74 ルーティーン
■SIDE:牧野コウタ
折紙アレンの朝は早い。
と言いたいところだが遅い。
早起きしようと頑張っているみたいで、アラームを七個連続で設定しているが、やつは半目を開きながら時間になると全てオフにする。
もはや才能としか言えない。
なぜ早起きしたいのかというと、それはお察しの通り浅倉シオンの朝がバカ早いからだ。
彼女はショートスリーパーなのか、夜中一時まで綾織さんと折紙の勉強に付き合ったあと、寝て、朝四時半にはパンの仕込みに入るのだ。
あの人は多分イカれてる。
正直、平々凡々が好きな俺としては十三獣王だの剣聖だのは興味無いんだけど、そういうのが浅倉さんにまとわりつく理由は何となくわかる。
もうさんざん言われていることだが、あの人は忍耐力においては誰よりも強い。
さて本題に戻ろう。
結局朝七時になって、姫野のモーニングコールによって起こされた折紙アレンは食堂へ向かう。
やつの朝食にはこだわりがある。それは、究極の遅食いである。
こだわりとかじゃなくて、単におっそい。めちゃくちゃ遅い。
や、いいんだけどね。折紙アレンのマイペースさが伝わるかな。その日の担当が食洗機起動したいからはよしろと急かすんだけど、もったりもったり食ってる。ドンマイ姫野。
そして朝のランニングを終えた藤堂イオリと浅倉シオンが帰ってくる頃。
アホの姫野は汗の滴る藤堂さんをこれ眼福とジロジロ見るが、これはキモい。
で、バカのアレンはヘトヘトの浅倉さんをちらっちらっと見てる。これもキショい。でも許されてる節がある。いくら顔面が整っててイケボで強いからって!!! ちきしょー!!!
それが終わると朝の勉強タイムだ。折紙アレン、偉いぞ。と思ったら今日提出の宿題を東雲さんに写させてもらってた。本当にバカである。というか夏休み入ってるのに宿題とは。
折紙アレンは校舎までは散歩をしている。よくヨガとかしているので、スピってることが好きなのかもしれない。これは意外な側面。
で、学校に着くと、根は真面目なので補習組の最前列に座るが、二分後には寝ている。
眼帯先生も呆れすぎて注意を諦めた。内申点だけゴリゴリ削られていく。
しかしこの学校、強さが全てではなく、ちゃんと勉強も加味してるのが偉いと思う。そうでなきゃリヴァイアサンの連中が付け上がるから? いや、あの人らは勉強もできるか。
補習という睡眠を終えると、彼はオカルト研究会に顔を出す。一応在籍。
はじめ彼は、部活強制の波を受けて、顔を出さなくてもいい部活を選んだと言っていたが、なんだかんだハマってしまったらしい。
そんな予感はしていた。だってスピリチュアルの最前線だもんね。
最近、談話室のテレビのYouTube視聴履歴が都市伝説考察系ばかりになっているのは折紙の仕業だと踏んでいる。
そしてそれが終わると彼に連絡が入る。浅倉さんからだ。
手にバスケットを引っ掛けて、パンを持ってくる浅倉シオンというのは、実はちょっと普通にかわいい。胸が残念なことに残念なので残念だが、普通に可愛いからなぁ。
そんなことはどうでも良く、浅倉さんのパンを折紙が食べるピクニックが彼女らの日課だ。
こんなにイチャイチャしてんのに付き合ってないんだぜ。おかしいよな!!! じれってぇぜ……。
折紙アレン曰く、良きライバルで親友で命の恩人との事。だけど、それが本当は恋心だって知らないのか?
仮に知っていたとして、それにあえて目を瞑っている可能性もある。
だとしたら、一体何が折紙アレンを苦しめるのか。
『一式を教えてくれた人?』
『ああ。あの技は全ての不刃流の素となる。そんなむき身の刀を初心者に使わせるなんて──』
『まあ、私が教えてくださいって頼んだんだけどね。えっと、教授って呼んでたから本名知らないや』
『特徴とかは?』
『んー。……んあ、そうだ。瞳が、アレンと同じ金色だった』
『──つながった』
たまに折紙はそういう俺らには分からない、通ぶった言葉を呟いたりする。でもこれはあいつが厨二病なのではなくて、ただ単に天然だからなのだろう。
さて次のシーンは──。
「これはなんだ? ……動画?」
パソコンの前で折紙アレンの一日を記録した映画を編集していたところ、本人にバレた。
いやー、顔が良くて程よくバカだから、文化祭とかでワンチャンウケないかなと思って。
「映画。みんなの思い出を残すためだぜ」
俺は盛大に嘘をついた。
「そうか。素晴らしいな」
バカで助かったぜ!
「だが、嘘を伝えるのは良くないな」
そう言って折紙アレンは不刃流十六式──限界無しの速射抹殺によって俺のパソコンに風穴を開けた。
「俺のパソゴオオオオオオオ!!!」
「その映画には間違いがある」
「なんだよう……」
「俺はあいつが好きだ。気持ちに気づいてないわけじゃない」
お?
つーか、そう言う折紙の顔がカッコよすぎで惚れそう。トゥンクだぜ。いかんいかん。
「じゃーさっさと付き合えよー……」
「そうだな。──だが」
折紙は少しためて言った。
「彼女の本当に欲しいものは、俺ではあげられないんだ」
哀愁漂うその言葉の真意を、俺は汲み取ることが出来なかった。
ちなみにパソコンは弁償させた。
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