第16話 四才 兵科訓練
訓練を申し出た一週間後、早くもボクたちのところに依頼を受けた冒険者がやってきた。
さすがは冒険者。行動が迅速である。
本当はもっと早く来ることができたのらしいけど、ボクたちの模造刀の完成していなかったので今日になったらしい。
模造刀は筋力2しかないボクでも持てるように、最も軽いと言われているミスリル銀を使って作られ、形状もボクたちが持てるよう軽く設計されており武器としては比較的細い。
リーゼのものも刃を潰した細い日本刀がミスリル銀を使って作られていた。
セフィリアに案内されるままそれを持って訓練場にいくと、ボクたちに訓練を施してくれると思われる冒険者二人が既に待っていた。
「こちらが今日からお二方に兵科訓練を施してくださる冒険者のシフさんとジェインズさんです」
「シフだ」
…………………………………………え!?もう自己紹介終わり!?
シフと名乗った人が自分の言うことは終ったとばかりに目配せをしてジェインズさんに挨拶を促していた。
あの……名前以外何もわからなかったんですけど……。
というのも、シフと名乗った人は真っ黒なローブで身体をすっぽりと被い、白い仮面で顔を完全に被ってしまっているからだ。
声の感じからでは正直男か女かすらも分からない。
「二刀流を教えることになった冒険者のジェインズだ。周りからはジェイって呼ばれている。よろしくな」
ジェインズと名乗る男は親しみを持てるような笑みを浮かべて挨拶した。
こっちはもう見るからに人間の筋肉ファイターである。
歳は三十から四十くらいだろうか。筋肉ファイターのクセして猪武者には見えない。どこか大人の知性のようなものが感じられる。しかも男前。これでベテランの冒険者だっていうんだからきっとモテるに違いない。早々に爆発すればいいのに。
「大鎌の使い方を教えてもらうことになっているヴァレリア・ヴォルドシュミットです」
ボクは男前侍を無視してシフさんに笑顔で挨拶をした。
「私は刀と二刀流の使い方についてご指導を承るリーゼロッテ・ヴォルドシュミットです」
続いてリーゼも二人に挨拶する。
そしてセフィが訓練の説明に入った。
「訓練を始める前にお二人に言っておかなければならないことがあります」
「…………」
「なんだ?」
シフさんが無言だったため、男前侍が返事をした。
「契約通りこの訓練で知り得た情報は全て他言無用。訓練時間は朝から昼の間まで。そしてヴァレリア様、リーゼロッテ様に対しては子供と思って教える必要はありません。一般の訓練生と同様にお願いします」
「子供と思うなっていうどういう意味だ?」
「つまり子供でも分かるような言葉に直さなくても、ボクたちは理解できるということです」
「なるほどな。ダークエルフの皇女は神童というわけか。まぁこっちとしては仕事が楽になるんだから文句はない」
「もちろん……」
「他言無用だな。分かってる」
「お二方はまだ武器の持ち方から知りません。それではこれよりさっそく訓練の方をよろしくお願いします」
「「よろしくお願いします!」」
そこから俺とリーゼは二手に別れてそれぞれの武器の扱い方を教えてもらった。
まずは大鎌の持ち方から。
ボクの選んだ大鎌の柄はシフ先生が持っている大鎌と同じで、取っ手がなく真っ直ぐな形状をしていた。
持ち方を覚えたら次は素振りをすることとなった。
「そのまま大鎌を真横へ振ってみろ」
言われるままに大鎌を振る。
すると途中で大鎌の軌道がぬるりと変わった。
「あ、あれ?」
もう一回振ってみるがやはり大鎌の軌道がずれる。
「大鎌は刃の部分が剣に比べて薄く、幅があり、その形状から風の抵抗を受けやすい。だから大鎌の自重負けたり、力を入れすぎたりして少しでも軌道が外れるとそこから風の抵抗を受けて斬撃が大きくずれていく。当然武器が軽いほどに大気を流れる風の影響が大きくなる。これをただの素振りだと思うな。風を切り裂くイメージをしろ」
「分かりました!」
なるほど、そういうことか。
一振り、二振り、少しずつ力を微調整しながらサイズを真っ直ぐと振っていく。
徐々に軌道のブレが小さくなり、一時間もすれば変な風さえ吹かなければ大体真っ直ぐに振れるようになってきた。
「なるほど、覚えは悪くないようだな」
「ありがとうございます、シフ先生!」
「先生?」
「え、だって大鎌の先生でしょ?」
「そうか……そうだな」
先生は少し考え込んでから返事をした。
「次は斬速について説明する。まず大鎌を振るときお前はずっと力を入れているな」
「はい」
「それではダメだ。大鎌を地面に置け」
ボクは言われたとおり大鎌を地面に置いた。
すると先生が左手を真っ直ぐ僕の方へと突き出した。
「ここに向かって全力で殴ってみろ」
「え?」
「二度は言わない」
「は、はい!」
ボクは全力で先生の差し出した手に右ストレートを打ち込んだ。
ペチ。
うん……こんなものだよな。筋力も敏捷も低いもん……。
「次は力を抜いて出来るだけ素早くここを叩いてみろ」
「はい!」
右手の力を抜いて素早くジャブを打ち込む。
パチ。
「どちらの方が速かった?」
「力を抜いてパンチした方です」
「どちらの方が威力あった?」
「全力でパンチした方です」
「よし、次はサイズを持って力を抜いて振ってみせろ」
「はい!」
なるほど、つまり力を抜いて大鎌を振れば素早い斬撃が可能になるというわけか。
地面に置いた大鎌を拾い上げて力を抜いて振ってみる。
へろ。
あれ?
「速くなったか?」
「なりません……」
「なぜだか分かるか?」
うーん、もしかして……
「武器の重さのせい?」
「そうだ。重い武器を持って力を抜いたところで素早く振れるというわけではない。ならばずっと力を込めればいいかと言うとそうでもない。さっきのパンチでも分かるように人は力を込めるとスピードが遅くなる。では素早く攻撃するためにはどうすればいい?」
「えっと……力を込めないと重い物が速く振れないけど、力を込めると遅くなるってことは、振り始めは力を込めて、ある程度スピードに乗ってきたところで力を抜くってこと?」
「そうだ。力を込めた状態の最速に達するまで力を入れ、そこからさらに力を抜くことで武器の振りは加速する。そしてインパクトの瞬間に再び力を込めるんだ」
「インパクトの瞬間?」
「力を抜いたまま斬りつけると、武器の重さのみに頼った軽い斬撃になる。対象を真っ二つに切り裂きたいならばインパクトの瞬間に力を込めればいい」
「分かりました!やってみます!」
時間単位の力の調整は大得意だ。
シフ先生に言われた通り、振り始めに力を込めるとすぐに最高速へと到達する。
そこから力を抜いて、さらにサイズへ弱い力を加えていくとサイズの速度が加速していく。
しかしここでサイズの自重に力が負けて下にブレ、そのまま斬撃が逸れていった。
そうだ。まっすぐ振りぬくためには自重に負けないだけ上に力を込める必要があったんだ。
難しい……。
さっきよりも格段に難しくなった。
でもさっきより確実に素早い斬撃ができている!
これは凄い!
ボクは夢中になって素振りを繰り返した。
体力が少ないからあっという間に疲れてしまうが、そこはセフィが用意してくれたポーションのガブ飲みで凌ぐ。
一振りするごとに大鎌が扱えるようになってきているのが良く分かって楽しい!大鎌を選んで本当によかった!
シフ先生最高ですっ!




