第65話 ??才 人体の神秘
旦那様に呼ばれたお嬢様はダークエルフの貴族あるいは王族と婚約するように言われたらしい。
「これは我々にとってかなり状況が好転してきていると言えるでしょう」
俺の言葉にアルマ様が眉をひそめる。
「なぜだ?ダークエルフなど変態貴族以上に危険な存在かもしれんぞ」
「それは旦那様の望む通りの結婚生活…………もしくは諜報活動をすれば、の話です。しかし実際にはディープブラッドに入国した時点でエーデルハイト家から出される指示に従う必要がありません。もし本当に王侯貴族に嫁ぐことになったとしても、旦那様の手の者と二人きりで会うことなど不可能なのですから」
「確かにエーデルハイト家の影響下からは逃れられるかもしれないが、その結婚相手自体がお嬢様に無体を働いたらどうする?」
「その時は逃げれば良いのです。仮にお嬢様が婚約者から逃げ出したとしても、グランドハイド王国からディープブラッド国内へ王国軍はもちろんのこと私兵を送ることさえも許されないでしょうから。そうなれば後はディープブラッド内における交渉だけで事は足ります」
「しかしそれでは敵がより厄介になるだけではないか?」
「そんなことはありません。血筋や産まれを重視する人間領であればお嬢様がどれだけ努力をして成果を出そうとも、旦那様の意向を退けるほどの発言力をもつことは困難です。しかし実力主義を徹底しているダークエルフ領であればやり方次第では我々の取れる選択肢の幅も広がります」
「実力主義とな…………おお、名案を閃いたのじゃ!!!」
キキの頭に電球がともった、ように見えた。
「…………なんですか、キキ。非常に嫌な予感しかしませんが一応聞きましょう」
「お前様が七国決戦で優勝すれば良いのじゃ!」
「ぶっ!」
キキの突拍子のない発言にアルマ様が唾を飛ばす。
俺はそっとアルマ様の口許にハンカチを当てて飛び出した唾の飛散を防いだ。
ここはお嬢様のお部屋ですからね。
「いくら『女神』が出場していないとは言えそれは難しいでしょう。ですが発想は悪くありません。ディープブラッドの出場者相手に善戦することができればお嬢様の婚約話も有利に交渉を進めることができるかもしれません」
そう、発想は悪くない。当然レベル1の俺が優勝できるなどとは思わないが。
アルマ様は俺の手を煩わしげに押しのけて口を開いた。
「とは言えあの国は化け物揃いだぞ。第一王妃であるにも関わらず実力で出場権をもぎ取った『紅蓮のエカテリーナ』。崩れることのない笑みを浮かべ、圧倒的な破壊力を以って全ての男を粉砕する『絶望のテラ』。剣の道を極め、その太刀筋を見た者はいないとまで言われる『無刃のエリーザ』。そしてそんな曲者揃いの中で今最も注目を集めているのが最年少出場者にしてディープブラッドのおいて最強の一角を担うと言われている『戦神の嫁リーゼロッテ12歳』」
「……………………は?戦神の嫁…………ですか?」
「ああ。恐らくはそう噂されるほどに強いのだろう」
「ちょ、ちょっと待ってください!戦を司るなどという神が存在するという話はきいたことがありませんが!」
ちょっと待て。これはどういうことだ。我々人間に伝承として残っている神々は、創造の女神エイオー、契約の神エルダス、守護の神ヘルム、魔法の女神ミストラ、夜の女神シャール、自然の女神シルヴィナス、愛の女神スーニー、犠牲の女神ロヴィアータ、隠匿の神イブランダル、嵐の神タロス、炎の神コスース、水の女神イスティシアだけだったはずだ。
「所詮二つ名だからな。称号のように現実と整合性が取れているわけではないのだろう」
「そ、そうですか。そう言われればそうですが」
その二つ名を聞いた瞬間悪寒が走ったのは気のせいだろうか……。
「と、ともかく少しでも良い結果が出せるように全力を尽くしたいと思います。どこまでやれるかは分かりませんが一応の策も用意してあります。そのために必要なものを用意していただいてもよろしいでしょうか?」
俺は気を取り直して、少しでも勝率を上げるべくお嬢様にお願いした。
「はい、あのお父様も家令に言えば必要なものは用意してくださると言っていました」
「それではお願い致します。必要なものは筋力、あるいはスタミナの上がる魔法装備と筋力制限ギリギリの両手剣、それに大量のスタミナポーションです」
「攻撃は最大の防御というわけじゃな!」
「そのとおりです。所詮俺のステータスであればどれほど守備をかためたところで相手の攻撃を一撃でも受けた時点で終わりですから」
「レベルさえ上がればなぁ……」
「アルマ姉。それは言わない約束でしょじゃ」
「そうです!シノにとってはステータスなんて飾りです!偉い人にはそれが分からないのですよ」
「分かりました。では私が七国決戦でステータスなど飾りだということを知らしめて見せましょう。お嬢様がエルフは黒いと言えば黒く焼くのが俺の使命です」
「お、お前様が黒いのじゃ……」
何を言っているのだろうかキキは?黒いのはエルフの肌だというのに。
「いやいやちょっと待て。お前のその比喩が一番お嬢様の言葉を否定しているからな」
何を言っているのだろうかアルマ様は?そうか。アルマ様の頭は筋肉だった。
「おい、不思議そうな顔をするな。そしてその哀れむような視線を向けるのをすぐにやめろ」
「シ、シノ、エルフは白くてかまいませんから……」
「さすがはお嬢様です。もしかするとお嬢様の感性は森羅万象と通じているのかもしれませんね」
「シノの病気が進行している……だと……!?」
「お前様はお嬢様ばかり褒めてずるいのじゃ!」
「キキもお嬢様を褒めた日にはおかずを一品増やしてあげましょう」
「お嬢様は天才なのじゃ!美毛なのじゃ!優しいのじゃ!女神様なのじゃ!」
「も、もう。キキったら」
「ついにまともな人間が私だけになってしまった…………」
「数多の男たちを粉砕するほど発達した筋肉の脳を持つアルマ様がまと……も……」
いけない。驚きのあまり思わず瞳孔が開いてしまった。
「まて!私はそんな脳筋キャラじゃないぞ!」
「ではさっそく家の者にかけあってシノの装備を準備してもらいますね!」
「お、お嬢様も否定してください!」
「え、ええっと……」
「すごいのじゃ!アルマはまっこと凄いのじゃ!儂ではどんなに頑張っても脳で雄を粉砕することなどできぬのじゃ!」
気まずそうに目を逸らすお嬢様と無邪気にはしゃぐ猫娘。
「私にもできるかっ!」
「さすがはアルマ様です。きっとその鍛え抜かれた脳の筋肉がお嬢様をお守りする日がきっと来るやもしれません」
暖かい目をアルマ様の方へと向けると、アルマ様から蹴りが飛んできたので余裕をもって回避する。
「くっ!」
そうだ、このようなお嬢様の平穏な日々を壊す者は許さない。
「なぜ私がこんな役割に!?なっとくいか―――――――――――ん!!!」
それが例え誰であろうとも。
そうして?俺の装備は整ったのであった。
名前 シノ
種族 人間
性別 男
職業 無職Lv1
筋力 10+4
体力 10
器用 10
敏捷 10+1
魔力 10
精神 10
魅力 10
スキル
なし
装備
両手 ダマスカスソード
頭 バタフライマスク
シャツ シルバーチェインシャツ
体 燕尾服
腕 燕尾服
足 黒の革靴
マント 黒のマント(疾風)
リング 力のリング
リング 力のリング
イヤリング 力のイヤリング
ネックレス 力のネックレス
更新が滞り、見放されてもおかしくはない中、メッセージや感想、レビューをくださった方々、また更新を待っていただいた方々には感謝の念が堪えません。本当にありがとうございました。
今後は毎週月曜日18時更新(余裕があれば金曜日も)を目標に連載を続けていきたいと考えています。
これからどうぞよろしくお願いします。




