第28話 十二才 入学試験(昼食)
試験監督員が言うには昼食は教室で食べてもいいし、食堂を利用してもいいらしい。
当然事前情報からその話は知っていた。
だから食堂が混み合うことを想定してセフィがお弁当を作ってくれている。
「お姉様、あーーーーん」
「おい……」
「あーーーーん」
「…………」
「あーーー」
「ていっ!」
差し出してきたオカズをリーゼの口へと付き返す。
「うぐ、うえ、な、何をしますか!」
「偏食は止めなさい」
「もう……無理やり上の穴に突っ込むのはソーセージだけにしてくださいと普段から言っているのに」
「ちょっ!ここ学校!!!」
何て奴だ……公衆の面前で躊躇いもなく卑猥な発言をするなんて。
ほら見ろ。意味が分かってしまったマセた男の子たちが盛大に咽てるじゃないか。
何があったかというと、リーゼがボクに向かってサラダに付いていたブロッコリーを差し出してきたのだ。
基本的に肉食であったリーゼは、野菜類を好まない。
そして肉が死ぬほど好きである。家族で焼肉をしたときも、ご飯や野菜は口にもせず、肉、肉、肉、肉、ワイン、肉、肉、と言った具合だ。そう、当然食べ物の方のソーセージも大好物である。
だからある意味リーゼの言ったことは間違ってはいない。
もし下品な含みを意図して持っていなかったとしたらの話だが……。
「……………………セフィ」
「何でしょう?」
「それはこっちのセリフなんだけど……」
セフィがソーセージを指で摘んでボクの口へと近づけようとしてくる。
これは一体どういうつもりだ……。
「申し訳ございません。私もヴァレリア様といちゃいちゃ陵辱したかったものですから」
「いちゃいちゃと陵辱は繋がるような言葉じゃないからね!?」
「ヴァレリア様、是非私のソーセージをねぶるように食べ……」
と言いかけた瞬間セフィの手元からソーセージが一瞬にして掻き消えた。
横を見るとリーゼが満足そうに自分の頬に手を当て、口をもぐもぐさせている。
なんて幸せそうな顔なんだ……。
「よ、よかったな。お互いに希望が叶って……」
「ふぁい、お姉ひゃま。もぐもぐ」
「リーゼロッテ様の期待に応えられて光栄ではありますが、ヴァレリア様の魅惑的なお姿を撮影することが出来ずに残念です」
「そうか。ボクも早く姫の魅惑的な姿を撮影したいよ」
そう、出来ることなら早く元の世界に帰って、姫の写真でいっぱいにしたい。部屋中を姫の写真で飾って、ちょっとエッチな写真はハードディスクに永久保存。数は十台以上いるだろう。もちろんバックアップを三重に取ることは欠かせない。むふ。
「また出ましたね。エア彼女」
「ぶっ!エアじゃないから!実在の人物だから!」
リーゼの言葉に思わず口に含んでいたご飯を噴出してしまう。
「あれからもう十年が経過していますから、仮にそのエア彼女が当時三十四歳だとして、今は四十……」
「ちょっ!その仮定はおかしいだろ!」
「分かりませんよ?だってお姉様はそのエア彼女の実際の年齢も容姿も性別さえも知らないんですから」
「そ、それはそうだけれども!」
「もしエア彼女が当時四十を過ぎた熟年男性だったとしたら、お姉様のあのエアプロポーズはなかったことにするんですか?」
「いやいや!その前にその前提がおかしいから!あんなに可愛くて凛々しくて純心で頭が良くてカリスマのあった姫の中身がそんな人のはずがない!」
「で、そんな完璧超人である二次元嫁のような人がお姉様のプロポーズを受けてくれたと?」
「う…………」
に、二次元じゃないやい!
「あれはきっとゲーム世界特有の夢だったんですよ。ほら、お姉様の大好きな年齢制限付きのゲームと同じです」
リーゼが慈悲に溢れた視線をこちらへと注いでくる。
なんだその無駄に優しい目は。
やめろ。ボクは別に可哀想な子なんかじゃない!
「お姉様もそろそろ現実の女の子に目を向けてもいいのではありませんか?」
「人を勝手に二次元信仰にするなーーーーーーー!」
いや、二次元も好きだけれども!
「ヴァレリア様」
「なんだ?今忙しいとこ……」
「注目の的です」
「あ…………」
周りを見渡すと、部屋中の受験生たちがみんなこちらに目を向けている。
徐々に嫌な汗が身体中から噴出してくる。
きっと今鏡を見たら、そこには真っ赤に茹で上がったダークエルフの女の子がいることだろう。
…………ちょっと萌えるじゃないか。
「現実逃避は済みましたか?」
「あぅ…………」
ボクは周りから少しでも見えないように顔を伏せて身体を縮こませて小さくなった。
そんなボクを見てセフィの無表情な顔が僅かに蒸気している。
「ヴァレリア様」
「ナ、ナンデショウ?」
「羞恥に染まるそのお姿に欲情しました。この場で押し倒して組み敷いて、ヴァレリア様もまだみたことがないような天国へとお連れしてもよろしいですか?」
「ダ、ダメだから!」
ボクの声が教室中に響き渡り、再び注目を集めてますます赤くなることとなる。
はぁ……穴があったら入りたい。。
「穴をお求めならばいつでも受け入れる準備は出来ています。夜の奉仕も完璧にこなす優秀なメイドとして」
「学園で下ネタ禁止!頼むから自重してくれ!」
「???ネタではありませんが?」
不思議そうな顔でそんなことをのたまうセフィ。
そうかネタじゃなかったのか……。
「ってなお悪いわ!」
おかしい。絶対におかしい。
この世界はボクに何を求めているというんだ……。
あえて言おう!ボクはツッコミ要員じゃないと!
師匠!委員長!助けて!




