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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第一章 幼児編
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Sideセフィリア メイドの朝は早い

 私たちの朝は早い。

 私は日が昇る前に目を覚ますと、身支度を完璧に整え、まずヴァレリア様とリーゼロッテ様の寝室へと音を立てないように注意し、気配を消して移動する。

 お二人の寝室と私の寝室は隣同士であり、なんと部屋同士が扉一枚隔てて繋がっているのです。

 そこでお二人の愛らしい寝顔を見ながら本日の予定を確認します。

 これが一日の中でも最も難しい仕事となります。

 なぜなら愛らしく無防備な寝顔を魅せるヴァレリア様を目の前にして我慢しないといけないからです。

 なら予定の確認くらいご自分の部屋ですればいいんじゃないかって?

 死にたいんですか?


 話は戻りますが、私はあくまでお二人に仕える身分であり、まだヴァレリア様の起きる時間が来ていないのに、御髪やお顔を撫でたり、服の中に手を入れたり、あまつさえ足と足の間に手を滑りこませるといった起こしてしまう可能性のある行動は残念ながら取ることができません。

 どうしても我慢できないときは一度部屋に戻って昂ぶりを発散させるという方法もあるのですが、それをしてしまうとお二人の食事が遅れてしまう可能性もあるのでそれは最終手段となっております。


 予定の確認を終えると厨房に移動して料理に取りかかります。


「『ディテクト・ポイズン』」


 まず魔法を使って食材に毒物が混入されていないかを調査致します。

 今朝はトリカブトのようなものが混ざっているようですね。これを持ち込んだ者は後で処分するとして毒物を毒物籠に入れて、残った食材で朝食の準備に取り掛かることにしましょう。

 今日はベーコンと冬野菜のコンソメスープとソーセージ、それにスライスしたゆで卵を乗せた小さいサラダにライスを予定しております。もちろん食後のフルーツも忘れてはいけません。

 ヴァレリア様は肉、リーゼロッテ様は卵を好む傾向にあります。そしてなぜかお二人とも米を毎食のように食べられます。それももちもちした品種が好きなようです。

 この国ではパン、他国ではパン以外にもポテトを主食にすることが多く、米を主食にするという話はあまり聞いたことがありません。

 とはいえ、主人の要望には全力で応えてこそ一流のメイドであると言えます。

 そして私は超一流のメイドです。異論は認めません。


 私の横ではテラ様もアンネリーゼ様の朝食を準備しています。

 朝食を準備することは専属メイドにとって欠かすことのできない仕事なのです。

 なぜならば、私たち専属メイドは高い料理スキルを持っていたとしても、昼食や夕食時には直前まで主人の側に控えていることになるため、朝食以外では腕を振るう機会が与えられないからです。

 妹のセルフィは主人のご飯がまだアンネリーゼ様のおっぱいであるため、まだこの悦びを知りません。

 そして我が主人であるヴァレリア様はアンネリーゼ様のおっぱいを吸うシャルロット様を愛しそうに、そして羨ましそうに眺めています。

 私のおっぱいでよければいくらでも吸わせてさしあげるというのに…………残念ながら母乳は出ませんが。


 そんなことを考えながらも、料理の隠し味として溢れんばかりのラヴを注入していきます。

 え?野菜やベーコンを使ってスープの中に立体的なハートの芸術なんか作って全然隠れていないって?

 孕ませてしまうようなものを混入しているわけではないのですから十分隠れていると言えるでしょう?


「『アンチセプト』」


 食事の準備ができると、保護魔法を掛けて食べ物を出来たての状態で維持します。

 そんな魔法があるなら一日分作って保護すれば昼食も夕食も食べてもらえるんじゃないかって?素人ですかあなたは。

 保護魔法は完璧ではありません。

 一時間かけて劣化するものを十時間に伸ばす程度のものです。

 持続時間もそれほど長い魔法ではありませんし、昼食や夕食までとなると現実的ではありません。


「テラ様、よろしくお願いします」

「分かりました」


 お二人はアンネリーゼ様の部屋で食事を摂られるので、料理はテラ様がカートに乗せてアンネリーゼ様の部屋まで運んで行きます。

 最初は私が持っていくように申し出たのですが、テラ様は頑なにこの仕事を譲ってくださいませんでした。

 なのでここはテラ様にお任せして私はお二人を起こしに部屋に向かいます。


 部屋に入るとヴァレリア様とリーゼロッテ様がすやすやと寝息を立てて寝ています。

 激しく燃え上がるような強い感情を持つヴァレリア様も、そんなヴァレリア様を愛して止まないリーゼロッテ様も寝ている姿は歳相応に見えます。


「ん……ひめ…………むふふ…………」


 姫……。

 その言葉を聞くたびに心の中を言い知れぬ感情が渦巻くのを感じます。

 ヴァレリア様の言う姫とは王女のことを指すわけではないそうです。

 姫というのはとある人物を指す固有名詞であり、ヴァレリア様の世界はその方を中心に回っていると言っても過言ではありません。

 夜伽や戦闘訓練に励むのも、勉学に励むのも、魔導書を集めるのも、他者に唇を許さないのも、魔族の侵攻を食い止めたことさえもその人物のためだというのです。

 種族が人間だという姫なる人物は人間の国には住まず、現在のヴァレリア様ですら辿り着くことのできないほど遠い場所に住んでおられるそうです。

 ヴァレリア様はその人物の元へ行くことを最優先の絶対的に到達しなければならない目的と設定し、行動を決めています。

 その人物がヴァレリア様の妄想であればどんなによかったことでしょう。

 口では否定していますが、時折リーゼロッテ様もその人物と面識があると思われる言動を口にします。

 神へと至るほどの英雄になられるだろうヴァレリア様の心を独り占めする姫なる人物。

 それは本当に人間なのでしょうか?

 私は常々思うのです。

 その人物の存在は力を持ちすぎたヴァレリア様を縛るために創られた神の呪いではないのかと。

 そしてその人物こそが神の一柱ではないかと。

 そう考えると辻褄が合います。

 あれほど色を好むヴァレリア様が誰にも手を出さないのも、ヴァレリア様が王位に興味を示さないのも、ヴァレリア様が戦神の力を振るうことをよしとしないのもそれが原因だと思うのです。

 ゆえに私はヴァレリア様を縛り付けるその人物にあまり良い感情を持っていません。

 その人物さえいなければヴァレリア様の寵愛《性愛》を受けることができたかもしれないというのに…………いえ、相手が神であろうともそれを諦めるつもりはありませんが。


 そうして嫉妬の感情を押し殺しながら、ヴァレリア様を優しく揺さぶり起こすのです。

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