第46話 十二才 学園でびぅ
目標レベル5を全員上回ったボクたちはその場で解散して家に帰り、次の日制服に着替えてそれぞれ学園に戻った。
「それでは今から全員のレベルを測定する、呼ばれたパーティーは前に進み出ろ!」
学年主任であるゲオルグ教官の指示により、レベルの測定が始まった。
同級生全員の見られながらの測定。
なにあれ。恥ずかしすぎる。
発表されていくみんなのレベルは大体9~16くらいに収まっていた。
学園に入る前からレベルが上がっている人もいれば、学園に入るまでレベル1の者もいたことだろう。
神の祝福が解けなければレベルが上がることはないのだから。
「次!イージスの楯前へ!」
ついにボクたちの番が回ってきたか!
ふっふっふ、今度こそ!今度こそボクの時代が!
今までのことは全部忘れてもらおう!
リーゼロッテが異世界転生チート主人公であるものか!
俺がチート主人公だ!
などとドヤ顔をしているとランドワーズ教官に怒鳴られた。
「ヴァレリア!早く前へ出ろ!」
「ひゃい!」
焦って裏声で返事をしながらも前に進み出ると、既にみんな一列に整列していた。
うぅ、恥ずかしすぎる。
そして一人ずつ腕輪型の魔法具を嵌められ、レベルを測定されていく。
「ベルガッタ・!レベル25!」
おぉ……と周囲にざわめきが走る。
しかしあの筋肉。誰もが納得する筋肉レベルだろう。
「バリスタ!レベル23!」
ベルガッタのときと同様、周囲で声が上がろうとした。が、こともあろうにバリスタは威嚇にてそれを遮った。
その様子に吹き出しを付けるとしたら「あ?なに見てんだ?やんのかコラ?」と言った感じである。
その姿はまさに公害を撒き散らすDQNそのもの。
クククッ、リア充爆発するがいいわ!
「リーゼロッテ!レベル24!」
きゃー!と黄色い声援が上がる。
男のみならず女の子すらも頬を染めてリーゼロッテのことを見ている。
この無気力感を全面に押し出したようなやる気の欠片もない半目のどこがいいんだ。
凄く納得できない……。
しかしリーゼロッテの人気もここまでだ。今度はボクがみんなの視線を集めて魅せる!
み、みんなのし、視線を……。な、何か変な汗出てきた。
腕輪を嵌められた腕がぷるぷると震え出す。
そしてランドワーズ先生がボクのレベルを公表した。
「ヴァレリア!レベル32!」
辺りに沈黙が走った。
あ、え、も、もしかして何か不味かった……のか?
強張った顔で周囲を見渡すとみんなが息を飲むのが分かった。
「随分と殺してきたようだな。ヴァレリア」
ランドワーズ教官が珍しく満足そうな顔でそう言った。
レベルとは存在力である。
つまり短時間にこれだけレベルが上がったということはそれだけ生物を殺してきたということに他ならない。
でもボクは……。
「全然足りませんでした」
この一週間を思い出してへこんでしまう。
はっきり言ってボクは三度の飯より戦いが好きだ。
今回冒険者になって魔物と戦うことができたのは本当に嬉しかった。
ジャックザリッパーとの戦いは胸躍るものであったし、ゴブリンに囲まれる状況にはニヤリとものがあった。
それでもヴァルキリーヘイムで戦いに明け暮れていた頃に比べて戦闘時間が圧倒的に短い。
なぜならこの世界の魔物には生態があり、その数に限りがあるからだ。
ゲームのように無限にリポップしてくるようなことはない。
だから必然的に戦う時間よりも魔物を捜し歩く時間の方が長くなってしまう。
もちろん戦いがなければ生きていけないというわけではない。
ボクには家族がいるし、リーゼやセフィ、そして日本で待ってくれている姫たちもいる。
それでもやっぱり物足りなさを感じてしまうのだ。
そんなボクを見てランドワーズ教官は眉をひそめた。
「ほう?学園のほうにはお前がボス級モンスターを討伐したという報告が入ってきているが」
ちょ!冒険者ギルド!守秘義務とかないのかよ!
あ、もしかして冒険者ギルドとシルフィードって連携してるのか?授業にクエストを組み込むくらいだし、ありえない話ではないな。
しかしこれは思わぬアピールチャンスが来た!ここでボクが「あの程度大したことはない」と余裕アピールしてチート主人公であることを知らしめればちやほやされる薔薇色の学園生活が待っているに違いない!
そう、ここはあくまでクールに。キリッ!
「母さんの特訓に比べたらボスとの戦いなんてちょちょいのちょいですよ!」
そう。あのベッドの上での勝機の欠片すら見えてこない絶望的な戦いに比べたらゴブリンリーダーとの戦いなんて赤子の手を捻るようなもの。
あれ、なんだろう……思い出したら涙が出てきた。
っといけないいけない。今は泣いているときではない。
なぜなら、ここはアッピールチャンスなのだから!
ボクは無理やりに笑顔を作って笑ってみせた。
にぱっ!
「そ、そうか……いや、すまん。思い出させて悪かったな」
あ……あれ?
なぜかランドワーズ先生に謝られてしまった。
周囲を見るとなぜか同情的な生暖かい視線が飛んできているような気がする。
なんで?
「あ、うん。もう戻っていいぞ。お前ら」
「「「「はい」」」」
ゲオルグ先生に促されるまま、ボクたちのパーティーは元いた場所に戻った。
あれ、おかしいな。黄色い声援は?頬を染めた女の子たちはどこにいったの?
そしてなぜかバリスタが頭を撫でてくる。
おいやめろ。男に頭を撫でられたって嬉しくないんだよ。
頭を振るってバリスタの手を弾く。
そうだよ。どうせ撫でられるなら春のやわらかな日差しを受けつつ、姫の柔らかなおひざの上に頭をのっけて……ぐへへ。
「お姉様」
妄想しながら同級生のレベルを聞き流していると、リーゼが声を掛けてきた。
せっかくの妄想の中の姫といちゃいちゃしてたというのに。
「なんだよ」
「気づいていないかもしれませんが、『かりちゅま』の影響で精一杯強がってる女の子みたいになってましたよ」
「なん……だと……」
か、かりちゅまあああああああああああああああ!!!
お前もうそれ単なるステータス異常じゃないか!
くっ!駄目だこの職業……、早く転職しないと……。
「っておい!ボクたちもう転職できるじゃないか!」
たった今気づいたよ。最初の転職レベルは確か20だったはずだが。
「そうですね。ちなみにお姉様以外転職していますけどね」
「……え…………ええっ!?」
これは授業で習ったことなのだが、職業とは流動的な世界の理である。
つまり水が上から下へと流れるのと同じように、この世界に存在する者へは適正な職業へと転職することができるような仕組みとなっている。
そしてその転職先を決めるのが神だ。
例えばメイドマスターであるセフィは、メイドマスターになるための条件を満たし、その行動によって夜の女神シャールからメイドマスターへの転職を賜った。
仮にこのとき、意図せずなりたくない職業の条件を満たしてしまったことしても、意に沿わない転職が与えられることはほとんどないらしい。
最初に流動的という表現をしたが、これはその時代によって存在する職業が異なることを示している。
例えば王族などいない時代であれば『プリンセス』などという職業はなかった。それが王族という存在が現れることにより『プリンセス』という職業がこの世界に発現したというわけだ。
つまり世界は必要になれば新しい職業を生み出していく。それを含めて世界の理なのだそうだ。
「気づいていたなら早く言ってくれよ…………で、ちなみにリーゼは何に転職したんだ?」
「ダークプリンセス。略してダクプリです」
「格好いいなおい。クラススキルは?」
「『魔性』です。単純に人の心を惹きつけて、理性を失わせ易くするパッシブスキルですね」
「ナニソレコワイ……」
だからさっきこいつには黄色い声援が飛んできてたのか。なんてうらやま!
「あくまで気持ちを後押しする程度の能力なので、他人の気持ちを無理やり変えたりはできませんけどね」
ふむ、言われてみれば。
「確かにボクはお前に対して魅力の欠片すら感じないな」
うん、全く感じない。これっぽっちも。
「酷い……ぐすん。やはりここは強力な魅了魔法で無理やり……」
泣き真似をしたリーゼが手をわきわきさせつつ、じりじりとにじり寄ってくる。
「お、おい、やめろ……話せば分かる。話せば分かるから」
ボクの制止を聞かず、リーゼがさらに一歩踏み出してきた。
「言葉を交わす時間はもう終わりを迎えました。ここからは身体で会話する大人の時間です。うふっ、さぁお姉様……めくるめく快楽の世界へと共に旅立ちましょう!『精神魔法!チャームパー……』」
そう言ってリーゼが詠唱しながら飛び掛ってくる。
「お前らいい加減にしろ!!!」
「「はい!」」
ランドワーズ先生の怒鳴りにボクたちはすぐさまその場で並んで正座した。
目をうるうるさせてもうしませんアピールに努める。
それを見た先生は呆れた顔をして言った。
「次はないぞ」
「「イエスマム!」」
こうしてボクの貞操は守られたのであった。




