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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第一章 幼児編
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第19話 五才 儘ならぬ日々

 そんなふうに考えていた時期がボクにもありました。


「雑念が多すぎる。死にたいのか」


 そう言って容赦なくサイズを振るってボクの命を刈り取ろうとするシフ先生。

 既に地球でいうところの大学クラスまで一般教養と帝王学の勉強が終了しているため、午後からの勉強時間は全て訓練に当てられることになった。

 おかげで朝と昼食と夜にしかシャルと一緒にいられない。

 ああ、ボクの天使ちゃんは今頃何をしているんだろう?


「なるほど。少し余裕が出てきたというわけか。ならばまた少しギアを上げるぞ」


 そう言うとシフ先生の斬撃が鋭さを増した。

 ちょ!マジで洒落にならないから!

 どう見ても子供に向ける刃じゃないです!普通なら死んじゃってます!

 先生の斬撃をサイズの刃の上を滑らせ、紙一重で避けると、金属同士の擦れ合いによって発生した火花が頬を掠めた。

 ひええええええええええ!!!

 もう少し筋力のステータスが高ければもっと余裕を持って避けられるけど、今の状態ではこれが精一杯だ。

 勉強だって既に必要なところは学習を終えてるんだ。

 戦闘訓練だって終らせてしまえば、もっとシャルと過ごす至福の一時を味わえるに違いない!


「たぁっ!せいっ!せいっ!せいっ!ハァ────!!!」


 先生の攻撃を受け流したところから懐へ入りながら連撃に繋いでいく。

 袈裟懸けから左右へ斬り払うも、先生はスウェー(上半身を逸らす回避)だけで回避されてしまう。

 斬速が圧倒的に遅すぎる……。

 それでも!


「ボクとシャルの幸せのために先生を超えて魅せる!」

「いい気迫だ。しかし気持ちだけで志半ばのまま死に逝く者を今まで大勢見てきた。今は十分に力を付けることだけ考えろ」

「シャルたんはぁはぁ……」

「言うだけ無駄か……」


 頑張ってサイズを振り回すも、結局先生を追い詰めるどころか体力切れで身体が動けなくなってしまった。

 そこへ先生の鋭い一振りが振り下ろされ、支えきれずに大地へと倒れ伏しまう。


「ハァ…………ハァ…………」


 ダメだ。もう指一本も動かない。


「距離感は失っていないようだな」


 距離感?

 ああ、片目になったことか。

 そりゃあ失うわけがない。

 普通の人間は両目(ニ方向)から物を見ることで距離感を測ることができる。

 ならば理屈は簡単だ。

 視界に入ってくる一瞬前の映像と現在の映像を比べることでも距離感なんてものは掴むことができる。

 いや、そもそも目だけで空間を把握してきたわけじゃないんだから、例え両目が見えなくてもある程度戦うことができると思う。

 空気が、音が、相手の呼吸が、ある程度伝えてくれるのだ。

 最近は先生との訓練のおかげか、殺気と言うものも少しだけ感じ取れるようになった気がする。あくまで少しだけ気がするだけだけど……。

 うーん、姫の殺気はバンバン感じていたんだけどなぁ。

 懐かしいな姫の殺気。思い出しただけでゾクゾクする。これで当面おかずの心配はないな。……………………もちろんご飯の話ですよ?


「ヴァレリア様。スタミナポーションです。動けないようでしたら口移しでのませ…」

「いや、大丈夫だから」


 セフィの言葉を遮るように言う。

 セフィはことあるごとにボクに迫ってくるようになった。

 魅力的な女性であることには違いないんだけど、ファーストキスは姫って決めてるから浮気はいけない。

 セフィからスタミナポーションを受け取るとそれをゴクゴク飲んでサイズを支えに立ち上がった。

 倒れてはポーションを飲まされ、倒れてはポーションを飲まされ、……まるで薬漬やくづけにされたゾンビのようだ。


「さて、休憩ももういいだろう。訓練を再開する」

「ええ!!もう!?」


 休憩ってポーションを飲んだだけですよ?スパルタ過ぎる……。


「ヴァレリア様、頑張ってくださいね」


 そういうとセフィは離れていった。

 そして今度は向こうでMP切れを起こしてぶっ倒れているリーゼに向かってとことこと歩いて行った。その手にマナポーションを持って。

 その後ろ姿はもう死神以外の何者でもない。

 南無……………………。


 魔力の高いリーゼは午後の勉強の変わりに魔法の訓練を行っていた。

 おかげで魔法に関してはリーゼに大きく置いていかれる形になってしまった。

 魔力が低すぎて未だに魔法を発動することができないのだから仕方がないと言えば仕方がないんだけど、早く魔法を使えるようになりたいものだ。

 姫に紹介しなきゃいけない人も増えたしね。


「余所見をしていると死ぬぞ」


 そう言いながら先生がサイズで薙ぎ払ってくる。

 くっ!血も涙もない鬼共め!



 早いものでシャルロットが産まれてから既に一ヶ月が経過していた。

 結局あの産婆が誰の手のものだったのか未だに分かっていない。

 最初に怪しいと思ったのは王位継承権に関わる他の王妃やその子供たち。

 特に第一王妃は出産の報告のときにその場にいたから最初に疑った。

 しかし母さんが言うには、ありとあらゆる手を使って調べ上げた結果外部の犯行であることが判明したらしい。

 そもそもダークエルフは王位争いで暗殺を良しとしない。

 暗殺に走るということは、力関係において負けているということ認めるのと同義だからだ。

 それはダークエルフのプライドにおいても、対外的にも好ましくない。

 ならばなぜ出産の立会いをあそこまで厳しく制限しているのか。

 理由は簡単だ。

 暗殺はないが、力のある王族が自らの力|(残虐性)を証明するため、または逆らう者が出ないように見せしめとして赤子を殺すこと自体は珍しくなかったためだ。


 そして産婆の家族が皆殺しになって発見されたことから、家族を人質に脅迫されて犯行に至ったことが明白になった。

 他国がシャルロットを暗殺しようとした理由は唯一つ。

 それはボク……いや、シノブの情報を焙り出すためだろう。

 現状他国はシノブについて、その強さと姿、そして王族であることしか分かっていない。

 そして数ヶ月もの間シノブに関して全く情報を手に入れることができなかった。

 それはそうだ。知っているのはボクたちと他の王妃様たちだけで、あれ以来妹の事件までボクは変身していないんだから。

 だから他国のものはシノブに少しでも動きを見せて欲しかったのだ。

 僅かでも情報を得るために。

 王族に何かあれば王族の一員であるシノブが何らか動きを見せるかもしれない。そのためだけにシャルロットは命を狙われた。


 絶対に許せない。


 犯人が分かり次第一族郎党皆殺しにしてやるつもりだ。


 しかし結局一体誰が産婆と繋がっていたのか、手がかりがプツリと切れてしまっていた。

 正直なところ容疑者が多すぎて絞り込むこともできない。

 それほどまでに多くの国がシノブへと探りを入れている。

 思い出しただけでムカムカしてきた。

 この殺意を先生に受け止めてもらおう。



 ボクたちは訓練を終えるとすぐに母さんの部屋へと駆けつけた。

 母さんが愛しそうにシャルを抱いている。


「シャル起きてる?」

「ええ、ちょうど今起きたところよ。二人が来るのが分かってるのかもしれないわね」

「ぁぅぁ~!」


 シャルが母さんに抱かれたまま一生懸命小さな手を伸ばしてくる。

 か、可愛すぎる!

 そんな可愛い可愛いシャルロットには産まれてすぐに専属メイドが付いていた。

 名前はセルフィ。なんとセフィリアの妹である。実力、信頼共に申し分ない。

 いきなり専属メイドが付けられたのにはもちろん理由がある。

 それは命を狙われたからじゃない。むしろこれから命を狙われる可能性が高いからだ。


 シャルロットの顔を覗きこむと、シャルが両手を伸ばしボクの顔を触ってくる。

 なんて愛らしいんだろう。

 ベリーとキュートという言葉はこの世界にシャルロットが産まれ落ちることを想定して神が造った言葉と言っても過言ではないんじゃないかと思っている。いや、マジで。

 髪は銀というより白銀のように白い輝きを放ち、その瞳はボクたちや母さんと同じようにサファイヤみたいに澄んだ青色をしている。

 だが左目だけは違っていた。なんと紅く輝いていたのだ。そう、闇の中にいても分かるほどに。

 恐らくはシャルの左目が損失していたことと、代償魔法によって使われた素材が同じ左目であったことが原因であると考えられる。

 いや、違うな。青い瞳と紅い瞳を持つことでヴァレリアともシノブともお揃いになってくれるなんて、きっとシャルが産まれながらにして持つボクへの愛のなせるわざに違いない!物理法則を越えてまでなんてそんなうへへ。(注:主人公の妄想です)

 しかしこの左目は正しく見えているようだが、シノブと同じ左目になったことがシャルにどういう影響を与えるのかは今のところは分かっていない。


 そしてこの紅く輝く瞳から『シノブ』の関係者であることは用意に推測されてしまうことだろう。

 仮にボクがシノブであることを公表したとしても、危険度は上がりこそすれ、下がることはないと予測される。


 ならばどうすればいいか。


 簡単である。


 シャルを完璧に守り、手を出す者へは凄惨な死を与え、それを見せしめとすればいいのだ。


 シャルに手を出そうなんて考える者がいなくなるまで。


 そしてそれは既に実行されていた。

 愚かにもシャルを狙おうとした暗殺者はその鼻と耳と皮を削がれ、歯と骨を砕かれ、爪と髪を引き抜かれ、体内に毒蟲を詰め込まれたまま、ヒールの効果のなくなる致死ダメージギリギリの生きている状態で最も目立つ街中の広場へと張り付けにされた。

 そんな状態になった暗殺者は夜が明け、集まってきた人々を目の前に眼球を動かし、殺してくれと懇願したらしい。

 しかしそこに書かれた看板を見て、人々はほくほく顔で立ち去って行ったという。


 看板にはこう書かれていた。

 『ヴォルドシュミット王家に敵対する愚か者の絶望を我らが女神に捧げる』、と。


 ダークエルフの信仰する神は、夜の闇と残虐性を司る女神シャールだ。

 ゆえに『敵』に対する残虐行為は褒められこそすれ、批判されることはない。

 何と言っても自分たちの信じる神が推奨しているのだ。

 もし下手に情けを掛けようものなら、その者は例え王族であろうとも、一般市民にすらめられることになりかねない。

 だから王宮に入ってきた虫は徹底的に排除する。

 恐らく普通の感覚からすれば、あとニ、三人見せしめにすれば愚か者どもも気付くことだろう。

 一体自分たちが何に手を出したかと言う事に。

残虐行為=お供え物

信仰者であるダークエルフたちが残虐行為をするとシャールさんが悦びます。

あと、自慢話にもなります。

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