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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第一章 幼児編
29/83

第24話 八才 神とは

 スキルが発動されると、シノブの身体から光の柱が立ち登る。

 ゲームのようにシステムメッセージは出てくることはないが、どのような加護を与えることができるのか、感覚を通して伝わってくる。


 使ってみて初めて分かったことがある。


 それは加護とは『神が人に与える影響力のこと』だったということだ。

 例えば、女神シャールは俺に与えるべき全ての影響力を精神操作系の呪いに回していたために、俺のステータス補正はなかった。

 そして俺が女神シャールと同じように精神操作系の加護を与えることができるかと問われたら否だ。

 神によって特性が違う。

 俺が与えることの出来る影響力は『戦神』の名の通り、筋力・敏捷・魔力といった直接戦闘に関係のあるステータス補正と、直接戦闘に関係のあるスキルを与えることだけだ。

 そして強いスキルを与えるほど与えることのできるステータス補正が少なくなる。

 これは影響力の最大値が決まっているためだ。


 姫のところへと戻るために必要なものはスキルでも筋力でも敏捷でもない。膨大な魔力だ。

 だから俺はヴァレリア(じぶん)対して全ての影響力を魔力補正に注ぎ込んだ。

 それとともに立ち登った光が消えていき、ヴァレリア(じぶん)に戦神の加護が宿ったことがはっきりと分かってくる。

 自分の信者が一人増える感覚。


 ここで自分の信者がもう一人いることが分かった。いや、分かってしまった…。


「シャル」

「りあねえしゃま?」


 上を見上げるとシャルが不思議そうな顔で首を傾けていた。

 ……俺と同じようにステータス補正のなかったシャルのステータス。

 エクストラスキルを持って産まれたために、俺と同じでそれが神の加護だと思っていた。

 だが現実は違っていた。

 今、シノブからシャルロットに対して影響力は行使されていない。

 シャルのエクストラスキル『鮮血の魔眼』は『生贄』によって忍の眼が使われたことで獲得したスキルだ。

 それは過程を経て獲得したスキルであって、加護ではない。

 思い出したくもないが、恐らくあの事件でシャルの命が失われた際に、女神シャールの加護が一度失われてしまったのか、あるいは生贄スキルの副作用によってシャルとの間に繋がりが女神シャールとの間にあった繋がりを上書きしてしまったか。

 はっきりとした原因は分からないが、確かにシャルは女神シャールの加護を失い、戦神となった俺の信者となってしまっている。


「シャルも戦神の信者になってるらしい……」

「りあねえしゃまとおそろい?」

「そう……だな。お揃いと言えなくもないけど……どうしよう。これは予想外だ」


 地球における価値観も持っている俺と違って、シャルはこの世界における価値観しか持っていない。

 そんなシャルがはぐれ者のような俺の信者なんかになってしまって何か悪い影響が出るようなことはないだろうか。


「どうしよう……」


 俺が『ぼっち』になることなんてコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい自然なことだから、家族さえ側にいてくれさえすれば何とも思わないけど、それにシャルが関わってくるとしたら話は別だ。

 シャルを俺と同じ目に合わせることなんて俺が絶対に許さない!絶対にだ!


「何を悩んでいるんです、お姉様?」

「もしシャルが俺の信者になったら……、もしかすると周りから仲間外れにされてりするんじゃないかもと思ったらどうしたらいいのか分からなくて……」

「ぶふっ」

「……何が可笑しいんだ?」

「く……くくっ……、あははははは、あー可笑しい!お、お姉様じゃあるまいし、シャルが『ぼっち』になるなんてあり得ませんよ!いいですかお姉様。お姉様にとって『ぼっち』が極々親しいまるで空気のように感じる幼馴染のような存在であろうとも、シャルのようなリア充候補生にとっては水と油のように相容れないものなのですよ。それを信仰する神が変わったくらいで『ぼっち』って……ぶぶっ、実にお姉様らしい発想です。シャルの心配をする前にご自分の交友関係を心配されてはいかがです?」


くっ!なんて失礼な奴なんだ!

た、確かにシャルなら将来立派なリア充になるだろう。

だがそれはそれ!これはこれだ!『ぼっち』とは誰にだって訪れる可能性のある風邪のような存在なのだ!

その証拠に…。


「お前だって友達なんていないじゃないか!」

「お姉様……」

「ヴァレリア様……」

「ヴァレリア……」

「「「はぁ……」」」


 な、なんでみんなそんな可愛そうな者を見るような眼で俺を見るんだ……。


「りいねえしゃまはいっぱいおともだちいますよ?」


 シャルが至極不思議そうな顔をして言った。


「なん……だと……」

「まぁ、廊下で擦れ違ったときに立ち話をしたり、たまにお茶会に誘われる程度には」


 お、お茶会!?

 俺はそんなの一度たりとも誘われたことはないぞ!


「ヴァレリア様は未だに精神面で未熟な部分がございますので、僭越ながら私の独断で全て断っております」


 悪びれもせずにセフィ(はんにん)が自供しやがった。


「犯人はお前か!」

「そのおかげでお姉様の評判は傲慢でプライドの高い孤高(ぼっち)|(笑)なお姫様ともっぱらの噂です」

「酷すぎる!」

「セフィの判断は正しいわね」

「か、母さんまでなにを!?」


 母さんの思わぬ援護に、セフィが恐縮ですと頭を下げる。

 そしてリーゼがため息を吐きながら呆れた顔をして口を開いた。


「はぁ……考えても見てください。ドエムでスケベで女の子にノーと言えない日本人なお姉様は三日もあれば他の王族の愛の奴隷にされてしまいますよ。ダークエルフの交友関係は人間のように甘くはありません。お姉様がお茶会になどと、鴨がネギと鍋をお湯と昆布出汁とみりんと醤油と魔法焜炉(こんろ)とアルコール飲料、そして雑炊用の卵と米と背負ってくるようなものですよ」

「背負いすぎだろ!」

「それだけ利用価値があって御しやすいということです」


 ダメなのか?俺ってそんなにダメなのか?


「鍋が食べたくなったわ」

「畏まりました。今夜用意致します」

「おなべ!」


 横では母さんたちがそんなやり取りをしていた。今日の夕食は鍋に決定したらしい。


「つまりお姉様のコミュニケーション能力が一定レベルに達するまでは社交界なんてもってのほかというわけです。ご理解していただけましたか?」

「そ、それならこう……」

「交渉スキルは取引においてしか効果を発揮しませんよ」

「うぐ……」


 コミュニケーションノウリョク……デスカ。

 俺は決してコミュニケーション能力がないわけではないと思う。

 その証拠に家族やメイド、そしてシフ先生とも普通に接することができた。

 過去を振り返ってみても、話してみれば初対面の人とも普通に話をすることが出来ていた……はずだ。


「確かにお姉様は多くの方と触れ合い、初対面の相手に対しても多少不自然なところは見られるものの、挙動不振(キョド)らずに話せるようにはなりました」


 そうだろうそうだろう。ヴァルキリーヘイムの世界でのギルドのみんなと交流によって俺のコミュニケーション能力は飛躍的に改善されたと自負している。


「ですが、周り人や雰囲気に流されるところや、すぐに調子に乗って空気を読めずに突拍子のないことをし始めるところや、視線や表情が露骨過ぎるところや、妄想や発想が気持ち悪くて痛いところは、普通の人の感性であれば生きていてゴメンナサイと何度バッドエンドを迎えていたとしてもおかしくはありませんでした。だというのにそのことに気付きもせず、ひたすら空回りしている様はもはや病気と言えるでしょう」

「そんなにダメなのか!」


 ショックだ……。ダメ…なのか?俺ってそんなにダメなのか?

 リーゼが憐れみに満ちた優しい目を真っ直ぐと俺のほうへと向け、しっかりと頷いた。

 やめろ……そんな優しい目で俺を見んじゃない……。

 リーゼの視線に絶えられなくなり、セフィへと縋るように視線を移すと、さっと視線を逸らされた。

 何とも気まずそうな表情だ……。頼むから残酷な真実を知られてしまったみたいな顔をしないでくれ……。


「りあねえしゃま、なかないで」


 シャルが絶望の縁で涙する俺の頭に必死に手を伸ばし、一生懸命な手付きで頭を撫でてくれる。

 ああ、俺の味方はもうシャルだけだ。

 シャルにゃんマジ天使……ぺろぺろ。


「しゃるはういてるりあねえしゃますきですよ?」


 絶望した!

 救いのないこの世の中に絶望した!

 でもシャルにゃんとぺろぺろできるなら、班分けで押し付け合いされても、体育の準備運動で先生と組む事になっても、便所でご飯食べることになってもいいかも。

 秤にかけるのも馬鹿馬鹿しくなるほどのメリットとデメリット。

 今日も一緒に背中流しっこしようねうへへ。


「だからそういう気持ち悪い顔がダメだと何度言えば……、まぁいいです。それよりもシャルにはどんな加護を与えるんですか?」

「うーん、そうだな……シャルはどんな力が欲しいんだ?」

「りいねえさまとひめばあにまけないのがいい!」

「ほう、さすが私の妹。なかなか言いますね」


 口では感心しているようだが、目が全く笑っていない。


「そうかそうか、でも姫婆ひめばあって言うのはやめような。殺されるから、主に俺が」

「だいじょうぶ。りあねえさまはしゃるがまもるから!」


 なんていい子なんだろう。でも出来れば姫と仲良くしてほしいなぁ……。


「いやっ!」


 うぅ……、人生とは儘ならないものである。

 どうしたものか……、出来ることならシャルには傷ついて欲しくない。

 となると体力か?

 でも体力を上げたらタンカー(攻撃を受ける役割)になる可能性が高い……。

 それならいっそのこと敏捷極みで敵の攻撃に触れさせない様にした方がいいのかもしれない。

 格闘技で例えるならばアウトボクサータイプ?蝶のように舞い、蜂のように刺す!

 蝶のシャルにゃん……ハァハァ……いけない涎が。

 よし、敏捷ステータスとスピード系のエクストラスキルに決定だ。


「それじゃあ、シャル。今から加護を与えるからね」

「はい!」


 シャルに向かって手をかざして神の加護を発動した。


「『戦神の加護をシャルロット・ヴォルドシュミットに与える!』」


 スキルが発動されるとシャルの身体に光が立ち昇り、俺の力が注ぎ込まれていく。

 与える力はエクストラスキルと『クイックタイム』と敏捷補正8ポイントだ。

 クイックタイムとは相手の行動順を飛ばす公認チート魔法……ではなく、引き伸ばされた時間の中を自由に動き回ることの出来るスキルだ。

 これを発動すると、時間が引き延ばされて周りがスローモーションで動いているように見える中、自分だけいつもどおり動くことができるという現象が発生する。

 周りから見れば、クイックタイム使用者が倍速で動いているように見える。


 これだけメリットの大きいスキルであれば当然デメリットが存在する。それはSP消費とMP消費だ。

 その消費は時間を引き延ばせば引き伸ばすほどに激しくなっていく。

 例えば忍ほどSPとMPがあったとしても、2倍速まで時間を引き延ばせば1分と持たないだろう。


 だが常時発動する必要はない。

 自分の命が狙われる一瞬だけ発動して回避すればいいのだ。そう、時間を操る星のプラチナのように。

 きっとこのスキルはシャルの大きな助けになってくれるに違いない。


 光が収まったシャルの頭にそっと口付けを落す。


「今日からシャルは俺の信者だな」

「しんじゃ!」


 そしてシャルに与えられた加護を確認すべく、シャルのステータスカードを見たリーゼが、喜ぶシャルを横目にぼそりと呟いた。


「お姉様……シャルを暗殺者アサシンにでもするつもりですか……」


 その発想はなかった……。

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