をごちになりましてリーゼの元気なお子を産んでもらいますわ。ぽっ」

「なるほど。じゃあ私はそれを阻止すればいいわけね?」

「なんでですか!協力してくださいよ!リーzごほんっ、お兄様のためにも!」

「さすかに昔の仲間を見捨てることはできないわ」

「とか言ってセシリアさんはなんだかんだお兄様のことが好きなんですよね?その年にになって未だにツンデレとか世間的にもちょっと控えておいた方がいいと思いますよ?きっと皆さんモニターの前で言ってるはずです。年増のツンデレとか誰得だよ!と」

「そう。辞世の句はそれでいいのね」

「じょ、ジョークですよ!イッツジョーク!リーゼたちが争っても百害あって一利なし!お兄様を元に戻すために協力しましょう!」

「どこまでその言葉を信用できるのか……」

「心外な!リーゼが今まで嘘を吐いたことが」

「息を吐くように言っていたわね」


 この口から出まかせに何度煙に巻かれたことか……。


「つまりはそういうことです」


 そう言ってニーフェはにいっと笑った。


「全くこの子は……」


 はぁ…………全く相変わらずのようで。でもこのこういったやりとりも懐かしい気がしてくる。

 しかし協力するにしても懸念が一つある。


「もし……だけど、それぞれを見つけて封印を解くことができたとして忍から分離していたシノブと神月忍の肉体に宿っている人格はどうなるの?」


 もしそれであの子がいなくなるのであれば私は選べるのだろうか。


「そうですね。人間ならば最も強い人格が表に出てくることになるのでしょうが、私たちの場合はたぶん混ざります」

「混ざる?」

「そうです。私もお兄様もそうですが、私たちは人格にDNAの影響を受けることがありません。過去の経験が私たちの人格を形成しています。ですからその経験や記憶が混ざり合うということは、人格が混ざり合うということになるのです」

「そうなの?」

「セシリアさんが何を心配しているのかは大体予想がつきますが、その心配は不要です。だって元々のお兄様も、セシリアさんと一緒にいた少女も、侯爵令嬢の奴隷をやっている男も全てお兄様なのですから。別人でも別人格でもありません。核が同じですからね」

「だったらあなたも……」

「いえいえ、私は違いますよ。だってすべてが同じじゃつまらないでしょう?神月忍によって定められた正式な工程を経て複製された核は変質するようになっているのです。全く同じものはできません。そのときの環境、時間、元となる核の経験、人格など様々な影響を受けるわけなんです。それが所謂私たちの人格に影響を与えるDNAとなります」

「だから忍の影響を受けたあなたも変態……」

「失礼な。これは経験により自力で獲得した個性です!」

「なお悪い気がするのは気のせいかしら……。まぁいいわ。私の方でも動いてみるわ」

「とかなんとか言いながら奴隷のお兄様と接触を図るつもりですね」

「そ、それは…………だって興味あるし…………」

「やめておいた方がいいですよ」


 今までと一転してニーフェが真面目な顔をして言った。


「それは……どうして?」

「あの人は自らの主人である清楚系お嬢様しか目に入っていませんから」


 その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた音がした。

明けましておめでとうございます。

そして全然定期更新できなくて申し訳ありません。

文章の書き方がときどき分らなくなってしまい、筆が止まってしまいます。

特に会話が続くとやばいです。

一人称を書くための良い教本でもあれば良いのですが……orz


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