第37話 十二才 けっとうじょう 1
パーティー結成から一ヵ月後、何事もなく学園生活を謳歌していたちょうどその頃それは起こった。
やつに関わる前に言っておくッ!
おれは今やつの変態性癖をほんのちょっぴりだが体験した
い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは元の世界に帰って姫にプロポーズしようと思ったらいつのまにか男にプロポーズされていた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
告白だとか罰ゲームだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
「現実逃避は済みましたか?お姉様」
「あ、ああ。それでこれは一体どういうことなんだ?」
「つまりお姉様とタイマンをして勝ったらお姉様とセック……」
「おい!」
不吉なことを言うんじゃないよ!
男とウホッ!とか誰得だよ!
誰も見たくないよそんな光景!見たくない……ですよね……?
はぁ……はぁ……危うく精神汚染されるところだった。
と、とにかくもう一度男の言葉を思い返してみよう。
『俺が勝ったら結婚してください』
これの意味するところはボクが負けたら結婚しなければならないということ。姫とではなく目の前にいるガチホモ(仮)と。
いや、そもそもこの男とは話したこともないんだが、何でいきなり結婚?
しかも勝負って何の勝負だ?早食いか?
そう思っていたら男がクラスメイトにがっしりと両腕を抱えられ、今にも連行されようとしていた。
そう、なぜかボクに話しかけたクラスメイトは連行されて人知れず処理されるという学園の七不思議。
もしかすると大きな組織がボクを孤立させるために動いているのかもしれない。
だから未だ同じクラスに友達ができないのも仕方ないと思うんだ。うん。
いやしかし、何の勝負かも、何でいきなりそんなことを言い出したのかも分からないのは非常に消化不良だ。
ボクはガチホモ(仮)が連れて行かれないようにがしっと手を掴んだ。
「ちょっと待って」
そう言うと、連行しようとしていた人たちは動きを停止する。
しかし拘束は解かれていないため、ガチホモ(仮)は非常に滑稽な感じになってしまっているが、この際仕方がないだろう。
とりあえずボクは疑問を解消すべく、そのガチホモ(仮)に聞いてみた。
「勝負って何の?」
するとそのガチホモ(仮)が途端に顔が破綻した。
「な、何の勝負でもいいです!」
つまりボクが好きに決めたらいいってことなのか?
それって圧倒的にボクに有利じゃないか。
いや、それ以前に結婚……もとい貞操なんて賭けるんだからそれでも足りないくらいだろう。
そんなことでおんにゃのことにゃんにゃんできるならボクなんてもう勝負しかしない。
もう毎日毎朝毎晩姫と勝負を……ベッドで勝負を……ぐへへ。
しかしこの場合決定権はボクにある。
ボクは確かに魅惑的なルックスをしている。
ボクが男なら妄想だけで三回はごほごほっ。
そう、釣り餌としては良品質。
勝負をしても負けなければ貞操はそのままに勝負だけを楽しむことが出来る。
更に言えば負けてもそんな口約束守らなければいいだけの話。
ふふっ、ボクはもしかすると天才かもしれないな。
これを利用すれば自分を餌とした全自動決闘ホイホイの出来上がりだ!
この世界に来てから訓練なんかはやってるけど真剣勝負というものをほとんど体験していない。
正直、うずうずしていたところだ。
よし!いいだろう!その勝負受けた!
「チェーンデスマッチ」
「「「「え!?」」」」
「チェーンデスマッチがしたい。ルールは時間無制限ありあり。ハンディキャップは力5魔力5速度5視力5」
「あの、それってどういう……」
ガチホモ(仮)が困惑した表情を浮かべている。
む、知らないのか。
「チェーンデスマッチとは、お互いの手首を鎖で繋いで行う決闘です。時間無制限ありありとは武器有り魔法有りの時間無制限完全決着勝負。片方が戦闘不能に陥るか、降参するまで決闘は続行します。そして今回ヴァレリア様にはハンディキャップとしてパワーダウン威力レベル5、マジックダウン威力レベル5、スロウ威力レベル5、ブラインドネス威力レベル5の呪いが掛けられます」
セフィがボクの変わりに詳しくルール説明をしてくれる。
さすがに初心者相手にハンデなしで無双するほどボクは鬼畜じゃない。
確かにボクは対人厨だが、マナーが守れる紳士なのだ。
ハンデつけた勝負の何が面白いのかって?
それは違う。勝負を拮抗させて、面白くするためにハンデがあるのであり、ハンデと舐めプではない(『舐めプ』とは舐めたプレイの略。実力差のある相手に対して悪意を以って舐めたプレイをすること)
そして今回のようなハンデを手加減と捉えるものも者もいるかもしれないが、ゲームの世界ではそれはキャラクターの性能差でしかない。
熟練者が弱キャラを使うのはマナー違反ではない。性能を落としてでも全力で相手に応える。そう、勝負とはお互いに全力を尽くせる環境にいてこそ熱く、より白熱できるのだ。
「ダメか?」
ここまで来て嫌とは言わせない!
ボクは『性技』スキル『上目遣い』を発動してガチホモ(仮)を畳み掛ける。
潤んだ瞳がガチホモ(仮)の心にクリティカルヒット。
さらにそこへクラススキル『かりちゅま』補正がかかり、ロリコンへの確殺スキル『上目遣いで”う~”』へとランクアップする。
とてもじゃないがこんな姿は元の世界の友人たちには見せられない。万が一にも男に媚びてるなんて見られたら人生リセットボタンを迷わず押すことだろう……。
「ば、ばっちこいです!」
と、ガチホモ(仮)は顔を真っ赤にして答えた。
それが『かりちゅま』による補正効果でないことを祈るばかりだ。全世界の幼女のためにも。
「その心意気や良し!」
ふふっ、実に素直で良い返事だ。
これが『かりちゅま』による補正効果でないことを祈るばかりだな。全世界の幼女のためにも。
さぁ決闘だ!すぐにしよう!今すぐやろう!
ボクは気持ちを抑え切れないままギャラリーを引き連れ、簡易決闘場へと向かった。
この実力主義の学園では決闘は珍しいことではない。
だから学園の至る所に簡易の決闘場が設置されている。
そう、その数はなんと喫煙所よりも多いのだ!
だというのに今まで全く使うことができなかったのは本当に惜しい。
だがこれからは違う!このパーフェクトボディを餌にすればきっと馬鹿な男どもが大量に連れるはずだ!男のボクが言うんだから間違いない!むしろそんなに美味しい決闘があるならボクが挑戦したいくらいだ!
廊下から外へ出るとすぐに簡易決闘場へと辿り着いた。どうやら先客はいないようだ。
決闘場に天上はなく、半径10メートルほどの円形状の石造りのリングになっている。
セフィに向かって左手を差し出すとチェーンの付いた鉄の腕輪が嵌められる。
向こう側ではリーゼがガチホモ(仮)の左手にチェーンを嵌めている。
「セフィ、魔法を頼む」
「畏まりました。効果時間はこれより1時間、又は決闘が終わり次第解除致します。それでは力を抜いて呪いを受け入れてください……、『パワーダウン』『マジックダウン』『スロウ』『ブラインドネス』」
セフィによって次々とデバフが掛けられていく。
パワーダウン、マジックダウン、スロウにより、『養殖』称号によって減少したステータスがさらに低下。さらにブラインドネスの効果で視界がぼやけ、人の位置が辛うじて分かる程度にまで視力が低下した。
よし、準備は整った。
「それでは再度ルールの確認を行います。試合形式はチェーンデスマッチによる時間無制限完全決着勝負。武器、魔法あり。反則負けは存在しません。挑戦者はシルフィード魔術学科一号生ダレル・マックフリース。挑戦者が勝利した場合、ヴァレリア様と結婚する権利が与えられます。無駄に。両者、準備はよろしいですか?」
セフィの問いかけに答えるかのようにボクは武器を呼び出す。
「『サモン!デスサイズ!』」
召喚によって左手に現れた大鎌を対戦相手の方へと突き出し、ボクは高らかに宣言した。
「ボクの名はヴァレリア・ヴォルドシュミット!誇り高きダークエルフとして誰からの挑戦であろうと受けて立つ!ボクが欲しいと言うのであれば自らの力で掴み取れ!!!」
決wまwっwたwww
最高に格好いい!しかしこれはちょっと格好良すぎたのではなかろうか?
あぁ、これできっとおにゃのこのファンが1億人くらい増えてしまったに違いない。
きっと見学者の娘さんたちも下着を濡らせていることだろう。でへへ。
しかし残念ながらボクは姫のもの!
この決闘の勝利は遥か彼方でボクがいなくて枕を濡らして寂しがっているであろう姫に捧げるのだ!
「お、俺はダレル・マックフリース!ヴァレリア様は俺の嫁を合い言葉に、いざ尋常に……勝負!!!」
おおう。相手もノリノリである。
「立会い人はこのヴァレリア様の忠実なる僕セフィリアが務めさせていただきます。それではファイナルラウンド…………、ファイッ!」




