第43話 十二才 ダークエロティックローブ
野営の準備のために店へ向かうと、ボクとバリスタはリーゼたちからテストを受ける事になった。
何でもボクたちの知識を試すのが目的らしい。
当然野営などしたことがなかったボクであったが、生まれながらにして持つ完全記憶能力をフル活用し、パーフェクトな解答をしていった。
「嘘はいけませんよ。ダメダメだったじゃないですか」
「地の文にツッコミ入れるなよ!」
くっ!相変わらずメタ発言の多い奴だ!
「でもさすがに寝袋はないですよ、ヴァレリア」
……野宿と言えば寝袋でいいじゃないか。
「その辺まだ不良少年の方がまともでしたね」
リーゼがニィっと笑ってこっちを見る。
「少年言うんじゃねぇよ。それにあんなもん常識だろうが」
不良は否定しないのか。というか十三歳は紛う事なき少年だから。
「皆様分かっておられません。ヴァレリア様ほどになれば寝袋に入ったままでも竜を討伐することが可能なのです」
「無理だから!そんな無理矢理なフォローとかいらないから!」
何でも寝袋を使うと、戦闘態勢まで移行するのに時間がかかる……とのことらしく、基本はテントとマントで夜を過ごすらしい。
トイレはどうするかって?美少女はトイレに行きません!なんて言えたらいいんだけど……。
いや、それにしても冒険者ってホント大変なんですね……。
「と、とにかくこれからの方針としては今日のところは第四交易街道方面の宿屋で一泊して、それから出発ってことでオーケー?」
「「「異議なし(わん)」」」
それからボクたちは宿を取ってその日はもう休んだ。
ふわふわじゃないベッドで寝るのって何年ぶりだろう?
魔族との戦争以来かなぁ。
…………………………………………ぐぅ。
「……ぇさま。お姉様。起きないんですか?はぁ……、仕方ありませんね。それでは目覚めに爽やかで濃厚なベーゼを…………むちゅー」
「だが断る!」
気配察知のスキルが危険を感知して目が覚めると、目の前にリーゼの顔が迫っていたので、手で押して遮った。
「相変わらずつれないですね、お姉様」
「お前寝込みを襲うとかそれ普通に犯罪だから」
「大丈夫です。ディープブラッドの法律では無罪ですから」
「そうだった!……じゃなくて、ここはディープブラッドじゃないから!」
「そんなことを言いながらお姉様だって寝てるシャルのほっぺたにちゅっちゅしてるじゃないですか」
「あれはいいんだ!家族にするチューだから!でも今のはどう見たって口にしようとしてただろ!」
「ふふふっ。そうやって自分の都合ばっかり押し付けてるといずれ年増ババァに愛想を尽かれてしまいますよ」
「な……に……」
「大丈夫です。そんなコミュ症なお姉様をリア充である年増ババァが受け入れなくとも、リーゼが受け入れてあげますから。主に下半身で」
「下ネタは禁止だと言っておろうに!」
そう言ってベッドから立ち上がり、腕を振り上げたところでドアが開いてベルタが入ってきた。
「朝から元気なのは結構ですけど、準備は済みましたか?」
ぎぎぎっと首を動かすとベルタと視線が合った、と思うとベルタの視線が少し下を向いた。
その視線の先を辿って見ると、そこにはボクの身体が……。
「これから冒険に出かけるというのにまるで男を誘いにいくような下着ですね」
「ぐはっ!」
仕方ないじゃないか。ダークエルフの下着はダーク系。パジャマはネグリジェって決まってるんだから。
そうだ。ボクが悪いんじゃない。これはボクの趣味でこの下着をつけてるんじゃなくて、たまたまダークエルフの標準的な下着がボクの趣味と合致しただけだ。
「さぁお姉様!はしたない下着を身に付けてはしたない魔物どもに皆殺しにいきましょう!」
「…………変態ですね」
そう言ってベルタは蔑んだ目でボクを見た。
「え!?ボクが!?」
なんて理不尽な世の中なんだ……。
ボクは心の涙を流しながら、何度ももたついて普段の装備に着替えることができた。
ボクの冒険者用の装備は黒くてエロエロなスリットの入ったシルクのワンピースローブ。胸元は大きく開き、全体的に高級感のある純白のレースが程よく施されている。靴は黒曜石より削り出されたハイヒールで太もも辺りまで髑髏模様の黒いレースタイツが伸びており、肩は大きく剥き出しになっているものの、二の腕から先はワンピース同様のデザインのシルクが手首まで伸びている。そして黒水晶を使った透明な大きいバラの髪飾りが銀髪の魅力をより一層引き立てていた。
「お姉様!ところ構わず押し倒してしまいたいくらい素敵です!」
「…………どこの娼婦?」
「あんまりだ!」
ベルタに再び蔑んだ目で見られてしまった。
「それ、防御力あるの?」
「一応これでも磨耗、衝撃、対水圧、防水性、通気性向上の付与魔法がかけられていて、多少破れても自己修復機能が働いて勝手に修繕される優れものなんだ……けど……その……」
「で、防御力は?」
ベルタにじっと目を見つめられ、思わずそらしてしまった。
「え、偉い人は言いました。当らなければどうということはない、と」
「…………別にヴァレリアがそれでいいならいいですが、座学の授業中クラスの中で一人だけ体操服着てるくらいには浮きますよ」
「ぷぷっ、それならば全然問題ないではありませんか。何と言ってもお姉様が浮いてるのは服装だけではありませんから」
「おい!それ大丈夫じゃないから!てか、ベルタだって前まで完全ローブ姿の不審者だったろう!」
「そんな私でさえ許容できるレベルを遥かに超越していたので」
「さぁ、行きましょう!超浮遊要塞お姉様!」
「やめて!ごめん!ボクが悪かった!お願いだから制服に着替えさせて!」
「ちなみに制服は昨夜セフィに撤去してもらいました」
「わん!」
と、誇らしげな顔をする犬セフィ。
「ちょ、ドヤ顔するな!全然いい仕事してないからな!」
「まぁまぁ。その服を選んだのはお姉様ではありませんか」
「そ、そうだけど!そうだけれども!」
確かにこの装備を選んだのはボクだ。自分好みの装備を選んでいったら気がつけばこうなっていた。ちなみに防御力、魔法防御は見た目どおりほぼなく、ステータス補正もない。
「って何お前は聖職者みたいなローブ着てるんだよ!」
リーゼを見ると、神聖な白いローブを羽織っていた。露出は多くなく、ボクと対になっている白水晶を使った透明なバラの髪飾りが刺さっている。まるでもう一人の妹シャルに着て欲しいほど天使のように愛らしいデザインの服だ。
「ヒーラーですから」
と、自信満々に言うリーゼロッテ。
「お前は師匠か!」
どう見たって見た目詐欺だ。
リーゼの回復魔法は、攻撃魔法でダメージを与えた相手を回復させて無限に痛めつけることでそのレベルを上げていった。
はっきり言って回復魔法どころか拷問魔法の一種である。こいつの職業はもう拷問術師でいいだろう。
「不良少年だってどうせなら天使のような女の子に回復魔法を掛けて欲しいですよね?」
そう言ってリーゼがバリスタに笑い掛けると、いきなり話を振られたバリスタは怪訝そうな表情をした。
「…………あ?天使?何の話だ?新しく仲間でも増えんのか?」
そう言った瞬間バリスタが宙を舞った。
「バリスターーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
バリスタが錐揉みになって地面をバウンドすると、目をぱちぱちしながら言葉を発した。
「な……なに、が…………」
「お前は何も悪くない!そう!ただパーティー運が悪かっただけなんだ!」
「失敬な。むしろ天使のように愛らしく優しい女の子と同じパーティーでいられることをむせび泣いて感謝してもらいたいくらいです」
「リーゼロッテ、さすがに私もそれはないと思うわ」




