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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第三章 喪失編
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第54話 ??才 悪夢再び

「大丈夫です。うちに来れば白いお米を食べて、綺麗な着物が着られますよ」


 そう言うとケットシーはより一層荒れ狂った。


「あれ?おかしいですね。こう言えば喜んで来ていただけると書物に書いてあったのですが……。仕方ありませんね」


 ケットシーが首を振り払う動きに合わせて手を離し、距離を取って対峙する。


「猫の躾その一『鼻先押さえ』」


 向かってくるケットシーの運動エネルギーがゼロとなった瞬間に鼻を押さえ、動けないように力を調整していく。

 ケットシーが力を入れた瞬間に手を引き、力が空まわったところで再び押さえ込む。


「親猫は子猫を躾けるとき鼻先を押さえるそうです。どうです?これで大人しく偶然にもテイムされてしまう気になりましたか?」


 その問いに対する返答は爪によって返された。

 しかしその爪は俺まで届くはない。

 片手を上げると言うことはそれだけバランスを取りにくくなると言うこと。そうなれば僅かに力を掛けるだけで容易に体制を崩すことができる。

 だから俺はそのままケットシーを地面へと引き倒した。


「猫の躾その二『スキンシップ』」


 両手を使ってケットシーの首下をわしゃわしゃと撫でる。


「まず仲良くなることが躾には重要だそうですね。どうです?これで大人しく偶然にもテイムされてしまう気になりましたか?」


 一瞬気持ちよさそうに目を細めたように見えたが、その問いに対する返答は尻尾によって返された。


「仕方ありません……無理強いはしたくなったのですが……」


 尻尾によるなぎ払いをバックステップで避けると、ケットシーが再び牙を剥き出しにして飛び掛ってきた。

 俺はケットシーの額に手を付いて跳び箱を飛ぶ要領で頭を飛び越え、股下を潜り抜ける前にケットシーの首に足を巻きつける。


「偶然にもテイムされてしまう気になっていただけたら、いつでも尻尾を振ってくださいね」


 そして身体を伸ばし、ケットシーの背中へと手を這わせる。


「猫の躾その三『ストレス解消』」


 猫はストレスが貯まると凶暴化するらしい。

 本来であればストレスの貯まる環境を改善してあげるのが良いとされているが、この状況ではどうしようもないので、強制的に解消するしかない。

 ストレスを解消してあげるということは欲求不満を解消してあげるということ。

 そして欲求と言えば性欲。

 猫は性欲の強い生き物であり、猫の尻尾付近の背中は猫にとって性感帯なのである。

 これは雄であっても雌であっても変わらない。

 最初はそっと優しく撫でつつ、敏感なところを探り当てていく。


「ギニャーーーーーーーー!!!」


 そして敏感なところが分かると、まるでじらすようにその周囲を触れるか触れないかという最も皮膚表面の触覚が鋭敏となる絶妙な力加減で撫で上げていく。

 ケットシーの息が徐々に激しくなっていくが、尻尾を振って降参する様子はない。

 仕方ないな……。

 俺は先ほど確認したケットシーの特に敏感なところへと手をやった。


「ニ゛ャッ!」


 そして一定のリズムを保ちつつ、猫の心拍数に合わせて敏感な箇所を何度も何度も撫で上げていく。


「ニャッ!ニャッ!ニャッ!ニャッ!ニャッ!」


 ぷるぷると足の力を失ってその場に座り込んでしまうケットシー。

 俺は両手を駆使してリズム良く撫で続ける。

 ここで重要となるのがリズムを変えないことらしい。

 快楽に合わせて激しくしていくのは一見利に適っているように見えるが、リズムの変化に相手の感覚が付いていかないことが多いそうだ。つまりそのギャップで醒めてしまう。

 だからそうするよりも一定のリズムをたもち続けることで、次に来る感覚を相手が想像し、期待し、そして期待通りに感覚が与えように仕向けていく。そうすることで快楽の波がどんどん膨れ上がっていく……らしい。

 しかしこのケットシーは本当に毛並みがいいな。

 お嬢様の御髪おぐしほどではないが、指の間をするりするりとすり抜けていく感覚は気持ちがいい。


「ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 気が付くとケットシーが甲高い泣き声を響かせていた。

 いつの間にか尻尾をふらふらと振っている。

 思わずやりすぎてしまったようだ。

 しかし世の中、手を上げて治療を中断してくれる歯医者はいないという話を聞いたことがある。

 ふむ。今後のためにも、この機会にしっかりと躾けをしておいたほうがいいかもしれない。





 躾が終わると会場は静まり返っていた。

 ケットシーの周辺は涙やら涎やら何やらで凄いことになっている。

 テイムはしたことがないので当然レベルは1だが、知識はあるので一応発動させる程度はできるはずだ。

 俺はケットシーに向かって右手を掲げてスキルを発動した。


「今この時をもって汝を我が友と認める。眷愛隷属テイム!」


 スキルを発動するとケットシーの額がジュっという音を立て、まるで焼き付けられたかのように赤い紋章が浮かび上がってくる。

 刃を下に向けてクロスされた二本の剣。

 見覚えのない紋章だ。

 何はともあれエフェクトが発動したということはテイムが完了したのだろう。

 額の紋章はケットシーの毛の下でぼんやりと赤い光を放っているため、その形が透けて見える。

 そしてそれは消える気配がない。

 俺はケットシーの額に手を当て、紋章の部分をそっと撫でてみた。

 熱くもないし、傷もないようだ。

 俺はしゃがみこんで、すっかりへばってしまったケットシーと視線を合わせて話しかけた。


「テイムしたことを証明しなければならないので背中に乗せていただけますか?」


 そう聞くとケットシーは弱弱しく頷いた。


「では失礼します」


 ケットシーの首の当たりに手をそえ、背中に跨ると、ケットシーは足をぷるぷるさせながら何とか立ち上がった。


「それではあなたが入ってきた入場口と逆側へ向かってください」


 ケットシーがよろよろと歩き始め、俺たちが入ってきた入場口へ向かうと、係員が鉄格子の扉を開けてくれた。

 そこを潜って待合室へ弱弱しい足取りで向ってもらうと、後ろから他の奴隷たちが後を追ってきた。


「お、おい!それ大丈夫なのか!」


 ドワーフの男がおっかなびっくりといった様子で聞いてきた。


「はい。『なぜか』『偶然にも』テイムが成功してしまいましたから」

「偶然ってお前……」

「つまるところ危険はないということです」

「シノッ!」


 お嬢様待合室へと飛び込んできた。

 それに続いてアルマ様も入ってくる。

 ケットシーから降りるとお嬢様が飛びついてきた。


「……心配……しました」


 お嬢様の目から一瞬光が零れるのを見た。

 どうやら俺は奴隷としてはまだまだらしい。


「無事で……本当に無事で良かった……」

「問題ありません。俺はお嬢様の奴隷ですから」


 お嬢様を落ち着かせるように背中を優しく撫でているとアルマ様が呆れたような顔をして言った。


「なんだあのめちゃくちゃな戦いは。途中から観客がドン引きしていたぞ」


 アルマ様は完全にあきれ返っているようだ。


「そ、そういえばどうしてその子はあんなに悲鳴を上げていたのですか?」


 お嬢様が顔を上げて不思議そうに訊ねた。


「それはケットシーのせいか……」

「お嬢様!あれはくすぐりです!お嬢様も脇をくすぐられると辛いでしょう!それと同じです!」


 アルマ様が俺の言葉を遮ってきた。


「そ、そうなのですか?」

「そうなのです!」


 そう言い切るアルマ様。

 そしてなぜか俺はアルマ様に耳を引っ張られて小声で話しかけられた。

 痛い……。


「馬鹿かお前は。今お嬢様に何を言おうとした。おぼこであるお嬢様を相手に猥談でも始める気か!」

「いえ、そういうつもりではなかったのですが……、そうですね。以後発言には気を付けます」


 お嬢様は確か今年で十六になる。年齢的には性に関する知識が多少なりともあるはずだが、アルマ様が教えてないのであれば他に教える者もいないだろう。

 アルマ様に耳を解放されたのでお嬢様の方へと振り返る。


「コホン……まぁ、その、くすぐり倒していたらテイムできてしまいました」

「そうですか……その子、どうしましょう?」

「俺はお嬢様の奴隷です。つまりこのケットシーもお嬢様の奴隷ということになります」

「危害はないのですね?」

「はい、その辺りはしっかり言い聞かせておきます」

「アルマ。その子を屋敷に連れて帰っても大丈夫でしょうか?」

「それは大丈夫でしょう。貴族の中にはビーストテイマーの冒険者を護衛に雇っている者もいます。それが奴隷であるならば、万が一にも間違いは起こりませんし、侍従長を通してご当主様に許可を伺っておきます」

「お願いしますね。アルマ」


 恐らくアルマ様の言うとおりだろう。エーベルハイト侯爵家の当主はお嬢様に対して無関心だ。つまるところ手を煩わせさえしなければ何も問題はないと予想される。


「あらあら、不幸にも汚らわしい奴隷が返ってきてしまいましたわね」


 待合室にリリィ様の嬉しそうな声が響いた。


「しかも汚らわしい魔物まで連れて」


 振り返ると騎士たちを連れて部屋へと入ってきていたレミィ様が俺たちを見下して嘲哂っていた。


「レミィ様。その……今夜はもうお暇をいただいてもよろしいでしょうか。シノを休ませてあげたいので……」

「ええ、いいわよ。せっかく生き残ったお似合いの汚い奴隷が死んでしまっては面白くないものね。それに新しくお前が飼うことになった汚い魔物も。お前が飼うのでしょう?だってお前にそっくりで汚いものね」

「はい……」

「あぁ汚い。本当に汚いわ。お願いだからその汚いものたちを私の傍には近づけないでちょうだいね」

「畏まりました……レミィ様」

「今日は面白いものが見れて実に気分がいいわ。滑稽で。見っともなくて。下賎な平民のお前には本当にピッタリ」

「……………………」

「ふふ、次も期待していわね」


 そう言い残してレミィ様は上機嫌に部屋をあとにした。


「ごめんなさい……シノ。弱くて何も言い返せない主人で本当にごめんなさい……」


 お嬢様が手をぎゅっと握りこみながら言う。よほど悔しかったのだろう。


「問題ありません。誰に何と言われようと俺はお嬢様の奴隷ですから」

「シノ……今夜はその……本当に……お疲れ様でした」

「俺はお嬢様の期待に沿えたでしょうか?」

「はい。いえ……シノは……私の期待を遥かに超える結果を出してくれました。誰も死なさずに……相手すらも殺さずに……。シノは本当に凄い人です。私なんかにはもったいないくらい……」

「そんなことはありません。お嬢様が望んでくれたからこそこういう結果になったのです。俺が超一流の奴隷であるということは、お嬢様が超一流の主人であるということです」


 そうだ。高みを望みながらも、奴隷である俺のためを思って口をつぐむお嬢様が主人であるからこそ、口に出さない望みを叶えることができるのだ。そういう主人であるからこそ想定を超える結果を出そうと思えたのだ。

 でなければ俺は言われたことしかできない二流の奴隷で収まっていたことだろう。

 それを説明するとお嬢様はようやく今日初めての笑顔を見せてくれた。


「くすっ。何ですかその理屈は」


 やはりお嬢様には笑顔が一番似合う。


 こうして俺たち三人と一匹による新たな生活が幕を開けたのだった。




「ところで、どうして会場は静まり返っていたのでしょう……?」

「お嬢様。その……愛でるための行為であったとしても過ぎれば毒となるのです。恐らく観客たちはシノの背中に恐怖を垣間見たのでしょう」

「愛でる……?確かに子供のころ、遊びでアルマにくすぐられて、言ってもやめてくれなかったのはとても辛かった覚えがありますが……」

「お、お嬢様。私とシノを同じにするのは止めてください。こいつのは鬼の所業です。悪魔の行いです。子供のいたずらとでは比べるべくもありません」

「心外ですね。俺はお嬢様を苦しめるような真似はしません」

「そうですよ、アルマ。それにあのときは本当に苦しかったんですからね」

「な、なぜ私が責められる状況に……、私の言ってることは間違っていないはずなのに……」

登場人物の名称変更に関するお知らせ

 リリィ・エーベルハイト>リリス・エーベルハルト

 リリィお嬢様からリリスお嬢様へと名前を変更しました。

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