78 戦争
「は? 男の誘い方?」
ファイトクラブ新入部員である燐燈カザネをマウントポジションでタコ殴りにしながらリオン先輩は言った。
「痛いんだが~泣」
「泣き言いわない。不良品の市場は常時展開して」
「でもリオンたゃ魔力なしじゃん!」
私は聞きに来るタイミングミスったかもと思うけど、なんだかんだカザネも丈夫そうだし、私は話を続けた。
「実は気になる人がいまして……。その人を魔刃学園のお祭りに誘いたいんですけど」
「それでなんで私なの? 私ほど男っ気ないやつもいないけど」
「やや。だって先輩、色んな女の子からお誘い受けるじゃないですか。モテモテだから、なにか技術があるのかなって」
「技術も何も……。というか私はそういうのいつもうんざりしてるんだよね。ストーカー殴って追い返したら悪化したし」
リオン先輩はおモテになられるのだ。顔面が人間国宝なのは当然として、その立ち居振る舞いは女性としてというか人間としてイケメンすぎる。
私だって恒常的に暴力を受けていなければ惚れていたかもしれない。
「痛いよう痛いよう……!」
「鼻血は出すな! 気合いで止めろ。詰まったら死ぬぞ!」
カザネの可愛い顔がボコボコだ……。あとである程度は治るとはいえやりすぎである。無茶苦茶言ってるし。
「何か参考になると思ったんですけど……」
「ごめん、私はそういうの興味ないんだ。──あ。そういう俗っぽい話ならライザが好きかもね」
なるほど……? リオン先輩よりもよっぽど興味がなさそうに見えるのは私だけかな。
まあでも、それも一つの手だ。最近ライザ先輩は何か忙しくしていて、あんまり話せていない。
上級生階にお菓子もって遊びいこっと。
「まってシオンたゃ! しぬ! ころされる! たすけ──」
踵を返した背中から酷い音が沢山聞こえてくる。うんうん。懐かしいなぁ。私も良く顔面陥没したっけ。
でも不良品の市場に頼らないで戦いたいというカザネの意思は魔力なしのリオン先輩が叶えてくれる。
私はあの二人の相性は抜群だとそう思ったのだ。
魔力なしにも勝てる様になれば、燐燈カザネはもっと強くなる。私はそれがめっちゃ楽しみだった。
単純にファイトクラブの同期がひとり増えるというのも最高だけどね!!!
そうして憐れみと慈しみの目を向けると、私はライザ先輩の元へ向かった。
***
コンコンコン。
「どぞー」
ライザ先輩の部屋に入るのは初めてじゃない。
彼女は寮長なので、寮長室という別な部屋に接続された部屋に住んでいるのだ。
寮長室にはモニターが沢山あって、一応見張り役となっている。それは国の方針で、剣を扱う以上は管理しておきたいとのことだった。
お上の言うことはもっともだけれど、魔刃学園のポリシーは頑強で、学生のプライバシー侵害とかクソくらえというポーズなので、大丈夫。
一説によると、幼女学長が時の総理大臣に中指立てたとか。あの人怖い噂しかないんだな……。
それはともかく、寮長室のモニター部屋は自己安全のために、いつでも出入りが可能で、ライザ先輩は大抵その隣の部屋にいる。
ガチャリと扉を押して入ると、左手にモニタールーム──映画に出てくる管制室みたい──があって、右手にはふすまで仕切られた八神ライザの私室がある。
ここをわざわざ和室にしたのは八神ライザその人であり、曰く「鍵に守られるほどやわじゃない」とのことだった。
単に鍵の管理が面倒くさいだけなのでは……? と噂があるのは内緒だ。
「や、よくきたね」
「メイン塔って誰が立てたんですか? めちゃくちゃ上りますよね……」
「先先々代の七年生がキュクロプスの奴に頼んで作ってもらったんだって。コタツもいたんじゃないかな」
コタツ先輩……。強気なのにいつもパシられてる……。
「あれ、というかコタツ先輩を知ってるって、知ってるんですか?」
「え? だってわたしが紹介したもん」
「先輩が理解屋さんだったんですか!?」
「この学園で知らないの君くらいだよ……こっちがビビったよ……」
まじか……。パソコン音痴すぎてあれから教えられてもチャットルームは全然やってないけど……、みんなやってるのかな……。
「だから先輩情報通なんですね」
「まあ、理解屋はそういう体でやってるからね」
「なるほど……?」
よくわからない……。
「それよりも何か用事あったんじゃないの?」
「あ、そうなんです。実は、気になる人がいて、その人を夏祭りに誘いたいんですけど──」
私が夏祭りという言葉を発した瞬間、ほんの一瞬だけ空気が止まったような気がした。
「あ、いや。何でもないよ。続けて」
「え、あ、はい。それで、ライザ先輩なら何かいい方法知らないかなーって」
「わたしは恋愛からっきしだからなー。魔刃学園の女って大体そうでさ、花より喧嘩なんだよね」
「──花より喧嘩」
「男でも女でも、自分より強いやつじゃないと、なんか、内心って打ち明けられないっちゅーかさ」
「なるほど……でもその人とは割といい勝負と言いますか……勝敗がはっきりしないといいますか……」
「アレンはああ見えて意外と純粋だから誘ったら普通にオーケーしそうな気もするけど」
「そうなんですよね。でもやっぱりときめかせたいかなーとか思ったりもするんで──今なんて?????」
今この人アレンって言った?
「キミが折紙アレンのこと好きって知らないのこの地球上でアレンとキミ自身位だよ」
「地球上で!?!?」
規模デカ。
「や……。違います。私は、ちゃんと知ってます」
「へぇ。割と素直なんだね」
にやにやするライザ先輩。
「んじゃ、アイツの大好きな戦争で決めたら?」
「戦争?」
「命の取り合いだよ。マジでガチの」
その提案は、あの日の続きをすればいいということだった。
「それはちょっと──面白いかもしれないです」
やっぱりライザ先輩は笑った。
「ほらね。魔刃学園の女ってのはこうなのさ」
そして先輩はふと何かを思い出したように私に言った。
「ね、もうすぐ本物の戦争があったとする」
「はい?」
「そうしたらキミは、わたしの将軍になるつもりはない?」
──本物の戦争って、何?
その言葉は全くわからなかった。だけれど、嫌な予感がした。それに、私には心に決めたことがある。
「……私は人を助けるためにこの剣を使いたいです」
けれど彼女は言った。
「夏祭りのお誘いに剣は抜けるのに?」
そこで私は、さながら罠にかかった小鹿の様な顔になった。
「先輩って、意地悪ですね」
「そこがわたしの持ち味なのさ」
少し考える。
「その戦争は何のためにするんですか?」
「命と尊厳を守るため。決して虐殺なんかじゃない」
ライザ先輩はこう見えて、あまり無駄な嘘はつかない。決してつかないわけじゃないけど、あまり好んでは嘘をつかないのだ。
なら、乗ってもいい。
「もし、誰かを守りたいと願ったときは私を呼んでください。恋愛相談の代金です」
「ふふふ。変わったヒーローだ」
それから私とライザ先輩は最近の、夏休みの他愛ない話をした。もうそこには、彼女の不穏さなどはひとつもなかった。
蝉の音は、まだ収まる気配すらない。
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