第29話 十二才 入学試験(能力測定)
昼食が終わり、次は能力測定へと移った。
能力測定の試験は測定器を使ってステータスを調べることで結果が出る。
ステータスと言っても所持スキルを調べるようなことはなく、能力値のみが調査される。
しかし、当然のことながら能力値も機密度の高い個人情報である。おいそれと他人に教えていいものではない。ましてや王族や国家に関わる人間ならなおのこと。
そこのところは学園としても理解しているらしく、測定器は読み取った能力値から総合的な点数を算出し、その数値のみ表示するようになっているらしい。
何でもその算出方法は、単純に能力値を合計した数値ではないらしいとのこと。
過去にあった例を上げると、筋力しか取り柄のなかった者が百点満点を叩き出したようなこともあったらしい。
となると、魔力馬鹿であるニーフェはもちろんのこと、自らの祝福と類稀なる成長を遂げたボクは測定器を壊してしまうことだろう!
今からわくわくが止まらない!
「測定器は筋力が100あったとしても壊れない設計らしいですけどね」
「がーん!」
そんな…………転生チートが!異世界デビューの夢が!
「今どき『がーん』はないと思いますが、そろそろお姉様の番ですよ」
「うぅ……」
測定器が壊れないなんて……、テンションだだ下がりだ。
これじゃあ、ボクは何のために転生してきたのか分かったものじゃない。
「もちろん私ことリーゼとリアルにまぐわ……」
「よし、行ってくる」
「相変わらずツレナイのですね。そんなお姉様に一言」
「なんだ?」
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ。問題ない」
そう言ってボクは不敵な笑いを浮かべ、腕輪型の魔法具『ステータス測定器』を試験監督員から受け取って腕につけた。
すると、測定器の数値が目まぐるしく動き始める。
しかし、出る数値なんて計測する前から分かりきっている。
100以外の数値はありえないのだから!
そしてついに測定器の数値がその動きを止めた。
ボクが、そしてボクのステータスを確認する担当員が、そこに出た数値に息を呑む。
「なん……だと……!?」
「ゼロか。長年能力測定をやっているが初めて見るな」
と、担当員は口にした。
確かにゼロである。
ボクの視力がおかしくなったのでなければどう見てもゼロである。
測定器を振ってみても、叩いてみても、これ以上ないほどにゼロである。
「こらこら、気持ちは分からなくもないが学園の備品を叩くのはやめなさい」
「う……うぅ……」
こ、こんなの何かの間違いだ!
ボクのステータスがこんなにゼロのはずがない!
しかしその現実をあざ笑うかのように周囲から声が聞こえてくる。
「えー、マジゼロ!?」
「ひどーい!」
「ゼロが許されるのはゴブリンまでだよねー」
「「キャハハハハハハハ」」
ゴ、ゴブリン……だと!?
噂話をしているのはボクたちの後ろで並んでいた兎耳をした獣人の女の子たちだ。
くっ!いくら女の子だからってそんなことを言う奴は許せない!絶対にだ!
しかし!だがしかし!初対面の女の子に向かって文句を言うどころかこっちから話かけられるわけがないだろう!
意味もなく意識しちゃうぢゃないか!
「今日ちょっと筋肉痛で寝不足だったかなぁ。あは、あははははっ」
うん、筋肉痛で寝不足(脳内設定)だったらバッドステータスが付いてステータスが下がっているのだろう。仕方がない。仕方がないのだよ。
…………もう外の世界やだ。おうちに帰りたい。
「だから言ったのに」
リーゼがやれやれと言わんばかりに首を振り、試験監督員から測定器を受け取りながら言う。
「な、なにがだ?」
「そんな装備で大丈夫かって」
称号?
……………………のわっ!
そ、そう言えば能力値が半減する『養殖』称号を付けたまんまだった!
そりゃあゼロだよ!
ボクが測定器でもゼロにするよ!
「はいはい、次が詰まってるから、後ろへ下がってね」
そう言って試験監督員に後ろへと追いやられる。
「ちょまっ!」
こうして、ボクの能力測定は終わりを告げたのだった。
「ひゃっ!百点だと!?」
と、リーゼの叩き出した点数に驚愕する試験監督員の声を残して。




