第14話 四才 凱旋
俺たちが城に戻って一週間が経過して、ようやくダークエルフの本隊が城へと帰還するという報告が国中を駆け巡った。
勝ち戦であったこと、そしてその中でもダークエルフが最も勝利に貢献したことは既に誰もが知るところであり、今回は派手に凱旋パレードが行われることになった。
俺たちも参加するように父さんの方から要請があったので、軽い気持ちでそれを承諾すると、何と父さんたちのすぐ前の列に屋上付きの豪華な馬車が用意されることになってしまった。
はっきり言って父さんや母さんたちよりも目立っているような気がして仕方がない。
馬車の上から見えるだけでも何百何千という人の群がある。
こちらから見えるということは逆に向こうからも見えているということだ。
俺はギギギッっと首を横に向けて肩にとまっているニーフェに声をかけた。
「ナァ、ニーフェ」
「何ですかお兄様?」
「ナニカ ポーズ トカ トッタホウガ イイカナ?」
現在直立不動である。緊張が極限に達していてもうカチコチである。平衡感覚ナニソレ?オイシイノ?
「そうですね。少し力を抜いて……というのは無理そうですね」
「ム、ムリ……」
無理無理!絶対無理!いくら姫がいるリア充になったからって急にコミュニケーション能力がアップしたりなんかしないから! 自分から知らない人に話しかけることもできなかったチキンハートが多少改善されたとはいえ、この状況は罰ゲーム……いや、生き地獄と言っていいだろう。
もしテンションが上がるようなことでもあれば勢いでなんとかなるかもしれないけど、もう戦いからすっかり遠のいて落ち着いてしまっているからどうしようもない。
そうだ!その手があった!
「ニーフェ」
「何ですか?」
「チョットタタカッテ キ ヲ マギラワサナイカ?」
「市街地で?正気ですか?」
正気ッテ ドンナ スキル デスカ?
「お兄様。とりあえず剣を出してください」
「『チェンジウェポン』」
ニーフェの言うとおり魔剣を右手に呼び出した。
「それを目の前に持ってきて下向きに向けて……って馬車に突き刺さないください!壊れますから!そう、それで床に先を軽く当てるくらいにして、両手で剣の柄の尻に手を添えるようにすれば完璧です。そうです。そのままきょろきょろしないで視線を少し下げて、パレードに来ている人たちを委員長さんがお兄様にしていたようにゴミを見るような目で見れば完成です」
ニーフェの言うことを一つ一つ忠実に再現していく。
ゴミを見る目か。そんな目で見られたことは数え切れないほどあるから…………やばい、思い出したらちょっとぞくぞくしてきた。
「お兄様、顔がとても残念なことになっていますよ」
「おっと、いけないいけない」
ご、ごめん!姫!浮気じゃないから!心はいつも姫に捧げてるから!
でも妄想──もとい、思い出のおかげで結構緊張が解れてきた。さすがは委員長。イメージだけで俺のコンディションをここまで回復するとはやるな!
「流石なのはお兄様のスケベ心です」
「ウルサイヨ」
街中が歓声に包まれている。
まるでお祭り騒ぎだな。
一人一人が何を言っているのか分からないが、とにかく楽しそうだ。
少しでも近くで見ようとする人とパレードをガードする兵士が揉み合いになっていたりしている。
面白そうだけど大変そうだなぁ。
「ところで俺たちって今どういう位置づけなんだ?」
「何でも国王の遠い親類ということになっているらしいですよ。で、普段は放浪の旅に出ているけど、今回は世界の危機だから戻ってきたと」
「今まで確認されたこともなかった王族がひょっこり出てくるなんて設定で大丈夫なのか?」
「大丈夫らしいですよ。国王陛下の姉、もとい私たちの叔母様のように王族の中には世界を放浪していたり、国から追放されたり、他の国へ嫁いでいった人も結構いるみたいですから、出生不明の王族がひょっこり出てくるなんてのは珍しいことではないみたいです」
「それって王位継承権とかですごく揉めるんじゃないか?」
「実際兄弟同士、親類同士で血みどろの戦いになることが多いらしいですよ。個人が強くとも結局は生き残ったものが強者ですから、やはり国内出生の王族の方が最初から権力を行使できる分有利ではあります」
「うへぇ…………関わり合いになりたくないな」
「今回のことは全てお父様にお任せして、私たちは権力に興味がないというスタンスを貫きましょう」
「だな」
そんな感じでニーフェとぶつぶつ話しているうちに、いつの間にかパレードも佳境へと入っていた。
俺たちの列は道の両側に別れて先に国王たちの入城を見送る。
そしてその後に続いてようやく俺たちも城へと入城していった。
その後、祝勝会やら何やらがあったが、ボクは戦神化を解いて何食わぬ顔で参加した。
そこでは案の定誰もが『シノブ』と『ニーフェ』について探りを入れていたが、最後までボクたちの正体がバレるようなことはなかった。
そして今回の活躍の褒美として、国が所持している稀少な魔導書をこっそりいくつか貰うことができた。
これも母さんが父さんに口添えしてくれたおかげだ。
とは言え、まだまだボクたちのスキルレベルでは覚えることもできないので、母さんに保管してもらっている。
そして今回魔族側に甚大な被害を与えることができたことで、当分侵略の動きはないだろうという見通しになっているらしい。
ただあの後、少しばかり長に乗ったとある種族の人たちがこのまま魔族領に侵攻しようという話になりかけたという話を聞いたときには呆れ返るしかなかった。
しかし、そんな馬鹿げた意見が採用されるはずもなく圧倒的多数によって却下され、立ち消えとなった。
そんなわけでボクたちはようやくいつもの日常を取り戻すことができたのである。




