第39話 十二才 モテる職業
実戦訓練の授業を受けるために合同訓練場へと向かい、パーティーメンバーと合流するとDQNもといバリスタが昨日の話を突然持ち出してきた。
「よぉ、何でも昨日身体を掛けてダチとやりあったそうじゃねぇか」
「はぁ!?」
身体を掛けて?何でそんな話になってるんだ?
「ないない!それはない!」
「ですよね。おかしいと思いました」
ベルタがやっぱりと得心のいった表情をする。
「掛けたのは身体じゃなくて人生だし!」
「「ぶっ!」」
「もっと酷いじゃねぇか!」
「何を考えてるんだお前は……」
「い、いや、だって、勝ったら結婚してくださいとか言われて」
「正気かそいつ?」
「むしろその人の人生が掛かっていたって言った方が正しい気がします」
何気に失礼な奴らだなおい。
「まぁそういう話になって、負けなかったら決闘できるだけだし美味しいなって思って」
「呆れるほどバトルジャンキーだな」
「あなたも他人のこと言えませんけどね」
ベルタが呆れた顔でボクたち二人を見る。
おいおい、こいつと一緒にされるなんて心外だ。
「昨日の話が二人のクラスにはそんな風に伝わっていたんですか?」
リーゼの疑問に二人が答えた。
「はい、そうなんです。男の子たちってホント馬鹿ばっかりで」
「ああ?糞雌どもだって喚いてただろうが」
「何ですか?喧嘩売ってるんですか?」
「あ?やんのか?」
「いいぞもっとやれ」
リーゼが喧嘩になりそうな二人を無責任に煽る。
「いやいや、ダメだから!また暴走しちゃうから!」
そうだ。バリスタは近接格闘術を使うから、ベルタと喧嘩したら高確率でベルタが暴走する。
それはもうこの一ヶ月で何度も実証済みだ。
「それにしてもリーゼロッテさんはヴァレリアさんがそんな噂にさらされてるっていうのに気にならないんですね」
「お姉様が傷つけばその傷を優しくイヤラシク弄るようにリーゼの小さな舌で舐め取ってあげられますからね。そしてお姉様はそんなリーゼに身も心も……ぽっ」
「リーゼロッテさんもとことん歪んでいますね」
「これでも結構必死なんですよ?愛するお姉様は未だに妄想に囚われているところがありますから……」
よよよと泣き崩れる振りをするリーゼ。
ちょっとまて。それじゃあまるでボクが心の病気みたいじゃないか。
「「あー……」」
二人が納得するような顔をする。
え、そこで納得しちゃうの?
「ひ、姫の話はノンフィクションであり、登場する団体・人物の名称はすべて実在のものですだよ?」
この二人は姫の話をボクの妄想だと思っている節がある。
それもこれも全部リーゼとセフィによる情報操作の所為だろう。
確かに姫は可愛くて綺麗で凛々しくて情が深くて純心で可愛くて頭が良くてカリスマがあって可愛くてしっかりしてて可愛くて可愛いから現実にそんな人がいるなんて信じられないかもしれないけど、姫は確か存在していた!脳内の話じゃないんだよぅ!
「でもヴァレリアが生まれた頃から一緒にいたっていうセフィリアさんだって見たことないんですよね?」
「はい」
「ちょっと待って?生まれた頃からじゃないよね?セフィと初めて会ったのは1歳の誕生日なんだから」
「誤差です」
過去の捏造を訂正するも、セフィは何事もなかったかのように流した。
こいつは本当にボクを慕ってくれているのか真剣に悩まされることが多々ある。
しかもそこへ思わぬ方向から援護が入った。
「あー、それは誤差ですね」
「誤差だろ」
「ええっ!?」
二人から口にされるまさかの否定。
「だって、1歳ですよね?私でも1歳の頃のことなんて何も覚えていませんし」
た、確かにボクたちのような転生者でなければそんな小さな頃のことなんて覚えてないのかも……。
「誤差です」
二人からの援護を得たセフィがほとんど無表情にそう繰り返す。
しかしボクとリーゼにはほとんど表情の変えることのないセフィのほんの僅かな表情の変化が分かってしまう。
これはドヤ顔だ。
こうやって徐々に外堀から過去を捏造していくのがセフィの手口なのだ。
全く恐ろしいメイドである。
「そんな奴とやるくらいなら俺とやりあえよ」
「お前までボクの身体を狙ってるのか!?」
驚愕の事実である。
こいつとの付き合いは考えたほうがいいかもしれない。
「あ?誰がそんな気持ち悪いもん狙うかよ」
バリスタがそう言った瞬間地面に一本の木が生えた。
枝は四本。ちょうど人間の手足を足した数と同じである。
そしてその木は偶然にもバリスタの着ていた服と同じ色をしていた。
「バリスタァァァァァ!?」
ボクの悲痛な呼びかけにもその木はピクリとも反応を返してこなかった。
「ヴァレリア様の御身は世界の至宝です。異論は認めません」
なんとかボクたちでバリスタの頭を地面から引っこ抜く頃には、もう授業が始まろうとしていた。
イージスの盾にとっては稀によくある光景であった。
始まりは戦士学科の担任であるゲオルグ教官の言葉であった。
「今日より一週間、諸君らには冒険者として活動してもらう!」
今日まで実戦訓練では、パーティー同士の連携や模擬戦闘が中心に行われてきた。
本来であれば5人以上でパーティーを組むことを求められているのだが、シルフィードは仲良しクラブではないため、人数の多いところから人数の少ないところへ割り振るなどといった編成を教官が指示することはない。
この学園では力のない者が悪いのだ。つまり交渉能力のない奴が悪いという話になる。
逆に言えば力さえあれば少ない人数でも構わないし、いつでも交渉によって他のパーティーから人を引き抜いてもいい。
そして現在ボクたちのパーティーは特に戦力の補充が求められているような状況ではないため、とりあえず四人でいいかという話で落ち着いた。
というのも、前衛が優秀過ぎるからである。
ベルタによる鉄壁の防御とバリスタによる激しい拳の弾幕があれば、後はボクとリーゼがちょっとサポートするだけで勝ててしまうのだ。
これは決して相手の能力が低いということではない。
もちろん能力の高さもあるが、一番の理由は二人が実戦慣れしているところにある。
普通の生徒であれば加護のある12歳という年齢まで指導者に訓練をつけてもらう。そして加護の消えたところからレベル上げを兼ねて実戦に触れていく。
しかし二人は既に実戦……それも集団戦を経験しているようであった。
どうなれば連携が崩れるのか、どうすれば連携を活かせるのかを他の者たちより知っている。
というより他の者たちが知らなすぎるのだ。
別にそれが悪いわけではない。むしろそれはこれから学ぶことができるのだから、この学園にいれば二人の経験はすぐに埋まる程度のアドバンテージだ。
しかしそれには経験が必要であり、開始して一ヵ月程しか経過していない今の状況では初心者を相手にしているようなものなのだ。
そして前衛がそんな感じだから、ボクたち後衛はそれをちょっとサポートするだけで終ってしまう。
それ以上動いてしまっては完全にオーバーキル。訓練ではなく、ただの俺TUEEEEEになってしまう。
そんなわけでこの一ヶ月間はボクたちにとって特に面白いこともない授業になってしまっていた。
それがここに来て冒険者!
異世界といえば冒険者!冒険者といえば異世界と言えるほどファンタジーな職業だ!
シフ先生の話を聞いて、いつか冒険者になって魔法を集めて研究に活かしたいと思っていたけど、こんなにも早くその足掛かりができるとは思っていなかった。
しかも戦ってお金がもらえる上、女の子にモテる職業トップテンに入っているという話だ。
ふははっ、時代がボクを呼んでいる!
冒険者として一躍有名になればボクを慕う女の子がお友達になってくれるかもしれない!
あくまでお友達な!
「お姉様がまたダメな顔に……」
「何を考えているのか丸分かりですね……」
「そこ!五月蝿いぞ!」
「でへへ」
「他人の話を聞け」
ランドワーズ教官の手刀が頭に直撃する。
しまった。ちょっと幸せな夢の世界に旅立っていたらしい。
ボクはランドワーズ教官に頭を下げ、再びゲオルグ教官の話に耳を傾けた。
「一週間の間学院へ帰ってくる必要はない!受けるクエストの種類に制限はないが、毎回目標レベルが設定され、到達できないものは例外なく退学にする!」
なるほど、配達クエや採取クエを受けるのは構わないが、魔物を討伐するなどして自身のレベルを上げないといけないってわけか。
「今回の目標は5レベルとする!分からないことは自分で調べろ!以上!解散」
こうしてボクたちの冒険者としての道のりがスタートした。
お待たせしました
自分の中でベルタのキャラが定まったので




