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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第三章 喪失編
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第62話 ??才 サムライマスター

「先ほどの者は恐らく運だけで勝ちあがったのでしょう」

「そ、そうですね。あれであれば私でも勝てそうな気がしました」


 恐らくお嬢様の推測は間違っていない。それだけの実力を今のお嬢様は秘めているというのもあるが、あれはあまりにも弱すぎた。


「しかし次は先ほどのようにはいかないでしょう」

「だな。恐らくあの御仁はかなりの使い手だ」


 アルマ様の言うとおり、先ほどの試合を見た限り一筋縄ではいかなそうだ。しかもまだ実力を隠しているように見受けられる。


「カタナ使い……ですね」

「御前様、大丈夫か?」


 俺はキキの頭を撫でながら、お嬢様を安心させようと口を開いた。


「何度も言っているでしょう。俺は……」

「お嬢様の奴隷ですから、か?」

「…………他人のセリフを取らないでください」

「ふふん、私はお嬢様の騎士だからな」


 まるで勝ち誇ったような顔をするアルマ様。


「つまりすべての面においてお嬢様をサポートすることができる奴隷の方がよりお嬢様のお役に立つことができるというわけですね」

「な!?」


 そんなアルマ様を見ているとついつい意地悪をしたくなってしまうのはなぜだろうか。


「あの、シノ!こ、これを」


 唖然としているアルマ様を横で突然お嬢様が声をあげた。


「これは?」


 お嬢様から棒のようなものが入った大きな皮袋を受け渡される。


「やはりその、トンファーだけでは心配だったので……」

「お前まだ一度もトンファー使ってないしな」


 心配そうなお嬢様とは反対に、さっきのお返しとばかりにアルマ様が呆れ顔をして言ってくる。


「…………使っています」


 主に握りこみや重心の操作やトンファー補正に。


「私たちに剣を教えている様子を見て思ったのです。シノは元々剣を使っていたのではないかと」


 袋の口を開くと、大ぶりの剣が姿を表した。

 ……そうなのだろうか?考えたこともなかったが、正直思い返してみても自分ではよく分からない。

 しかしお嬢様がそう言うならばそうなのだろう。俺にとっての現実とは覚えていない過去などではなく、お嬢様が与えてくれた現在なのだから。


「ありがとうございます」


 俺はお嬢様から受け取った剣を背中へと吊るす。

 片手で扱うには少し重い両刃の剣。お嬢様が選んで下さったおかげか、その心地良い重みはまるで自分の体の一部であるかのようによく馴染んだ。


「生きて、必ず私の下へ帰ってきてくださいね」

「畏まりました」


 俺が生きて帰ってくることは最低条件である。

 勝利をお嬢様の手に。


 俺はそう心に誓いながらお嬢様に向かって深く礼をすると待機所へと向かって歩きはじめた。

 予選通過まであと一戦。絶対に負けられない。

 目を閉じて、名前が呼ばれるのを待つ。

 そしてついに俺の名前が呼ばれる事となった。


「実力もあるが運もある!二回戦を余裕の勝利で勝ち抜いたリリス・エーベルハルト侯爵令嬢に仕える正体不明の戦奴隷!シーーーーノーーーーー!!!」


 だから俺は戦奴隷ではないと何度言えば……。

 ため息をつきながらリングへ入場すると大きな声援をもって迎え入れられた。


「そしてその対戦相手となるのは…………華麗なるカタナ使い!実力派Aランク冒険者にして現在唯一のサムライマスター!ジェインズ・オルグレン!果たして謎の仮面男にトンファーを使わせることができるのか!」


 呼び声とともに浪人姿の男がリングの中へと入ってきた。

 両腰に二本の刀を挿し、無精髭をして一見軽薄そうにも見えるが、その歩行には一切の無駄がなく、頭がまるで流れるように一定の高さを保っている。


「勝利の女神はどちらに微笑むのか!それでは三回戦第二試合、はじめ!」


 司会者の合図と同時にトンファーを握り締め、ファイティングポーズを取る。


「シノッ!頑張って!」

「御前様!そんなおっさんやっつけてしまうのじゃ!」


 お嬢様たちからの声援が飛んでくる。


「なんともまぁ羨ましいねぇ」


 目の前の男が刀に右手を添えて言った。


「おじさんだってこれでも若い頃はモテたんだよ?」


 男の姿勢が下がる。


「でしょうね」


 答えながらも男から目を離さない。

 この構え、居合いか。

 ここまで勝ち上がって来るほどの実力者ならば見えてから防いでも間に合わない可能性が高い。


「声からして若いと思ったけど貫禄あるねぇ。その目、本当に懐かしいな。まるでこちらの動きが全て見透かされてるような気にさせられる」

「その構えを見れば誰でも予測がつくかと思いますが」

「ごもっとも」


 締りのない顔で話していた男の目が突然鋭いものへと変わる。


「でも君の場合はそれだけじゃなくて実は斬る場所まで視えてるんだろう?」

「だとしたらどうします?棄権しますか?」

「反則だよねぇソレ。ほんと、今頃あの化け物はどうなっていることやら」

「…………何の話をしているんですか」

「年を取るとよく昔のことを思い出すんだよ。さて、それと棄権するかどうかだけど…………すると思うか?」

「思いませんね」

「だよねぇ。それじゃあ観客を待たせるのもなんだし、無駄話もこれくらいにして始めようか」

「ああ、死ぬ気でかかってくるがいい」

「天狼旅団サムライマスタージェイ、して・まいる!」

 男が瞬間的に右足を踏み出した。

 想像を超える加速で男が迫ってくる。

 狙いは…………トンファー!?


「『抜刀ばっとう斬鉄ざんてつ』」


 武器破壊か!?


 即座にトンファーを引くが時既に遅し。

 服までは到達しなかったが、その切っ先は確かにトンファーを捕らえていた。

 火花を散らせながらトンファーが断ち切られる。

 凄まじい威力。凄まじい速度。ここまで勝ち抜いてきた実力は伊達じゃない。

 恐らくこの会場でも今の剣線を目に捉えられた者はほとんどいないだろう。


「『秘剣ひけん鏡映かがみうつし』」


 さらに男は左手で反対側に挿していた刀を抜き払った。

 その刀は右手の居合い斬りと対照的な軌道を描いて左手に持つトンファーを強襲する。

 右手で行った居合い斬りと全く同じ速度。

 右手で自ら行った『抜刀、斬鉄』の動きを左手でトレースするスキルか!

 俺の身体能力では避けられないのは明白…………ならば。


「トンファーキック!」


 トンファーが断ち切られることを覚悟して蹴りを放つ。

 男の左手中指を狙って。


 足からポキリと骨を折る感触が伝わってくると同時に自らの左手首から鮮血が飛び散った。


「ぐっ!」

「チッ!」


 大丈夫だ。斬られはしたが骨までは達していない。


「シノ!!!」


 お嬢様の悲鳴があがる。

 やはり視えていても避けきれないような速度の相手には相性が悪いらしい。こちらもそれなりのステータスがあれば良いのだが、如何せんスキルもレベルも上がらない。

 だから見えていたとしても、さきほどの攻撃をもう一撃受ける事はできない。

 しかし手がないわけではない。

 避けられないならば使わせなければ良いだけの話だ。


「トンファー投げっぱなし式……」


 素早く真っ二つに切られたトンファーを男に投げつけ、お嬢様から賜った剣を背中から引き抜いた。


(え)


 しかしその瞬間凄まじい違和感が俺へと襲い掛かった。

 それはまるで重い物を持とうと力を込めたら実は軽かったときのような肩透かし感。

 決して剣が軽かったわけじゃない。

 ただ手に剣が馴染みすぎただけ。


 お嬢様の奴隷になって以来、いや、記憶を失くしてから剣を手にするのは初めてだった。

 剣が両手に吸い付き、まるで手の延長であるような一体感に全身が満たされる。体の感覚に思考がついていかない。

 気が付けば俺は足を前へと踏み出し、自然に声をあげていた。


「ダッシュ、スラッシュッ!!!」


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