表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第三章 喪失編
63/83

第53話 ??才 コロッセオは殺っせよって聞こえます

 俺たちが席について程なくすると対戦者たちがリングに入ってきた。

 初戦は冒険を生業とする剣士対リザードマン。

 観客席が一気にに沸き上がる。

 冒険者の年のころは30くらいだろうか。観客の声援からして闘技場の常連者か、あるいは有名な冒険者か。声援の中に混じる『剛剣』の言葉通り、男は両手持ちの剣を操り、力任せにリザードマンへと振り下ろしていく。

 その度に会場が沸きあがるが……。


「攻め切れていない」

「え?」

「恐らくあの冒険者は負けるでしょう」

「そんな……」


 お嬢様が再び冒険者へと目を移す。

 加護が消失した弊害か。恐らくあの冒険者は筋力に大きな加護を与えられていたのだろう。もし圧倒的な筋力があるのであれば、力技で敵を押し込んでいく方法は有効となっただろう。しかし筋力にそれほど差がなければ……。

 冒険者が少しずつ焦れ始める。

 そしてその一瞬の隙を突き、リザードマンが冒険者の手を剣で突き刺した。

 ああなってしまえば両手持ちの剣は使えない。

 残された道は……。

 結局男の奮闘虚しく、リザードマンにその身を貫かれ、自らの血で闘技場の土を染めることとなった。

 観客席からブーイングが飛び交う。

 恐らくあの男に賭けていた者は少なくないのだろう。

 そして冒険者の仲間たち、あるいは知り合いであろう者たちは動かなくなった冒険者に向かって泣き叫んでいた。


 お嬢様は目を逸らさずにその光景をじっと見ている。


「シノ……」

「大丈夫です」


 そう言ってお嬢様の背中をゆっくりと撫でる。

 少しでもその不安を拭い去れるように。


 冒険者の死体が運び出されると、その後も闘いは様々な組み合わせによって行われた。

 冒険者対剣奴。魔物対魔物。剣奴対剣奴。そして剣奴対魔物。

 戦う前から明らかに勝敗の決している組み合わせも珍しいものではない。

 力のない剣奴は会場を盛り上げるためだけの贄として使われるしかないのだろう。


「さて」


 今日の催しも佳境に差し掛かってきたところでレミィ様が声を上げた。


「せっかくですので皆様がお持ちの奴隷を飛び入りで参加させてみてはいかがでしょう?」


 きたな。


 レミィ様がそう言いながら貴族側の観客席を見渡すと、貴族の一人が立ち上がった。


「良いですな!今宵はわしのところからも出しましょう!」


 そしてそれに呼応したように貴族たちが次々と立ち上がる。

 このような流れになるのは初めてではないのだろう。

 奴隷は確かに財産である。

 しかしいらなくなった奴隷を廃棄することもある……というわけか。

 レミィ様はお嬢様を見下ろして言った。


「当然、お前も出しますわよね?」

「…………」


 お嬢様が不安そうにこちらを見る。

 コクリ。

 俺がお嬢様に向かってしっかりと頷くと、お嬢様はレミィ様に返事を返した。


「……はい。シノ……どうか無事で……」

「畏まりました」


 そして貴族たちの所有する奴隷が集められた。どうやら共闘させられるらしい。

 執事服を着た俺。獣人の中年男性。人間の少年。ドワーフの男。そしてハーフエルフの女。総勢5人。しかし俺以外の状態は良くない。

 片手を失った獣人。やせ細った少年。頭髪を失ったドワーフ。足の不自由なハーフエルフ。

 どう見ても戦力になりそうにはない。

 そもそも獣人と少年とハーフエルフは俺にすら怯えている様子である。

 これではとても戦えない。

 そしてコロッセオに用意されている武器は種類こそ多いものの粗悪品ばかり。

 状況は最悪である。


「おい。お前ら。せめてこれを使え」


 それを見かねたドワーフが獣人と少年とハーフエルフにボウガンを押し付けていく。


「お前らでもそれぐらいはできるだろう。無抵抗で殺されるんじゃねぇぞ」


 そして自分はフレイルを持ち、俺にはハルバードを押し付け、俺にだけ聞こえるように小声で話しかけてきた。


「おい。あいつらを囮にして敵を殺すぞ」


 ……なるほど。相手が人であれ魔物であれ、遠距離武器を持っている者は無視できない。であれば、相手は遠距離武器を持っている者を制圧できるチャンスがあればそれを逃しはしないだろう。

 しかし……。


「お断りします」

「あ?なんだと?」


 あの者たちが相手に向かってボウガンを放てるとは思えない。

 いや、それ以前の問題だ。


「言われたこともできないのが三流。言われたことしかできないのが二流。主人の真意を読み取り、実現できてこそ一流。ですが俺は超一流の奴隷ですから」

「何を言ってるんだお前?」

「お嬢様はあなたたちの死を望んでいません。だからこそあなたたちは生き残ることができます」

「…………は?」

「おい、お前たち。出番だぞ」


 ドワーフが呆けたところでコロッセオの者が時間を告げにきた。


「さて、参りましょう。ここ、コロッセオはエンターテイメントの場所らしいですから」

「お、おい!」


 ハルバードを担いで歩き出すとドワーフが着いてくる。

 そして他の奴隷たちはコロッセオの者たちによって会場へと無理やり連れ出されていく。

 円型闘技場に出ると、強い光が目に飛び込んでくる。

 闘技場の中はまるで昼のようだ。

 観客席の方も闘技場ほどではないが照らされており、最前列にいるお嬢様とアルマ様がよく見える。

 不安そう見ているお嬢様へと手を振ると、お嬢様も小さく手を振って返してくれた。

 相手はまだ見えない。

 先ほどから見ていたが、コロッセオに司会者も審判もいない。

 場を盛り上げるのは観客の歓声だけ。

 そう、場の空気と歓声だけで場は十二分に熱を持っていた。

 その歓声が今は静まり返っている。

 まるで死神の入場を迎え入れるかのように。

 そして遂に俺たちの対面から相手が姿を現した。


 …………猫?


 黒く、巨大な猫だ。

 毛並みが長く、こちらを見て唸り声を上げている。

 その姿が現れた瞬間コロッセオが歓声で包みこまれた。


「ひぃ!け、ケットシー……」


 ハーフエルフが呻くようにその名を口にした。


「ケットシーだと!?」


 ドワーフの顔が真っ青になる。

 無理もない。

 ケットシーといえば魔獣に分類される魔物で、成体になるとレベル40を超えるようになる。

 少なくとも奴隷が相手になる魔物ではない。

 これは骨が折れそうだ。しかし相手が一匹だけというのはありがたい。


 ケットシーが入ってきた時点で試合は始まっている。

 俺はハルバードをその手に持ち、ゆっくりとケットシーへと歩み寄った。

 その光景に観客たちが息を飲む。

 そしてケットシーが飛び掛ってくるだろう間合いへと足を一歩踏み入れた瞬間、ケットシーは牙をむき出しにして飛び掛ってきた。


「……うわあああああああああああああああああああああ!!!!」


 俺はハルバードを放り投げて一目散に逃げ始めた。


「く、来るな!来るなよ!あっちにいけ!餌はあっちにいっぱいいるだろう!」


 そう言って逃げながら他の奴隷たちを指差す。


「はぁ!?お前何言ってやがる!」


 ドワーフが唖然となって声を上げる。


「ひぃ!助けて!誰か助けてぇ!」


 お嬢様たちと立てた作戦。それは貴族から見てみっともない奴隷になること。

 お嬢様は例外として、貴族は外聞を非常に気にするもの。

 万が一にもレミィ様が俺を欲しがらないように。そしてレミィ様が見下しているお嬢様と俺がお似合いであることを印象付けるために、俺はわざとらしく手足をバタバタさせてみっともなく逃げ回る。

 ケットシーから繰り出される爪を絶妙によろけながらも回避。

 だが逃げながらもケットシーの運動能力。反射神経。行動パターン、そして癖を分析していく。

 そしてこれが次へと繋げるための布石となる。

 ケットシーとの距離を僅かに取り、飛び掛りを誘発する。


「あっ!うわぁっ!」


 飛び掛ってくるケットシーの位置と移動速度を計算して派手にすっこける。

 身体が前へ進む慣性を、身体を沈めることにより回転エネルギーへと変え、踏ん張った右足を支点に左足を後ろの思い切り振り上げる。

 偶然にも踵がケットシーのテンプルをかすめるように。

 そしてそのまま地面に頭から突っ込んだ。


 執事服が汚れてしまったが、この際仕方がないだろう。

 俺は何とか体制を立て直して、恐る恐るといった雰囲気を醸し出しながら振り返る。

 するとそこには昏倒したケットシーの姿があった。


「ハハッ!なんだよ!大した事ないじゃないか!」


 そう言って小物っぷりを演じながらよろよろと立ち上がってハルバードを拾いにいく。

 するとドワーフの男が声を掛けてきた。


「お、おい、なんだか知らねぇがチャンスじゃねぇか。殺るぞ」

「ハッ!調子のいい奴だな!あいつは俺の獲物だ!」


 捨て台詞を吐いてドワーフを置き去りにして駆け出した。

 ハルバードを後ろに溜め、今にも振り下ろそう……と言うところで再び盛大に躓いた。

 そしてまた偶然にも俺の頭がケットシーの額を穿ち、昏倒していたケットシーがギャン!と声を上げて目を覚ます。

 その滑稽な様子に会場は笑い声に包まれた。

 勢いよく頭から突っ込んだ俺は、頭を支点に身体が回転し、偶然にもケットシーに覆いかぶさり首から抱きつく形となった。

 『偶然』とは恐ろしいものだ。


「ガッ!ガウ!ガウ!」


 ケットシーが俺を振り下ろそうともがくが、しっかりホールドした腕は外れない。

 そして俺は小声でケットシーに声を掛けた。


「このまま暴れながら聞いてください。あなたが言語の理解できるケットシーとお見受けした上で話をさせていただきます」


 ケットシーは魔物の中でも知能が高く、言語を理解すると言われている。

 しかし相手は魔物。言語を理解できるからと言って実際に会話を試みた者はケットシーをテイムしているビーストテイマーくらいなものだろう。


「あなたと私の能力差を分析した結果、あなたに勝ち目は万が一にもありません」


 これは真実だ。

 レベルもスキルもステータスもこのケットシーには及ばないだろう。しかしそんなものは俺とケットシーとの実力差からすれば誤差でしかない。

 ケットシーは一瞬動きが停止するものの、再び激しく暴れ始めた。

 ケットシーの身体は人よりも大きく、力も強いため、俺は勢いよくびゅんびゅんと振り回される。


「そこで相談なのですが、偶然にも俺にテイムされてもらえませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ