第67話 ??才 バーサーカー
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
実は先々週PCがクラッシュする不具合に見舞われまして(言い訳ですごめんなさい)
「それでは一回戦の抽選を始めたいと思います!」
幻影魔法により壁に映しだされたモニターには闘技場で抽選している様子が映し出されていた。
今大会の第一回戦では選手たちは各国の控室に分けられ、そこで抽選の様子を見ることとなっている。
審判の男とともにいるのはフェアリー族の可愛らしいリングガール、ミィミィ・メイミィ。
見た目は完全に幼児にしか見えないが、庶民的アイドル『ミィミィ』として親しまれているらしい。
そのミィミィが審判に促され、中で光が渦巻いている透明なガラスケースに手を入れ、その光をつかみとろうと精一杯小さな手を伸ばしている。
「ん~~~~~!!!」
そんな可愛らしい声をあげながら手を握りこむとそこには手のひらほどの水晶球が現れた。
そして画面がその水晶球を拡大すると、そこに文字が浮かび上がってきた。
グランドハイト代表 シノ
どうやらいきなり俺の出番のようだ。
そしてミィミィはその水晶球を審判に渡すと、同じようにしてガラスケースからもう一つの水晶球を取り出して審判へと渡す。
「第一回戦第一試合の出場者が決まりました!栄えある初戦を飾るのは…………グランドハイト代表シノ選手!、対、シルバーフォレスト代表クリスティ選手です!」
審判がそう告げると会場が湧き上がり、控室では係の者が「シノ様、どうぞこちらへ」と、会場へ案内してくれた。
案内してくれている間にもミィミィと審判によるトークが聞こえてくる。
「これは戦い的にも見た目的にも組み合わせになりましたね!」
「片や奇妙な仮面に燕尾服の執事姿の漆黒の髪をした戦奴隷。片やその甘いマスクとは裏腹に苛烈な攻撃スタイルが人気を集めるロールキャベツ狂戦士!やはり女性としてはクリス選手を応援したいところですか?」
「なんのなんの!大人の女はシノ選手のようなミステリアスなところにも惹かれたりするのです!だからどっちも頑張るのです!ミ☆」
と、まるで子供のようなアニメ声が響き、会場が微笑ましい空気に包まれる。
しかしそんな空気は不要とばかりに審判はばっさりと切り捨てた。
「大変八方美人でビッチなご意見ありがとうございました」
「なっ、なんなんですか!?」
「それでは選手たちにご入場していただきます!赤コーナー!本戦でも素顔を隠して出場!エーデルハイト家の戦奴隷シノ!今宵もその華麗な動きで麗しきお嬢様へと勝利を捧げることができるのか!」
係の者の「どうぞ」という言葉に促され、俺は戦いの舞台へと足を踏み入れた。
さすが世界一を決める大会だけあって、観客数もさることながら、様々な種族たちで会場は埋め尽くされていた。
準備は万端。
お嬢様のためにもこの戦い、負けるわけにはいかない。
「む~!青コーナー!世界各国数々のおねーさま方を虜にする甘いマスクの冒険者エルフ、クリスティ!今日も血で会場を赤く染め上げるのか!」
対するクリスティ選手が入場してきた。
短剣を腰に二本指しているが、素直にそれを使うかは分からない。
エルフとは比較的なんでも使いこなす器用な種族だ。
さらにその種族特性は魔法に秀でているため油断ならない。
しかしそれにしてもこの男……。
「イケメンか」
「は?」
俺のつぶやきが魔法で拡張され、会場中に響き渡る。
「それが何だって言うんだ」
イケメンが不機嫌そうに返す。
「いやなに、この勝負もらったなと思ったまでだ」
そう言って俺は不敵に笑った。
「なんだと?なんでそうなる」
「お前は恐らく魅力にかなりの加護が割り振られていたのだろう。人一倍厳しい修練を積むことでそれを補ってきたことは想像に難くない。だからこそ加護の消えた現在、エルフの代表となるまでに台頭してきた。違うか?」
「…………ちがわないな。加護なんて消えてせいせいする!あんな理不尽なものの所為でどれだけ苦労させられてきたことか…………だがそれがどうした?それも全ては過去の話だ!加護の消えたこの大会では何の関係ない!」
「関係がない?笑止、魅力の加護を得ていたお前は万人が認めるであろう稀に見るイケメンだ。そして加護が消えたからと言って顔が変わるわけではない。だがイケメンとして生まれてきたことにお前はお前の人生における運という運をほぼ全て使い果たしていると言っても過言ではないだろう」
「なっ!?俺だって好きでこの顔に生まれてきたわけじゃない!」
「馬鹿ものがっ!童貞だって好きで童貞をやっているわけじゃない!」
「なん……だと……」
「人生において童貞を捨てられる者と捨てられない者、その両者にどれほど断絶した開きがあるかこの戦いでその身をもって知ることとなるだろう。さぁ!リリスお嬢様に捧げる勝利の礎となるがいい!」
そう言い放って俺は背中に手に持っていた両手剣を鞘から抜いてミィミィに鞘を渡した。
お嬢様からお預かりしたアイテムを粗雑に扱うわけにはいかない。
「ちょ!?お、重いのです!私は雑用係じゃないのです!」
「それでは30秒間後に試合を開始します!各自強化を含め戦闘準備に入ってください!」
審判の声にイケメンが反応して準備に入る。
「くそっ!言わせておけば!『パワーブースト!』『スピードブースト!』『タフネスブースト!』」
身体強化系の覚醒魔法を次々と唱えていく。
なるほど、魔法によって自らを強化して戦う魔法戦士というわけか。
対する俺は懐からポーション瓶を二本取り出してそのうち一本を一気に呷る。すると、一時的に力が増幅していく感覚が身体を駆け巡った。
今飲んだものはポーションオブストレングスと呼ばれるパワーブーストと同等の効果を発揮する高級ポーションだ。
そして二本目のポーションを半分口に含んで残りの半分を再び懐へと仕舞った。
試合開始まであとわずか。
剣を振りかぶってクリスティへと意識を向けると、視線がかち合った。
腰から二振りの短剣を取り出して逆手に持ち、まるで含みを持たせるかのようにニヤリと笑うクリスティ。
「それでは第一回戦第一試合……………………はじめ!」
俺にできるのは短期決戦のみ。
審判の合図とともに俺は『キック』を地面に向かって発動して急加速、そこから『ダッシュ』へと繋げさらに速度を上げる。
「『狂戦士化』」
なに!?
バーサークとは自らの理性を代償に身体能力を飛躍的に上げつつ、痛覚と恐怖心を失くして闘争本能のみの獣とする戦士用アクティブスキルだ。
クリスティの血走った目が高速で走り出した俺を捕らえる。
「きゃー!クリスくん素敵!抱いて!」
という黄色いノイズが観客席から上がってくる。うるさいので爆発していただきたい。
お嬢様の声援が聞こえにくいではないか。
「シノッ」という祈るようなお嬢様の声が多くのノイズに混じって僅か俺の耳へと届いた。これで負けるはずがない。なぜなら勝利の女神は俺についているのだから。
「一刀両断ッ!ダッシュスラッシュッ!」
ハイスピードを維持したまま『ターンステップ』により遠心力を持たせて剣を全力で振り抜いた。
バーサークを発動した相手を行動不能にするには、状態異常にするか、気絶させるか、殺すしかない。
凶暴化しているため中途半端なダメージでは止まらないからだ。
そして理性が残っていないためガードも回避もしない。
いくら魔法で筋力を強化したとはいえ、両手剣と短剣ではそもそもの重量が格段に違う。
スピードに乗る前に封殺してしまえばこちらのものだ。
ダガーとソードが交錯する。
このとき俺は勝利を確信していた。
しかし直後に手に全く予想のしていなかった衝撃が伝わってきた。
火花が散り、弾くには弾いた。
だが、軽く弾き飛ばせると思っていたダガーにソードの威力の大半が殺されてしまったいた。
こいつ、筋力だけじゃない!
ダガー一本がまるで俺の持つ両手剣に匹敵する重量だ!
質量が増幅する魔法効果を持っているのか!
「おおおおおおおおおおおお!」
雄たけびとともに威力の殺された剣に向かって二本目のダガーが振り抜かれた。
勢いが殺されてしまった状態ではこの一撃を受け流したところで素早く三撃目に繋げられて命をもっていかれる。
かと言って防御に徹してしまえばスタミナが一気に削り取られることだろう。
どうする?どうすればいい?
お嬢様のためにもこんなところで負けるわけにはいかない!
冷静に考えれば例え一撃の威力があろうとも、勢いを殺されてしまった現時点では火力で相手を上回ることは難しい。
ならばこちらも回転数を上げるしかない。
敵よりも速く!
「『換装!』」
装備がソードからトンファーへと切り替わった。
そしてトンファーでスキルは発動しないまま敵の攻撃をできる限りスタミナを消費しない最低限の動きで受け流していく。
敵の攻撃軌道を変えるというよりも相手の力を利用してこちらの体を捌く。
そうしなければ相手の攻撃を受け流すだけでスタミナを削り取られてしまうからだ。
「バーサーカーとなったクリスティ選手が猛攻を仕掛けるがシノ選手、華麗に捌いて当たらない!!しかし、シノ選手の後ろには今まさに壁が迫ってきています!シノ選手危うし!ここのまま追い詰められてしまうのか!」
このまま守っていても埒があかない。
相手の補助魔法が切れるまで粘るという手もあるが、それよりも早くこちらのスタミナが切れてしまうことだろう。
反撃に出るしかない。
俺は口の中に貯めていたスタミナポーションをゴクリと飲み込んだ。
これでまだ戦える。
しかしそう時間は残されていない。
スタミナが切れる前に決める!
俺は今までとは逆に敵の攻撃に対して正面からトンファーで殴りつける。
が、ダガーはまるで俺の攻撃などなかったかのように振りぬかれ、攻撃が大きく弾かれてしまった。
くそっ、なんて威力だ!右腕ごと持っていかれそうだ!
だが耐えきることができた!これで俺の勝ちだ!
そして弾き飛ばされたトンファーを強く握り込み、今までとは逆側へと遠心力を得て『ターンステップ』を発動して渾身の回し蹴りを放つ。
そう、狙いは顎だ。
古今東西痛みを失くした狂戦士の倒し方は、顎を穿つことにより激しく顔、しいては脳を揺さぶり、脳震盪を起こさせると決まっている。
重要となるのはその衝撃だ。
確実に脳震盪を起こさせるためにも、顎骨に対して垂直に硬い踵を振りぬくこと必要がある。
防衛本能を失った狂戦士に攻撃を当てるのは簡単だ。
だが…………。
踵に衝撃が走るとともに鮮血が飛び散った。
剣を弾いて素早くもう一刀で切り返してきた敵のダガーが俺のふとももを切り裂いたのだ。
圧倒的に防御性能の低い俺の足はまるでいとも簡単に切り裂かれてしまう。
なんとか骨には達していない…………がまともに歩けるような傷じゃないことだけは確かだ。
「うがあああああああああああ!!!」
相手はこちらの思惑通り脳震盪を起こして膝が折れたが、まだがむしゃらに腕を振り回そうとしている。
ここで決めなければ負ける!
「『換装!』すぐに楽にしてやろう!抜刀!延髄斬りッ!」
俺は無事な左足を軸に二度『ターンステップ』を発動して遠心力を増幅してまだ悪あがきを続ける敵の首もとに向かって剣を振り下ろした。
鈍い音とともに嫌な感触が手に伝わってくる。
そしてクリスティは遂に動かなくなった。
剣を地面に突き刺して足から血を流しながら肩で息をしている有様だが、俺は何とか生きている。
「一回戦第一試合!勝者グランドハイト代表、シノ選手!激しい接近戦を制したのはなんと劣勢の中、巧みに武器を持ち変えて戦ったシノ選手です!」
審判によって俺の勝利が告げられた。
今まで静まりかえっていた会場が一気に沸き上がり、拍手に包まれる。
正直スタミナもギリギリだった。
瞬間的に基礎スキルを発動したとしても三回発動したらスタミナが切れる。
そして四回目には意識を失ってしまう。
しかしスタミナポーションを口に含み、三回発動した後に飲み込むことでさらにスキルの使用回数を増やすことができる。
さらに高級ではない一般的なスタミナポーションは瞬時に回復するのではなく、飲んでから約五秒間かけてじわじわスタミナが回復していくという性質がある。
つまりその五秒間の間はその回復力を下回る程度の消費であれば何度でもスキルが発動できるため、SPの最大値が非常に少ない俺とは相性が良い。いや、そもそもレベルが上がっていればSPの心配をする必要もないのだが……。
しかしこの方法は長期戦に全く向かない。
守りに徹する相手ならば厳しかったかもしれない。
まだまだ課題もある。
だが今はこの勝利を素直に喜ぼう。
俺は痛みを我慢して仁王立ちになり、クリスティに向かって剣を向けて言った。
「お前の敗因はたった一つだ、クリスティ。たった一つの単純な答えだ。…………お前はお嬢様に涙を流させた」
観客席ではお嬢様が目に涙をいっぱい溜めてぶんぶんと首を振っている。
「な、なんということでしょう!確かにシノ選手の視線の先には涙を流すリリス侯爵令嬢の姿があります!」
これでこの男の評判は地に落ち、あの愛くるしくも庇護欲を駆り立てるお嬢様の評判はうなぎのぼることだろう。
すべてが計画通りだ。
「ところで傷の手当をしなくて大丈夫なのですか?」
お嬢様からいただいた鞘を不敬にも地面に落してその上に腰かけているミィミィがあきれ顔でそう言った。
足に目を向けると切られたところから相変わらず血がドバドバと流れ出ている。
「……………………よろしく頼む」
その後俺達は退場して治療を受けることとなった。
ちなみに殺生はお嬢様が悲しむので両刃の両手剣の片刃を潰していたためクリスティは死んでいない。
これがあの有名な「案ずるな。峰打ちだ」である。
先週更新できなかったので今週の金曜日に更新を予定しています。
そしてなんと次回は懐かしのあの人が大会に参戦!
きっと皆さんの予想を大いに裏切ることができるであろう相変わらずの超展開をどうぞお楽しみに。
皆さんの予想を外すことができれば作者が幸せになります(ドヤッ




