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54話 考えるおっさん


 水辺の拠点へ戻った翌朝。

 小鳥たちの元気なさえずりが聞こえてくる。

爽やかな朝の調べだ。 しかし俺は一つの苦難に直面し、唸り声を上げていた。


「紙が無い……」


 正確には葉っぱだが。

いつも不思議と肌触りの良い大きい葉っぱの用意されていたトイレ。

穴を掘った上に木の棒を使い椅子が作られた中々に使い後心地のよいトイレだ。


「被せる葉もないな……?」


 臭い予防なのか、消臭効果のある葉も用意されていたのだが、無くなっていた。

俺は立ちのぼる悪臭に鼻を押さえる。 しかし、目下の問題は尻だ。

 まさか拭かない訳にもいかないだろう。 


「レフトハンド……」


 不浄の手。

俺の左手を中二病に冒せというのか。


「無理! この葉っぱでもいけるか!?」


 俺は自然の恵みに手を伸ばした。

地面に生えている野草だ。 なんて名前かは知らない。


「むっ?」


 俺はその感触に眉をひそめた。


「くっ……!!」


 柔らかそうな葉っぱだった。 肌触りも良く、棘のような物も無い。

しかし残念なことに、耐久力も無かったようだった。



◇◆◇


 

 手を洗うついでに、汗も洗い流した。

沢の水は冷たく気持ちがいい。 

 相変わらずタプタプのお腹も、少しは脂肪が減っただろうか。


「もっと引き締めないとな」


 そうは言っても腹は減る。

今日の朝食はどうしようか?  

バナナと昨日手に入れた蛇肉かな。


「一郎。 パンないの?」


 拠点へ戻ると、スレンダーギャルがそう言ってきた。


「え?」


「マリにあげたパンだよ。 私も食べたい」


 このギャル、美人系でオラオラ系だ。

このSっけにちょっと引いてしまう自分がいる。


「今、ちょっと材料がないから……」


「から?」


「無理かなぁ……なんて!」


「チッ……」


 可愛く言ったのに舌打ちされた。

ゴミくずを見るようなあの目。

 俺のトラウマは蘇る。


「田中、潰しちゃったぁ……」


「うわっ! ヤバっ、田中菌うつったよぉ!!」


 それ田中ちゃう、カメンムシや。


 


「じゃ、バナナでいいや」


 スレンダーギャルよ、俺はパシリではないぜ?

それに今はカメンムシ田中でもない。 ガツンと言ってやる!


「マリも食べたがってたなぁ」


「行ってきます!」


 マリちゃんが食べたがっているなら仕方がない。

ちょっくら行ってくるとしよう。


「……ちょろ」


 急いでいた俺には、スレンダーギャルの呟きは聞こえなかった。


 バナナは誰が作ったのか知らないが、木の棒を使った小屋に置かれて保存されている。 直射日光から避けるようにバナナの葉の屋根が付いた吹き抜けの小屋だ。


「げっ……バナナきらしてるじゃん」


 人数が増えたからだろうか?

それに男たちが水辺の拠点を離れていたのも影響しているかもしれない。

 他の食料も全然ない。 

魚がいい感じに串刺しにされ干されていた台も今は空。 香りのいい山菜も、灰であく抜きをされていたワラビのような物も少しだけしかない。


「……どうなってんだ?」


 トイレの葉っぱもそうだが、急に物が不足し始めた。

いや、前も不足はしていたのだけど……。

 そもそも誰が用意してくれてたんだろう?


「まぁいいや。 バナナ急いで取りにいかなきゃ!」


 考えてもバナナは手に入らない。 行動しなければ。

俺は帽子をクルリと回しながら被る。 おっさんの残していった帽子だ。

 おっさんの動きには無駄がなかった。

バナナ林まで何かいい物が無いか探しながら行こう。



◇◆◇



 俺とイケメン。 それにギャル達を含めて総勢八名。

反対側の砂浜まで湖から流れる小川を筏で行こうと思ったのだが。

 人数が多いので本格的な物を作らないとだめだな。


「この、ポーポー? 美味しいわね」


「私はチコリのコーヒーが気に入りました。 とっても飲みやすくて、後味が癖になりそうです」


 湖まで来た一日目は前回来た時に作った拠点を整備して、食料集めと小道具作り。

二日目は石斧を使って出来るだけ軽い木材を集めた。 紐は繊維質の葉を裂いて繊維を取り出し、強度を増すために撚り木材を結ぶためのロープとする。

 作ろうと思えばこれで服だって作れる。 種類は違うが麻の服とかみたいな感じ。


「山田さん、こんな感じでしょうか?」


「ん、いい感じだな。 手先器用だな?」


 イケメンはまだ足が完治してないようなので、無理はさせない。

拠点でロープ作りをしながら療養だな。

 この人数程度の薪集めや食料ぐらい俺一人でも問題ない。

それに。


「このキノコ! 山ピーのぐらい大きいです!!」


「ええ!? しゅごすぎですね……。 英斗君が壊れちゃいますよ……!?」


 他の女性陣も協力的だ。

雑用の手伝いや、亜理紗がキノコや山菜の知識があることも分かった。


「おっさん。 こんな感じ……?」


「お、おう」


 あとギャルが不器用なのも分かった。

たいした問題も無く、俺たちの新たな生活は順調だ。

 一人を除けば……だが。


「……」


 亜理紗とオカッパが楽しそうに喋っているのを見つめる黒髪短髪。

他の奴らは上手くやっているようだが、こいつだけは孤立している。

 以前のように敵意丸出しといった感じではないが、まだ打ち解けていないようだ。


(まったく世話が焼ける……なにかレクリエーションが必要かな?)


 打ち解け合えるようなイベント。

気分は学校の先生。 馴染めない転校生を打ち解けさせるようなイベントを考えねば。 


「くくく……」

 

「……おっさん、キモイよ?」


 どうせなら、俺も楽しめる物がいいよね?

ギャルにキモがられつつも俺はイベントを考えるのだった。



 















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