Sideお嬢様 叶わぬ願い
今日もシノに化粧をしてもらった。
シノが化粧をすると平凡な私の顔がまるで気の強いお姫様のようになる。
まるで自分の顔じゃないみたいだ。
だから私はシノが気の強い女性が好みなのだと思っていた。
しかしシノは自分の好みなど考えたことがないのだと言う。
私はその答えに少なからずショックを受けた。シノに女性として見ていないといわれたように感じたからだ。
いや、本当は分かっていた。今まではそれを考えないようにしてきただけ。
シノは奴隷としての仕事以外に興味がない。
屋敷にいる見目の良いメイドを見ても、アルマを見ても、キキを見ても、私の着替えを見ても何一つ反応がない。
いつも優しげな瞳で私のことを見ているだけ。
しかし私にそんな目を向けてくれるのも、シノが私の奴隷だから。それ以外に理由はない。
もしシノが私の奴隷でなければ、私なんか見向きもされない。
私の奴隷だからシノは私のために何でもしてくれる。
それが哀しかった。
もしシノに抱いてと頼んだら、抱いてくれるだろう。
私を連れて逃げてと頼んだら、そのとおりにしてくれるだろう。
私の奴隷だから……ただそれだけの理由で。
それがたまらなく悲しかった。
シノに愛して欲しい。
主人としてじゃなく一人の女として見て欲しい。
でもそれは絶対に叶わない夢。
シノを奴隷から解放すればきっと私への興味はなくなってしまう。
シノが離れていくくらいなら、このままでいい。
一生シノを離さない。
例えそれがシノの可能性を潰してしまうことになるのだとしても。
恨まれたって構わない。
それでも私が死ぬまでずっと傍にいて欲しい。
そんな私のところへ今日お父様から呼び出しがあった。
一年に一度くらいこういうことはある。
この間呼び出されたのは奴隷を買う許可を与えられたときだ。
最初で最後のプレゼント。
理由は大体想像が付く。
恐らく兄弟たちの誰かがお父様に頼んだのだろう。
私を虐めるための口実を増やすためだけに。
大方奴隷の失態を私の所為にするつもりだったに違いない。
それでも私は感謝している。
シノと出会わせてくれたのだから。
しかしその日お父様から信じられないことを告げられた。
私をエーベルハイト家の娘として貴族の下へと嫁がせるのだと言う。
今までそんな話は全くなかった。
この屋敷で死んでいくのだといわれていた。
しかし事情が変わったのだと言う。
不幸にも私のことは他の貴族たちには全く知られてない。
だからこそ私はエーベルハイト家の秘蔵の娘として価値が与えられたのだとお父様は言った。
シノに化粧を施された私を見てお父様は不快な笑みを浮かべて喜んでいた。
母親に似て美しく育ったのは思わぬ収穫だと。
お母様の顔なんて覚えてもいないくせに。
お父様から掛けられた初めての褒め言葉が、初めての期待が、こんなにも気持ち悪いものだとは思いもよらなかった。
シノ以外の男に触れられる。
考えただけで怖気が走る。
私にとって家族と言えるのはアルマとシノとキキだけ。
私がこの家を出る日は近い。
書いてたらなぜかヤンデレ気味になっててワロタ……ワロタ……




