第42話 十二才 もふもふが仲間になりたそうにこちらをみている
「冒険者ランクF、討伐ランクDの中で最も難易度の高いと思われる討伐クエストはこちらの『ジャックボア討伐』になります。討伐対象はこの自由都市アムンより東にある第四交易街道で出現することが確認されています。当クエストでは『ジャックボア』を十匹以上討伐し、その両牙を10セット持ち帰ることでクエスト達成となります」
リーゼの『キュアマインド』の効果で平静を取り戻した受付嬢さんがクエストを提供してくれた。
この人にはいくら謝っても謝り足りない。本当に申し訳ないことをした。
『殺刃』スキルは指向性を持たせないと、刃ではなくただの殺気となって放たれ、周囲へ『フィアー』効果を与えてしまうことになる。これに抵抗できなければ『恐慌状態』というバッドステータスに陥ってしまうというわけだ。
もちろん壊してしまったカウンターの購入費はボクのポケットマネーから支払済みである。
「もし他のモンスターも狩った場合はどうなるの?」
「その場合はモンスターに応じた部位を持ち返っていただければモンスターに応じた報酬をお支払いすることができます。しかしそれはクエストではありませんので、クエスト報酬に比べると五分の一程の額になってしまいます」
「それでも貰えるんだ」
「はい。各モンスターには多くはありませんが国から懸賞金が掛けられていますから、それが報酬として支払われる形になります」
「じゃあ、その辺りのクエストをいくつか受けておくっていうのもありなの?」
「可能です。ですが複数のクエストを受注すると期限切れの危険性が高まるのであまりお勧めはしていません。倒せるだけの実力があったとしても、出会えるかどうかは分かりませんから。クエストを失敗した場合は違約金が発生し、それが重なると冒険者ランクが下がることもありますので十分にご注意ください」
「ふむ……」
でも早く冒険者ランク上げて強いモンスターと戦ってみたいしなぁ。
「じゃあ、第四交易街道周辺の討伐クエストを見繕ってもらえますか?」
「畏まりました」
クエスト用紙の中から受付嬢さんがボクたちに合った討伐クエストを見繕ってくれた。
『ジャックボア討伐』
第四交易街道周辺に出現するジャックボアを十体以上討伐する。
報酬500G 期日3週間以内
冒険者ランクF 討伐ランクD
『ウルフ討伐』
第四交易街道周辺に出現するウルフを二十体以上討伐する。
報酬300G 期日2週間以内
冒険者ランクF 討伐ランクD
『ゴブリン討伐』
第四交易街道周辺に出現するゴブリンを五体以上討伐する。
報酬200G 期日4週間以内
冒険者ランクF 討伐ランクF
『バグマッシュ討伐』
第四交易街道周辺に出現するバグマッシュを五体以上討伐する。
報酬200G 期日2週間以内
冒険者ランクF 討伐ランクF
「これ全部お願いします」
「承りました」
受付嬢さんがその場で登録用紙を作成していくと、クエスト一覧に書かれていた文字が順次灰色へと変わっていった。
「クエストの受注が完了致しました。低ランクモンスターには集団で活動しているモンスターも多いのでお気をつけください」
「お気遣いありがとう。それじゃあボクたちはさっそくクエストに行ってくることにします」
そう言ってボクたちは冒険者ギルドを後にした。
外に出ると、母さんたちへの連絡を終えたセフィが待っていた。
「アンネリーゼ様とシャルロット様に冒険者として活動する旨を伝えて参りました」
「二人は何か言ってた?」
「アンネリーゼ様は『なにそれ面白そう。私も殺るわ』と」
ちょ!マジでやめてください!
母さんが冒険者になんてなったら、フリーダムすぎて護衛対象まで討伐されちゃう!
そんなの他の国でやっちゃったら国際問題にまで発展しちゃうから!
「もちろんテラ様が押し留めていますが」
「テラさん、いつもながらマジご苦労様です……」
「シャルロット様は『シャルもリア姉さまといっしょにいく!』と」
シャルたん可愛く育ってくれてお姉ちゃんは嬉しいよぺろぺろ。
「そして『それでね。リア姉さまに近づくオバサンは全部殺すの!セフィ?セフィはメイドだからオバサンじゃないよ?』とのことです」
シャルううううううううううううううううううううう!
くっ!リーゼの奴が余計なことを吹き込むから『姫』……というか年上の女性に対して物凄く敵意を持つようになってしまった……。
でもシャルだってきっと姫に会えば姫の良さが分かるはずだ。
あの包容力。あの優しさ。あの厳しさ。あの純真さ。あの正義感。そしてあの包容力。どれを取ってもボクの数百万倍はある。
シャルには是非ともボクやリーゼじゃなく、姫を見習って女神のように素敵な女性になって欲しいところだ。
今でも天使並みに素敵だけどな!
「ヴァレリア様の方も無事クエストを受注できたようですね」
…………無事?
「あ、ああ。何も問題はなかったよ。全ては滞りなくだ」
「そうですね。お兄様が癇癪を起こして殺気を撒き散らしながら机にあたっていた以外は」
「はい。問題ありませんでした。リーゼロッテがビッチに剣を突き付けた以外は」
「ああ、問題ねぇな。ベルタが冒険者を伸した以外は」
「そうだな。バリスタが冒険者を投げ飛ばした以外は」
「「「「……………………」」」」
「くっ!その光景をこの目で見られなくて一生の不覚です!格なる上は妄想で補填して『ヴァレリア様叙事詩~序章 世界征服編~』の穴を埋めなければ!」
「頼むから今すぐ燃やしてくれ!」
何で序章なのに世界征服なんだよ!
それどう見てもクライマックスじゃん!
「さて、それでは私たちはこれから出発しますから、セフィは動物に変身してください」
「畏まりました。『メタモルフォーゼ ダイアウルフ』」
セフィの美しい肢体が巨大な狼へと変化していく。
メイド服は毛皮に。
毛色はセフィの髪色と同じダークブルー。
まさに闇色の獣。中二病過ぎてヤバイ。めちゃくちゃ萌える。
「ふむ、大型犬か。もふもふ」
頭の毛を梳く様に撫でると、手に顔を摺り寄せてきた。
やばい。中身がセフィだと知っていても動物のもふもふパワーはマジでやばい。
大型犬は猫の次に大好きだ。
「いいなぁこれ。ねぇ?乗っていい?ボクこれに乗って移動していい?」
「ダメです」
「くぅーん」
「ダメです」
セフィもお願いするように甘えるような声を上げるがあえなくリーゼに却下されてしまった。
「いいですか。お姉様はご自分のことが全くできないからこれを機会に……と思ってセフィに変身してもらったのに。これ以上甘やかされてさらに甘ったれになったらもう社会復帰は完全に不可能になりますよ?リアル世界はイージーモードじゃないんですよ?今の甘ったれたお姉様にとってはハードモード。いえ、ヘルモードです。甘やかされてるからコミュ力が育たないんですよ?分かっていますか?聞いていますか?だから友達もできないんですよ?便所飯なんですよ?訓練相手いなくて、先生にも気付かれなくて、一人で膝を抱えて見学することになるんですよ?セフィもセフィです。お姉様を自宅警備員という名の名誉職のニートにしたくなければ甘やかしてちゃダメです。そもそもセフィがお姉様のことをくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくど」
この後三時間もの間リーゼの説教を受ける事になってしまった。
当然正座で。
そしてその言葉全てがボクの心を深く抉り、MPをガリガリと削っていった。
うぅ、心が折れて鬱死してしまいそうだ……。
「申し訳ありませんでした……」
「くぅ~ん」
「今度甘ったれたことを言ったらお母様に言って特別合宿をしてもらいますからね」
「死んでも言いません!」
「ガウッ!」
母さんの特別合宿と言う名の拷問を受けるとどんなに歴戦の英雄でも従順な犬……、いやむしろお母様の命令だけを忠実にこなすキラーマシーンとなるのだ。
うん、気をつけよう……
「よし!それじゃあさっそく第四交易街道へ向けて出発だ!」
「分かりました。それではリーゼたちは野営の準備をしてから行くので、お姉様は草でも食べて地べたで寝てくださいね」
「い、いや、冗談だって、そうだな。しっかり準備しなきゃな」
行ってモンスターを倒すだけでいいのかと思ってた……。
「いつも思うのですが、ヴァレリアってツッコミ以外は弱いですね」
「お姉様は生まれる前からドエムでしたから」
「それもヴァレリア様の魅力でございます」
と、ベルダの言葉にリーゼとセフィが答えた。
お前ら……。
「って、変身しても普通にしゃべれるのかよ!」
「ヴァレリア様も変身後に言葉を話せていたと記憶していますが?」
「そ、そういえばそうだったな……」
ついつい犬がしゃべっている光景に驚いてしまったが、そういえばそうだ。
これが獣化だったら話が変わってくるんだけど、魔法で変身した場合は人の言葉を失うことはない。
「くぅ~ん」
それなのに犬の振りをして甘えてくるとは……なんともあざとい!
しかしそうと分かっていても抗えないというのがもふもふの魔力というもの。
「もふもふ」
「さぁいきますよ」
「わん」
こうしてボクたちの最初のクエストが始まったのだった。




