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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第三章 喪失編
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第52話 ??才 見え透いた罠

 そんなことがあった数日後の朝、お嬢様の着替えを手伝っているところへ無断で侍従が入ってきた。


「きゃあ!」


 侍従は女であったが、驚いたお嬢様が悲鳴を上げたので俺はお嬢様の身体をその侍従から見えないように立ち塞がった。

 しかしその様子を意に介した様子もなく侍従は口を開く。


「レミィお嬢様からの伝言です。今夜、コロッセオに参りますので、リリスお嬢様も同行するようにと」

「わ、分かりました」

「では失礼致します」


 用件を伝えにきた侍従は言葉遣いこそ丁寧であったが、その目は見下していることが明らかであった。


「コロッセオ……」


 侍従が部屋を出て行くとお嬢様は呟くように口にした。


「剣闘士や冒険者、魔物、そして戦闘奴隷を戦わせる娯楽施設ですね」

「奴隷……それじゃあもしかしてシノを……」

「お嬢様のお考えどおり、俺を戦わせることが目的でしょう」


 あのレミィ様がただの好意でお嬢様をお誘いするとは思えない。

 そしてお嬢様のような貴族は当然のこと、騎士も戦いを見世物にすることはない。

 となると、今回のターゲットは俺だろう。


「それならシノには屋敷にいてもらえば……」

「それも恐らく無理かと思います。出発する際に俺がいなければ、無理やりにでもお嬢様に俺を連れてくるよう迫るでしょう」

「そんな……」

「お嬢様」

「シノ……」


 お嬢様が悲しみを含んだ目を俺に向ける。

 だが。


「とりあえず服を着ませんか?」

「は、はい……」


 お嬢様は下着姿となっていたことを思い出し、頬を赤く染め、顔を伏せた。

 恐らく着替え途中だったことを忘れて下着姿のまま話をしていたのが恥ずかしかったのだろう。


 お嬢様の身支度を終えると、俺たちはいつも通り朝食を取ることにした。

 朝食を食べながら、お嬢様が今朝あったことをアルマ様に説明していく。

 するとそれを聞いたアルマ様は僅かに眉をひそめて言った。


「それはまたなんとまぁ……分かりやすい……」

「どうすれば良いのでしょう……」

「実質拒否権はないでしょう。お嬢様はシノのことを気に入っておられますよね?」

「え?……、は、はい……」

「となると、最悪のパターンは奴隷の剥奪ですね。現状で言えば、レミィ様は旦那様に頼むだけでシノをお嬢様から奪うことができます。そしてお嬢様には新たな奴隷が与えられれば旦那様の中では丸く収まったことになります」

「そんな……」

「お嬢様に対する嫌がらせがエスカレートするか、あるいはシノへの興味が膨らめばそうなる可能性は十分に考えられます」

「それはつまり……………………」




 そして遂に約束の時間が来た。

 俺たちは屋敷の入り口にてレミィ様を待つ。


「シノ……」


 お嬢様が不安そうな目で俺を見上げる。


「大丈夫です。何も問題ありません」


 そう返事を返すと肩に強い衝撃が走った。

 振り返るとアルマ様が笑っている。


「痛いのですが……」

「相変わらず緊張感のない奴だな。もう少し可愛げがあっても罰は当たらないと思うぞ」

「可愛げがないのはアルマ様も」


 そう言いかけたところで今度は足に痛みが走る。

 まるで人の体重でもかかっているかのようだ。


「……なんでもありません。俺の勘違いでした」


 とどのつまり、アルマ様も女性である……ということらしい。


「そうか。何を勘違いしていたか私には全然全くこれっぽっちも予想がつかないが、過ちを気づくのは良いことだ」


 そうこうしているうちにレミィ様が三人の侍従と五人の騎士を引き連れて現れた。

 当然のことながら先日連れていた騎士とは違う。それは装備の質やその足運びを見ただけでも一目瞭然である。

 そしてレミィ様は俺たちを見つけると侮蔑の眼差しを向けてきた。

 どうやら視界に入れるのも嫌らしい。


「本日はお招きいただきありがとうございます。レミィ様」

「そういうおべんちゃらはいらないわ。私はあなたと仲良くするつもりはないもの。貴族は平民に施しはしてもその手を取ることはないでしょう?」


 暗にご当主様とお嬢様の母上様のことを言っているように聞こえるのは考えすぎだろうか。


「そう……でございますね……」


 お嬢様もそれを感じ取ったのか表情が暗くなった。


「それじゃあ行きましょうか」

「はい……」


 レミィ様たちは豪華な馬車へ、そして俺たちは普通の馬車へと乗り込み、コロッセオへと向かうこととなった。

 日が落ちたばかりということもあり、街中は仕事を終えた市民たちの喧騒で溢れかえっていた。

 そしてそれはコロッセオに近づくにつれ、次第に大きくなっていく。

 程なくしてお嬢様が口を開いた。


「アルマは剣闘を見たことがあるのですか?」

「はい。名のある冒険者が参加することもありますので。騎士の中には参加する者こそいませんが、見学する者は多いですね」

「参加自体は誰でもできるのですか?」

「はい。コロッセオはやはり見世物としての側面が強いので、飛び入りでの参加やアクシデントは受けられる傾向にあると言えるでしょう」

「ですがやはり……その……賭け事の場でもあるのですよね?アクシデントで結果が覆ったりしたら怒る人もいるのではないでしょうか?」

「もちろんいます。ですがコロッセオはそれを含めての賭博であると誰もが理解しています」

「そうなのですか……」


 お嬢様が不安そうに俺の方を見る。


「大丈夫です。何も問題ありません」


 そう言うと、お嬢様は少しだけ笑顔を見せてくれた。

 喧騒が少し遠ざかったところで馬車が停止する。


「さて、到着したようですね」


 俺は先に出て、馬車から降りるお嬢様を支えるべく手を取った。


「お嬢様。お手を」

「はい」


 俺たちが降りたのはコロッセオの貴族専用口。

 周囲には俺たちと同じように馬車から降りる貴族たちがいた。

 レミィ様は馬車から降りて、その貴族たちから挨拶を受けている。

 もちろんその中にお嬢様へと挨拶に来る人間はいない。

 レミィ様への挨拶の波がひとしきり途切れるのを確認すると、俺たちはレミィ様のところへと向かった。


「では行きますわよ」

「はい」


 お嬢様が返事をすると、レミィ様は俺たちを引きつれてコロッセオへと入っていった。

 明かりの照らされた石造りの通路を抜けると、巨大なホールへと出た。

 直径にして二百メートルはあろうかという円形闘技場。そしてその周囲に数万人は収容できるであろう観客席が三段にも広がり、天井は吹き抜けとなっている。

 そして俺たちが座るのはその最前列。

 目の前には貴族側の席のみを守るために作られた魔法障壁が広がっている。

 しかも日が落ちたというのに、外壁上部から魔法具で照らし出すことにより、余すことなく闘技場の全容を観客に曝け出していた。

 その余りの異様な光景にお嬢様は息を飲み込んだ。

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