73 ギャルと夏祭り
今日も談話室でカキカキ勉強。夏休みってトレーニングも勉強も充実してて最高だ〜っ!
ピポパポーン。そこに、寮内放送が流れる。
なんだろ、来客かな?
「浅倉さん、お客さんだよ〜」
担当の先輩がそう放送を入れてくれたので、私はてくてく入口に向かった。めちゃくちゃ室内着なの、ミスった。
「シオンたゃ〜!!!!」
はっ、この呼び方は!
「カザネ!」
道産子ギャルこと、燐燈カザネだ!
カザネと私は手を取り合ってクルクル回る。そういえばLINEはしてたけど、直接会ったのは試合の日以来だ。
リヴァイアサンのギャルで、定期試験では割とド派手にやり合った。でも、彼女の陽キャオーラが好きなので、LINEはほぼノンストップで続いている。
「久しぶり〜! どうしたの?」
「シオンたゃの顔見たかったのとー、恋バナの続きが気になって〜」
私は隠す方針でいたのだが、ギャル尋問に負けてついついこぼしてしまった。それ以来めっちゃ聞いてくるのだ。
「だってだって、寮に残ってるのその褐色イケメンとシオンたゃだけでしょ〜? きゅーん! ときめいちゃうわー」
「あ、牧野もいるよ」
「ああ、四捨五入すればオケ」
四捨五入で切り捨てられた牧野……。
「え、でもさ、てことはさ、あんまイチャれてないカンジ?」
「イチャ──。んー、ないなぁ。その人勉強出来ないから夏休み中はほとんど補習だし」
そこでカザネは愕然とした。
「なんで!? せっかくの夏休みだよ!? 青春は!? 青春をくれーっ!!!」
このギャル面白いな。
「誘ったりしなよ〜! デートだよ。この夏休みの目標はグイグイのグイにしよ!」
「何言ってるかわかんないけどなんとなくはわかった。しかしお出かけか〜」
「あんまし外出るの好きくない?」
「んーん。好き。アレンをどうやったら誘えるかなーって思って」
そこでもう一度愕然とするカザネ。
「アレン……って、折紙アレン!?!?」
「え? あれ、うん。言ってないっけ」
「きーてない! 折紙アレンなの!? あのテスト四位の!? 超強い!?」
「そうそう。ああ、学内放送でも中継されてたもんね」
「やや、全試合見てたよ! なまらイケメンおんなと思って! 折紙氏って今一年生の中でめちゃくちゃ人気だよ……?」
「え、アレが?」
意外なものでアレとか言っちゃった。というか私も好きなんだからおかしくないか。
「アレン良い奴だもんね〜」
「いや顔でしょ」
真顔で返された……。
そう言われてみればイケメンかぁ。アホである側面が強すぎて一般的にはイケメンなこと忘れてた。
「どすんの! 補習教室で運命の出会いとかあっちゃったら!」
「ええ〜そんなことないでしょー。運命の出会いなんて今どき──」
「あなたと彼の出会いは???」
「あっはい。運命の出会いです」
「ほれ。……やばいよ? 親友かつライバルの座についてしまったら、恋愛ラインに乗せるのめっちゃ難しいよ〜?」
「え、まじ?」
「マジマジ」
となると少し不安になる。まだアレンとどうなりたいとかはないんだけど、この想いをちゃんと伝える前に終わっちゃうのはやだ。
「補習でも毎日じゃないしょ? お休みとかあるじゃん?」
「アレンの赤点、全教科だから休みがないんだよね……」
「どバカじゃん……」
おバカ超えてどバカになっちゃった。
「でもやっぱほかの女子と違って同じ寮ってのがいいよね。アドバンテージだよ!」
「確かにね。お風呂上がりとか、二時間くらいおしゃべりしてることあるし」
そこでカザネはひっくり返った。
「付き合ってないでそれ!? なんでやねん!!!」
この子本当に北海道の子なのだろうか……。関西じゃないのか?
「え、でも談話室でみんなで駄弁ったりするでしょ?」
「ないない! リヴァイアサンとか談話室でおしゃべりしたら勉強の邪魔ってめっちゃ怒られるもん!」
「え、他の寮ってそんな感じなんだ」
「フェニックスは先輩達が占拠してるらしいし……キュクロプスはそもそも談話室が工房になってるから……」
「へぇ〜」
面白いなぁ。
「じゃなくって!! そこまで距離近いならもう行っちゃえ!!」
「でもでも、機会がないから……」
そこで燐燈カザネはスカートのポケットに手を突っ込んで、くちゃくちゃのミニポスターを取り出した。
「それは?」
「ふふん。これねー、夏休み最終日にある魔刃学園夏祭りのポスター!」
「そんなのあるんだ!」
「そそ! アタシ実行ブチアゲ委員会なんだけどさ」
ブチアゲ……。
「そのお祭りで手をつないで花火を見たら付き合えるって話──」
そんなのあるんだ!
「──をでっち上げて盛り上げようかなと思ってるんだけど」
嘘かい!
「そのモデルケースになってよ!」
「えぇ!?」
「まず一緒に夏祭りに誘う、それから楽しむ。で、花火を見ながら手をつなぐ! あとは成り行きで!」
そんなのできるかな……。
すると彼女は私のほっぺを両手で挟んだ。
「試験ではアタシの雲を晴らしてもらった。だから今度はアタシの番!」
その笑顔はとても美しくて、もう鳥かごになど縛られていないことがわかった。
「お祭りデート、これ、大目標だかんね」
私は少し考えて、それから真っ直ぐな瞳を見つめ、こくり頷いた。
「おっしゃ! マジブチ盛り上がろうね!」
「うん! なんか楽しみになってきた!」
あ、そういえばカザネのことファイトクラブに紹介するの忘れてた。
「ね、カザネ。この後ちょっと時間あったりする?」
「うん。今日は委員会なくて暇なの。お散歩してた!」
このギャルかわいいな。
「じゃあ、ちょっと紹介したい部活がありまして……」
「でた! 殴られる部活!!」
「いく?」
「ちと興味ありわらのなりひら」
そしてその日は彼女をライザ先輩の元へ連れていった。ライザ先輩のおもちゃがもう一人増えた瞬間だった……。
その傍らでは、申し訳ないけど私は別のことを考えていた。
夏祭り、デート、お誘い。
よし、がんばるぞっ!
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