79 不死鳥紋の女
乙女カルラ:すまないな。遅くに
浅倉シオン:んーん。ゲームしてた
乙女カルラ:ゲームとかするの……?
浅倉シオン:ソリティア好きだよ
乙女カルラ:珍しいな
浅倉シオン:ひとりでできるから……
乙女カルラ:なんかごめん……
浅倉シオン:それで本題は?
乙女カルラ:頼み事があるんだ。今僕京都だから
乙女カルラ:うちの寮にとある先輩がいるんだけど、その人とにかく寝起きが悪くって──
浅倉シオン:代理モーニングコール的な?
乙女カルラ:察しがいいな。その人一応学院の警備部門の学生代表でさ、朝は早く起きなきゃダメなんだけど
浅倉シオン:適任の対義語じゃん
浅倉シオン:いない間どうしてたの?
乙女カルラ:同期の曽根って言う女子に頼んだんだけど、そいつ風邪ひいちゃったみたいで
乙女カルラ:代わりにモーニングコールしてくれないかな。君くらい早起きなやつ他にいなくて
浅倉シオン:まかセロリ
乙女カルラ:え、いいの?
浅倉シオン:いいよ。覚えてないかもだけど、イーストパークで天然砥譲ってくれたじゃん。そのお返し
乙女カルラ:そのあと色々あったけど……
浅倉シオン:気にしない気にしない。じゃあ、生八ツ橋お土産にほしー
乙女カルラ:お安い御用だよ。近い親戚に作ってるとこあるから。えっと、何キロ欲しい?
浅倉シオン:ひと箱でいいれす……
***
カルラとのLINEを閉じると、まだ友達になっていない人からメッセージがきた。
えっと、曽根セイレ──って、さっきカルラが言ってた人か!
***
曽根セイレ:これ届いてますか??
浅倉シオン:え? はい、こんばんは!
曽根セイレ:すみません、普段インスタのDMしか使わないもので
浅倉シオン:インスタってなんですか?
曽根セイレ:え? あっ、いえ
浅倉シオン:カルラから聞いてますよ! 明日フェニックスまで伺いますね
曽根セイレ:よかった。あの人モーニングコールとはいえ電話じゃ起きなくて……
浅倉シオン:大変ですね……
曽根セイレ:ゲストキーを後でお送りするので、それで入っちゃってください
浅倉シオン:大丈夫ですか? ラタトスクですけど、狩られたりしませんか……?
曽根セイレ:大丈夫です。最近の代ってそういう偏見薄いので。カルラがラタさんは良いとこって言って回ってるのもありますけど
浅倉シオン:嬉しい!
浅倉シオン:【喜びのスタンプ/犬】
曽根セイレ:あっ、それかわいい
浅倉シオン:え、プレゼントしますよ!
曽根セイレ:でも普段インスタしか使わないので……お気持ちだけ!
浅倉シオン:インスタってなんですか?
***
インスタがなんなのか分からないまま翌朝、私はパンをコネコネして準備をすると、いい頃合いを見つけてフェニックスの方まで向かった。
フェニックスの寮は中央から見て北西の方向、つまりラタトスクからはまっすぐ西に向かえばいいのだ。
お土産にと焼きたてパンを持ってきたけど……フェニックス寮デッケェ……。
そこには中世ヨーロッパの諸侯の住居の如く立派な城が建っており、我々のラタトスク寮がいかに魔改造されているのかがわかる。
玄関で機械と手続きを交わすと、ドアが開いて中に入る。そういえば、もう学園に入学して四ヶ月にもなるけど、他の寮に入るのは初めてだなぁ。
カザネはフェニックスの談話室は先輩たちがたむろしてるって言ってたけど、流石に五時じゃ誰もいないか。
言われた通りの階数と部屋を確認し、ポストを覗いて天井に貼り付けられた合鍵をとる。
それから私は例の先輩の部屋へと向かった。その先輩はひとり部屋らしいので、心配無用との事。
ガチャリ。
窓が少しだけ開いていて、朝の夏風がふわりとカーテンを揺らす。
その柔らかい空気のまゆに包まれて、大きなソファに赤ちゃんのような姿勢で眠る人がひとり。
聞いていたのは粗雑だけど強い人──だけど、そこにはえらく美人で、ビスクドールのような肌をした、眠り姫だった。
私はこんなにも美しいものをあまり見た事がない。
「あっ」
つい見とれてしまったけど、起こさなきゃ。今日はこの仕事が終わったらアレンとマジでガチの勝負をするための訓練をする予定なのだ。
ちなみにアレンは補習でそれどころでは無いので、補習期間が終わるまでは基本そっとしておいている。勉強大変そうだし。
ゆっさゆっさ。
あれ、結構強めだけど起きないな。
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。
むむむ? これって死んでる?
ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ、ゆっさゆっさ。
あーもう! ほんとに起きないな!
私はその美しい顔のほっぺたを両手で掴んで揉みほぐした。初対面の人のほっぺを揉みしだくことになるとは……でも起きないんだもん……。
──GAZIT。
「いだーーーーーっ!!!!」
「んむ? たこ焼きじゃない……」
めちゃくちゃ噛まれたんだけど!! 美人に噛まれた!! 嬉しいけど寝起きだから臭い!!!!
「痛い。おはようございます。痛い」
「んむんむ。ぺっ。んにゃ? おはよ?」
そうして私は出会った。この先、私が超えなければならない、いくつもの壁のひとりとなる、その人。
──零戦マリサ、その人と。
「ふにゃあ……。いいパンの匂いだなぁ」
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