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異世界版でデスゲーム  作者: 妄想日記
第一章 幼児編
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第11話 四才 押し寄せる快楽

「ククッ、オークってのは随分と諦めが早いんだな!」


 俺は笑いながら敵に向かって剣を振るう。

 すると鉄の鎧ごとリザードマンの体を何の抵抗もなく切り裂いた。

 さすがはクリスが作った渾身の一振り。

 この世界においてもその威力は健在だ。


「ただでは死なん!ガアアアアアアアアアアアアア───ッ!」

「ギャン!」


 斧が大きく薙ぎ払われると、盾を持ったコボルトが盾ごと真っ二つに切り裂かれ、その周囲にいた魔物たちも衝撃により消し飛ばした。

 これまた豪快な人だな。

 もしかしなくてもこのオークの人、相当の使い手じゃないか?

 プレイヤースキルだけなら、攻略ギルドのメンバーたちをも上回っているかも知れない。

 きっと長い間訓練し、戦い続けることにより培われた技術と経験の差なのだろう。

 しかし、状況は最悪といったところだ。

 敵の群れが俺たち殿しんがりを食いちぎらんと砂糖に群がる蟻の如く押し寄せてきている。

 このままでは魔族たちが調子づくかもしれない。

 だがそれでは困る。

 俺は長々と戦争に関わっている暇なんてないんだよ!


「ニーフェ!」

「なんですか、お兄様?」

「そろそろ攻める!背中は任せた!」

「分かりました!」


 命を賭けた戦いに血がたぎる。

 久しぶりの感覚だ。

 はやる気持ちが抑え切れない!!!

 剣を後ろに振りかぶり、足に力を溜める。


「ダークエルフ隊特攻隊長シノブ!『鬼神化《推して参る》!』」

「おいッ!」


 俺が決死の突撃をするとでも思ったのか、オークの戦士が引き止めようと声を上げる。

 だが、そんなものでは止まれない!

 身体から紅い稲妻が迸り、全身から力が溢れてくるのを感じる。

 だが、それ以上に闘争本能が抑えきれないほどに噴き出してくる。

 こんなことは初めてだ。

 スキルが精神にまで作用しているのだろうか?

 視界を埋め尽くすほどの敵が愛しくてたまらない。

 あぁ、待っていろ。すぐにみんな相手してやるから。

 さぁ始めようか。異世界の戦い(ゲーム)を。


「我流神滅奥義!『ソードテンペスタ(ミスティ)』『ソニックドライブ(ルテイン)』!」


 敵の群れに向かって音速を超えたスピードから突き技が発動する。手に持つ魔剣ダインスレイヴは直線上にいる敵を悉く貫き、その衝撃波により全てを薙ぎ倒しながら敵の群を真っ二つに切り裂いていく。

 血が飛び、骨が砕け、肉片が飛び散り、大地に大きな傷跡を付ける。

 敵を倒す感触が、体が捻じ切れそうになる風圧が、人間には知覚しきれない速度が、身体に掛かる多大な負荷が、高揚感を押し上げていく。

 一体今どれほどのアドレナリンが分泌されていることだろう。

 最高に気持ちいい。


 しかしそれも1キロほど突き進んだ所でスキルが終了し、技後硬直が発生する。

 そしてそこへ殺到してくるモンスターたち。

 完全な無防備。だが俺は一人じゃない!


「ニーフェ!」

「あいさ!」


 ニーフェが大きく息を吸い込むと、次の瞬間敵に向かって漆黒の炎を噴き出した。

 そう、これこそニーフェが『竜化』したことで使用可能となる『終焉のブラックドラゴンブレス』。

 ニーフェの口から吐き出された黒い炎は周囲の敵に群がってくる敵を塵も残さず焼き払う。その技はまさに中二病の本家本元、邪○炎殺黒龍波そのものである。なにそれ、マジ羨ましいんだけど。


 そして再び俺は動き出す。


 魔剣を振り払うと突き刺さったまま絶命していたモンスターたちが血肉を飛び散らせならが地面に叩きつけられた。

 まだ辛うじて息のあったリザードマンに剣を力任せに振り下ろすと、胴体が真っ二つに千切れ、返り血が顔に跳ねる。

 なんでそんな残酷なことが平然とできるかって?


 あえて言おう!


 A. I. で す か ら!!!


「はぁ…………」


 戦えば戦うほど心が満たされていく。

 思わず甘い吐息がこぼれるほどに。

 しかしそれでもまだ足りないと心が雄たけびをあげている。

 もっと…………もっとだ!。


「『スピードギア!』我流殲滅奥義!『紫電一閃(クラウ)』『ソニックドライブ(ソナス)』!!!」


 スピードギアにより以前より遥かに範囲も威力も強化された広域殲滅奥義『クラウソナス』。

 高速で移動しながら繰り出される剣圧から蒼い稲妻がほとばしる。

 この世界の魔物は強くともLv70、そして普通はLv40にも満たないものがほとんどという話らしい。

 レベル差だけでも理不尽なほど違うが、それ以上に俺には神話連合のみんなから託された数々の武具やスキルがある。

 だからこそ手にすることのできた神話連合最凶火力の称号!

 みんなに力を託されたシノブが負ける道理は、ないッ!!!


 クラスソナスによる一振りが地上に幾百、幾千という死を撒き散らす。

 そして硬直したところでニーフェが吐くドラゴンブレスが周囲に群がる魔物焼き払う。


 姿は可愛らしく見えなくもない爬虫類だが、ブレスの威力はこのあたりの雑魚など軽く焼き払えてしまうほどの威力をもっている。

 そしてそのブレスは敵を焼き払う程にその威力を増している。

 もしかするとニーフェのレベルが急速に上がっていっているのかもしれない。

 そうなると邪魔になってくるのが飛行型の魔物たちだ。

 地上の魔物と違って、高低差によるズレがあるため、俺のスキルでは一掃することができない。

 今は飛行モンスターを無視して地上の魔物に集中するのがいいだろう。

 より効率的に。より圧倒的に。


 俺は群がる敵に向かってクラウソナスを何度も放ち、片っ端から焼き払っていった。

 もう既に魔物を何千匹殺したのか数える気も起きない。

 しかし飛行モンスターも、もうかなり集まってきた。

 稀にではあるが、技後硬直時に攻撃を食らうことこともあった。

 だがそれすらも心地良い。

 ジークの鎧のおかげか、レベルの所為か、あまり深い傷を受けることはないが、それでもダメージは確実に蓄積されていく。


 少しずつではあるが、確実に死が近づいてくる感覚。


 実に悪くない。


 無双もののゲームであろうとプレイヤーは無敵ではないのだ。


 とは言えこのままではジリ貧になる可能性もある。空にいる大量の飛行モンスターを見据え、どうしたものかと思案していると、氷の刃や雷撃が飛行モンスターたちを焼き払った。

 そして不幸にも生き残ってしまい、地上に落とされた飛行モンスターに向かってオークたちが次々と武器を振り下ろす。


「あなたたちだけ殺戮を楽しむなんて卑怯だわ。私も混ぜなさい」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはなんと黒馬に跨った母さんがあった。


「かあさ……アンネリーゼ様!」


 あぶなっ。驚きのあまり危うく母さんと呼んでしまうところだった……。


「確かアンネリーゼ様たちの部隊は先に後退したはずでは……」


 殿に残ったのは俺たちのように高い敏捷性を持つ戦士たちだけだったはずだ。


「愛する我が子……のように想っている者たちを残していけるはずないでしょう?それに……ふふっ、こんなにも素敵な光景を目の前にして自分を抑えられるわけがない」


 無数の死体が転がり、血で大地が染められ、それでも敵がゴミのように群がって来ている。


「あなたたち…………少し真面目すぎるところがあったから心配していたけど、私の杞憂だったようね。もうどこからどう見ても立派なダークエルフだわ」

「シノブ様、活躍されるならば私の見えるところでお願いします。でなければ正確な記録を残すことができません」


 そう言ってセフィリアが細剣を片手にペンとメモを取り出す。


「え!?記録って何の記録!?」

「それはもちろんシノブ様の英雄譚でございます。遠くない将来世界中の吟遊詩人たちに語られる予定です」


 ちょっ!何それ!?いらないから!そんな恥ずかしいもの残さなくていいから!


「シノブ様。上空の敵は私たちにお任せください」


 そう言ってテラは落ちてきた魔物を巨大なハンマーで圧殺した。

 顔まで飛び散った血をぺろりと舐め取ると、いつものようににっこりと微笑む。


「テ、テラまで……ああ、任せた!」


 母さんたちの後ろには反転して戻って来ただろうダークエルフの全軍と、オークたちの全軍が駆け上がってきていた。

 なんとも頼もしい。

 ならいつも通り、俺は俺の役割をこなすだけだっ!


「ニーフェ!」

「はい、お兄様!」

「お前はアンネリーゼ様たちと共に上空の敵を頼む!」

「ですがお兄様。硬直時間はどうするんですか?」

「敵の攻撃を食らわないところで硬直を発生が発生するように調整すればいいだけの話だ。心配するな。地上に這いつくばっている敵は蟻の子一匹も残しはしない!」

「分かりました。くれぐれも硬直中に後ろの穴を掘られないように気を付けてくださいね。それは私のものですから」

「何がお前にやるか!これは姫に……いやいやちょっと待て俺!そんなもの生涯誰にもあげるつもりはないから!」


 い、一瞬姫に掘られるところを想像しちゃったじゃないか!

 ちょっといいかもなんてことは決して思っていない。思っていないったら思っていないのだ。

 …………幸いにもこのやり場のないいきどおりをぶつける相手には腐るほど目の前に沸いている。


「さて…………と、それじゃあ俺たちダークエルフに敵対した愚かな魔物共を残らず根絶やしにしていくか!」


 俺は元気良く地面を蹴ると、再び押し寄せて来る敵に向かって駆け出した。

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