第45話 十二才 クエスト凄惨
結局ボクたちの頑張りによりゴブリンの集落は壊滅することとなった。
「信じられません。本当にめちゃくちゃですこの人たち……」
リーゼのキュアマインドによって正気を取り戻したベルタが頭を押さえて嘆いている。でも……。
「一番敵を殺してたのも、一番死体にオーバーキルしてたのもベルタだけどな」
「あれはヴァレリアが触ったからですよ!」
ベルタが起き上がって抗議する。
「ついでに言えば一番仲間を殺しそうだったのもゴブリンじゃなくてベルモーテだけどな」
バリスタなんて何度殺されそうになったことか。
「う…………」
「まぁそのおかげで何とかなったんだからいいじゃねーか」
「と、被害者の方が申しておりますが?」
と言って加害者を横目で見た。
「ごめんなさい……って何で私が謝らなければいけないんですか!」
いや、謝るくらいはしても罰は当たらないんじゃないかな。
自分で制御できなかったとは言え何度もバリスタを殺しかけたわけだし。
それにしても……。
「今回の戦いで一つ気が付いたことがある」
「突然何をですかお姉様?」
「ボクたちには圧倒的に指令塔が足りてない!」
「確かに始終力押しでしたね」
そうだ。そうなのだ。とりあえずバリスタとベルモーテが戦い、それをリーゼが援護している間にボクが正面突破して敵将を討って相手を恐慌状態に陥らせる。
そんな連携もなにもあったものじゃない作戦とも呼べないような行動、委員長に見られたら後ろからどつかれるレベルだ。
「とはいえボクとバリスタは指揮とか無理だし、ベルタは暴走するし、リーゼに指揮権なんて握らせたら絶対遊ぶだろうし」
「私が暴走するのはヴァレリアの所為ですけどね」
「なら今度から触らないから指揮官やってみるか?」
「この調和のないパーティーの?冗談じゃないですね」
と、ベルタは呆れた顔で口にした。
いや、否定はしないけどさ……。
とまぁ、はっきり言いうとボクたちはみんながみんな脳筋である。
「そういうのができる奴がいたら誘ったらいいんじゃねぇか?」
バリスタの言う通りだ。
別に今のパーティーで完成しているわけではない。
今は余っている学生はいないが、これから先パーティーから抜ける者、追い出される者、そしてパーティーそのものが解散する場合も出てくるだろう。
いざとなれば引き抜けばいいだけだし。その辺はリーゼに任せればうまく騙し……説得して連れてきてくれるだろう。
「そうだな。とりあえずそれまではパーティーリーダーであるボクが指揮権を持って、交戦か撤退かくらいは指示するよ」
「「「異議なし」」」
「それじゃあゴブリンたちの部位を剥ぎ取ろう」
ゴブリンは基本的にアイテムの素材になったりすることはない。そのため討伐の証として左耳を切り落として袋に詰めていくのだ。
それはゴブリンリーダーも同様で、ヴァルキリーヘイムのように大量のドロップ品が手に入るということはない。
しかし高レベルモンスターの臓器素材は、代償魔法の素材として有用である。
だからボクはゴブリンリーダーから残った左眼を抜き取り、瓶詰めにして袋へと入れた。
心臓などの内臓は素材としての性能も高いが、嵩張るので持ち運びには適さない。
一応物理的容量以上にアイテムを入れることのできる魔法のバッグも持ってはいるが、それにも限度というものがある。
なぜなら、容積が変わっても重さが軽くなるわけではないからだ。
ただでさえテントや生活用品を入れてバリスタに持たせているのに、さすがにこんな巨大なゴブリンから心臓を取り出して追加するなんて悪魔の所業はボクにはできない。
そういうわけで眼球だけ瓶に入れて自分で持ち歩くのだ。
そしてもちろんゴブリンの集落からは、金目のものを片っ端から拝借していく。
とは言え、さすがにゴブリンだけあって、使えるものはほとんどなかった。
「とりあえず次いくか」
「そうですね。まだまだ依頼は残っていますから」
それからボクたちは期日まで敵を狩りまくった。
そのおかげでジャックボアもウルフもバグマッシュも討伐数が規定に達した。
それを可能にしたのがバリスタの料理スキルであった。
ボクもリーゼもベルタも、女勢ははっきり言って食べられるレベルの料理を作ることができなかった。
つまりボクたちは一昔前の料理が絶望的に苦手なヒロインポジションだったというわけだ。
しかしそんな中なんとあのバリスタが凄まじい料理技能を発揮してくれた。
特にジャックボアを使った肉オンリーのバーベキューは好評で、その味は肉食獣リーゼロッテを虜にするほどであった。
見た目が不良で口が悪いけど実は優しくて仲間想いで料理が出来るとか乙女ゲーの攻略キャラかよ!
今は不良みたいな外見で浮いてるけど、こいつは将来絶対リア充になるタイプに違いない。
今のうちは爆発してろ、ケケケ。
また女の多いパーティーであったが、意外とみんな潔癖ということはなく、風呂には入らず濡らした布で汚れを落す程度だった。
だからベルタの裸も見ていない。
ボクの心が男ってことは既にバレてるので、身体を拭う際も隠されるのである。
しかしこれで汚いと思うことなかれ。
冒険者ともなれば、長期間風呂に入れなくて当たり前なのだ!
洗濯?もちろん出来るわけがない。
変えの装備や下着なんて持ってくる余裕なんてないし。
しかも結構動いて汗をかくから普通に汚れる。
でも貴族や王族は別として、みんな現代日本ほど衛生的な生活を送っているわけじゃないからあまり気にはしない。
しかしなぜかダークエルフの汗は甘い匂いがするらしく、ベルタに羨ましがられたりすることもしばしばあった。
ギリギリまで敵を探してさまよっていたので街に着いた頃には既に日が沈みかけていた。
そしてボクたちは存分に汚れたまま、大量の討伐素材を魔法のバッグへと格納し、冒険者ギルドへと訪れたのであった。
なぜか男ども顔を赤らめてこちらを見ている。
あれか?ダークエルフの匂いに当てられたのか?
自分で自分の匂いはよく分からないが、何でもこの甘い匂いは性的欲求を刺激するものらしい。
しかしバリスタには全然影響がないようだが……。
もしかしてこの歳でもう枯れてるのか?
それとも全く色恋沙汰には全く興味がないっていうのか?
可哀想な奴め。ボクなんて毎日のように姫とあんなことやこんなことをする妄想ばかりを繰り広げているというのに。
まぁいい。今は周りの雄どもよりも報酬だ。
「こんばんは」
「い、いらっしゃいませ」
この間の狐耳をした美人受付嬢さんがボクたちを出迎えてくれた。
心なしがビクビクしているように見えるのはきっと気の所為に違いない。
「クエスト報告に来ました」
「畏まりました。冒険者証の提示をお願いします」
「はい」
ボクたちは冒険者証を受付嬢さんに手渡した。
「ジャックボア討伐、ウルフ討伐、ゴブリン討伐、バグマッシュ討伐ですね。証明部位の提出をお願いします」
「他のモンスターのもついでに渡していいかな?」
「はい、構いませんよ」
「バリスタ」
「おう」
バリスタがカウンターの上で討伐部位格納用の魔法のバッグを逆さにすると、次々とモンスターの部位が溢れ出てきた。
「きゃああああああああああああ!!!」
それはもうカウンターからこぼれて波となって受付嬢さんへと襲い掛かるかのように。
あほ!いきなり全部出す奴があるか!
全力で後ろへ逃げた受付嬢さんはなんとか気を持ち直すと、他の職員も集めて部位の確認を始めた。
ゴブリンの左耳×124
ゴブリンシャーマンの左耳×21
ゴブリンリーダーの左耳×1
ジャックボアの牙×38
ウルフの牙×64
グレイウルフの牙×20
バグマッシュの核×53
バグベアの左耳×12
ジャックザリッパーの牙×1
うむ。我ながら頑張と思う。何が大変だったかと言えば当然剥ぎ取りだ。死体からいちいち証明部位や使えそうな素材を剥ぎ取るのは本当に手間がかかった。
「…………は?」
受付嬢のお姉さんが呆けている。あ、可愛い。
「ボス級モンスターが二体も……」
一緒に証明部位を数えていた職員の人も唖然としている。
ちなみにボス級モンスターというのはゴブリンリーダーとジャックザリッパーである。
ジャックザリッパーとは猪型モンスター『ジャックボア』のレイドボスであり、口に大鋏のついた全長五メートルはあろうかという大型の猪だ。
その鋏の切れ味は凄まじく、その突進力が加われば樹木すら薙ぎ倒すほどであった。
ゴブリンリーダー同様ボス級モンスターは普通1パーティーで戦うものではない。十分に作戦を立て、数十人体制で討伐に当るものなのだ。
ジャックザリッパーの討伐はゴブリンリーダーよりも遥かに時間を要した。大型の猪であるジャックザリッパーは全身が分厚い筋肉に覆われているからだ。
だからゴブリンリーダーのように急所狙いの瞬殺という方法が取れなかった。
討伐するためにはまずその突進力を生み出す足を潰した。全力で寸分違わず同じ箇所を四度切りつけることでようやく足を一本切断させるに至った。
後は機動力を大幅に失ったジャックザリッパーをじわじわと追い詰めるだけだった。
ボクが正面切って敵の攻撃を引き受けながらも反撃し、ボスの後ろからリーゼたちが攻撃を繰り返す。
これを数時間続けることで遂にジャックザリッパーは動かなくなった。
ボクにもっと攻撃力があれば違ったのだろうが、今の低い筋力と低いスキルレベルではこれが限界である。
「あは、あはははは……」
受付嬢さんが泣きながら笑いはじめた。
「す、すみません!すぐに担当を変えますのでしばしお待ちください!」
そう言って受付嬢さんは他の職員の人に引き摺られていった。
え…………。
「だ、大丈夫かな……」
「なーかしたー。なーかした。おねーさまがーなーかしたー」
「うえ!?ボクの所為なのか!?」
「状況的に否定できませんね。ボスを狩ったのはヴァレリアですから」
「いやいや、冒険者なんだからボスを狩ることだってあるでしょ!」
「計画的に狩ることはあっても偶発的に狩ることはねぇな」
「たまたま出くわしたからという理由でボスを狩るのは世界広しと言えどヴァレリア様くらいのものです」
「そんな!?セフィまで!?」
「例えばヴァレリア様があっさり葬ったゴブリンリーダーでさえ、一人で挑むならばレベル八十以上は必要と言われています。本来であればそれほどに強力なモンスターなのです」
「まじでか……」
そうか……、つまりボクは非常識に強くなってしまっていたのか。
これが転生チートの恐ろしさ。ということはこれが知れ渡って、街の女の子たちに……いや、世界中の女の子たちにちやほやされちゃったり黄色い声援を浴びちゃったりということも……!なんてな!なんてな!
「お姉様、お顔が破滅しています」
「くっ!」
いけない。ポーカーフェイスだ、ポーカーフェイス。だらしない顔を見せてしまっては全国にいるボクのファンが悲しむかもしれない。(※妄想継続中)
そうこうしているうちに新しい職員さんが現れた。
仕事を受け継いだのはどうやら中年の男性職員のようだ。
これはきっと何かの間違いだ。間違いだと誰か言ってくれ!
受 付 が 男 と か 誰 得 だ よ!
「お待たせしました。すぐに清算させていただきます」
「は、はい……」
ボクはがっくりと項垂れ、事務的に清算手続きを取ってもらった。
「クエスト報酬は2340G、モンスター討伐報酬は36942G、続きましてランクアップの話をさせていただきますが、その前に……今回のボス討伐は皆様方のみで行ったものですか?」
「そうです」
「そうですか……。なら異例ではありますが皆様の戦闘ランクをCに上げさせていた……」
C!?今がFだから三段飛ばしも!?
「いや、ちょっと待て」
しかしそこでバリスタが職員の言葉を遮った。
「ボス討伐はほぼヴァレリア単独によるもんだ。俺たちにCランクの実力はねぇ」
「た、単独……ですか!?」
職員が驚いて声を上げた。
「そうですね。分不相応なランクを宛がわれるのは逆に迷惑です。まぁリーゼロッテにはCランクに上がるだけの実力があるでしょうけど」
しかしそれを聞いたリーゼが悪魔のような笑みを浮かべた。
なぜだろう。嫌な予感しかしない。
「いえいえ、ここはお姉様をひとり仲間外れにするためにもリーゼは辞退する流れに乗ることにします」
「いやいやいやいや!それはおかしいだろ!何その流れ!?そんな流れとか必要ないから!」
なんでそこまでしてボクをぼっちに仕立てあげようとするんだよ!
「というわけで、ボスの査定はお姉様独り……つまりこのヴァレリアっていう冒険者証にだけ反映させてください」
「か、畏まりました」
「いや、そこ畏まるなよ!それならボクもいらないから!おい!やめろ!流れでランク決めていいのか!まじでやめて!やめてください!みんな仲良く一緒に上がろうよ!ボクもみんなと一緒がいい!頼むからボクも仲間に入れてよおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
しかしボクの訴えも虚しく、ボクだけ大きくランクアップすることになってしまうのであった…………。
[冒険者証]
名前 ヴァレリア
種族 ダークエルフ
性別 女
年齢 12歳
職業 サマナー
冒険者ランク F
戦闘ランク C
クエスト実績 受注4回 達成4回 失敗0回
クエスト達成率 100%
名前 リーゼロッテ
種族 ダークエルフ
性別 女
年齢 12歳
職業 メイジ
冒険者ランク F
戦闘ランク E
クエスト実績 受注4回 達成4回 失敗0回
クエスト達成率 100%
名前 ベルガッタ
種族 オーク
性別 女
年齢 12歳
職業 シールダー
冒険者ランク F
戦闘ランク E
クエスト実績 受注4回 達成4回 失敗0回
クエスト達成率 100%
名前 バリスタ
種族 人間
性別 男
年齢 13歳
職業 ファイター
冒険者ランク F
戦闘ランク E
クエスト実績 受注4回 達成4回 失敗0回
クエスト達成率 100%
[ステータスカード]
名前 ヴァレリア・ヴォルドシュミット
種族 ダークエルフ
性別 女
戦歴 1戦1勝0敗0引分(1連勝中)
職業 養殖プリンセスLv32
筋力 8
体力 4
器用 6
敏捷 9
魔力 12
精神 6
魅力 5
スキル
大鎌Lv64
ガードインパクトLv55
受け流しLv60
ブリングLv51
ターンステップLv66
ダッシュLv68
索敵Lv52
罠察知Lv34
追跡Lv50
ステルスLv58
召喚魔法Lv37
代償魔法Lv31
変身魔法Lv22
時空魔法Lv21
性奥義Lv69
Ex神我顕現
Ex殺刃
Csかりちゅま




