83 本物を探す女
──GRASH、GRASH、GRASH!
私とスズカとオリガさんの魔剣が衝突した瞬間、その反動で私とスズカは吹き飛んだ。
「邪魔しないで浅倉!!!」
「良いじゃないか、みんなで殺ろうよ!」
起き上がって斬りかかってくるスズカをBlack Miseryで跳ね返す──重いっ!
イギリスに渡って数週間も経ってないのに、もうこんなに成長を?
「私に攻撃してくれないの〜? 暇してるよー」
「うるさいッ! 私はアンタをエクスカリバーの持ち主だなんて認めない」
抜刀ではなく経戦術でオリガさんに斬りかかるスズカ。
降神オリガはそれを嘲笑うように避けながら、本当に嘲笑う。
「認めないと言われても、今こいつを持ってるのは私だからねぇ。君に一体なんの権利があるのかな」
「蚊帳の外にしないでください!」
私は略式のFurious Gravityを放つ。発生した重力波で吹き飛んだのはスズカだけで、降神オリガはその重力波を聖剣と呼ばれる魔剣で触れるだけで切り裂いた。
「力量差は歴然さ。一旦話をしよう」
「アンタ──!」
「待ちなよ。整理しよう。東雲ちゃんはなんで私を執拗に、はるばるエディンバラからここまで追いかけてきたの?」
「そんなの決まって! ……あれ?」
「スズカ?」
「この女に目の前でユウリを殺されて……だからアタシはこいつを殺さないとって思った。でも──」
「それが事実なのか確証が持てない?」
「どういうこと? 姫野が殺された?」
「いーや。誰も死んじゃいないよ。電話でもしてみればいい」
スズカが疑わしげに姫野のスマホに連絡をすると、向こうで眠たそうな声がする。
『何時だと思ってんだよぉ……。オレただでさえ昼の訓練でボロボロなんだよぉ……』
「ユウ……リ……」
そのスマホを取って代わるオリガさん。
「あ、姫野くん? 昨日分身魔剣使うためにちょっと指先刺した〜。めんごめんご。それと、その分身を東雲ちゃんの目の前でぶっ殺したから」
『オリガさんなにしてんすか!? オレの人権は!?』
「出会ってから私の乳ばっかり見てるお前に人権なんかあるわけないだろ……」
『だってそこに山があるから!!』
最低である。
「……じゃあ、ユウリは生きてるってこと……?」
『え、生きてるよ?』
「……ユウリ……良かった」
オリガさんは通話をきる。
「私とて嫌がらせでこんなことしないよ。さすがに趣味が悪い。八神ちゃんみたいなスプラッタ趣味もないし」
「じゃあなんで──」
「色恋にうつつを抜かして、剣が鈍いから」
その言葉は私とスズカ、両名に刺さる言葉だった。
「アタシはそれで手を抜いたつもりなんて──」
「そうかな。訓練の最中、死にたくないという一瞬の油断。剣がぶれた。相手が本気の十三獣王なら確実に死んでいた」
降神オリガの言葉は鋭い。
「死にたくないのなら、生への渇望を捨てることだ。そうでないなら、魔剣師なんて諦めなさい。ましてや剣聖なんてね」
「でも、アタシは!」
「私はね、東雲ちゃん。本物が見たいんだ」
本物……?
「君たちが学生なのはもちろん知っている。学生の本分は学業と青春だ。でも、その先を常に考えなければ、私みたいになる」
「あのっ」
「なに? 浅倉ちゃん」
「誰の勝ちですか?」
「はい?」
「えっと、今の試合。誰の勝ち……?」
そう言うと、降神オリガは吹き出して笑った。少し落ち着くと独り言を言うオリガさん。
「──なるほどな。お前の気持ちが少しわかるよマユラ」
そう言って彼女は別の短い魔剣を取り出して空間を割き、断層を開いた。
「ふたりとも。一度偽物になったら、もう本物にはなれない。それを伝えたかった」
そして彼女は裂け目の向こう側に消えていった。
「なんだったのよ……」
そして私とスズカは養護教諭さんにめちゃ怒られた。保健室、ぐっちゃぐちゃだったからね……。
***
頭のこぶを冷やすのにあずきバーを持ってきたアレンはやっぱりどこかズレてるけど、気持ちはありがたい。
スズカと一緒に、痛む箇所にあずきバーをあてがって談話室にて事の運びを聞く。
「アタシたちがイングランド国営で訓練をはじめて十三日目にあの女は現れた。不吉よ……。私が日本から来たと見たら、間髪入れずに剣を抜いたの。それからは地獄の訓練が始まった」
「具体的には……?」
「私は抜刀の一撃必殺でしか敵を倒せない。だから継戦能力をつけろって言われて、魔力禁止の真剣での試合を何度も何度もやったわ」
「それってただの真剣での斬り合い……」
「そう。馬鹿馬鹿しい程の自力での戦い」
そしてその最中に、姫野が殺された。本当には死んでないが、そう偽装された。
オリガさん曰く、本物が見たいから。
「で、アタシはブチ切れていつの間にか日本にいたって……わけ……。あれ? アタシどうやって渡って来た……?」
「あの断層を開いたの、スズカだったよ。見てたから」
スズカは自分の手を見つめ、訝しんだ。もしもオリガさんが、「本物」というものを引き出すためだけに彼女をキレさせたのだとしたら、それは異常だし──。
──学生の新しい力をこの短期間で発現させるのも、異常だ。
「ともかく、あの女には注意しなさい。八神ライザと同じくらい、何考えてるか分からないから」
私は少し違うと感じていた。
八神ライザは本当に何を考えているか分からないけど、降神オリガは少なくとも自分の目的を明らかにしている。
「──本物か」
次はいつエクスカリバーと斬り合えるかな。
そんなことを考えながら、ようやく溶けてきたあずきバーをしゃくりと噛んだ。
まだ、芯の方は硬かった。
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