71 それぞれの予定
「ほんじゃ、まあちょっくら行ってくるわ!」
姫野は何故かグラサンをかけてアロハを着てそう言った。旅行だと勘違いしてそう。さすがアホ。
隣のスズカは紫を基調としたワンピース。向こうの気候に合う服は別で持っているとのこと。てかなんだかんだ言ってスズカの普段着久しぶりだな。改めて清楚美人だな。嗚呼、推せる。
魔刃学園から北上して数キロの所に、埼玉小型飛行場がある。近くには国内線しかないので、そこから関西国際空港まで飛んで乗り換えだ。そもそも国際線というのが珍しいから。
私たちはバスで埼玉まで行くふたりを見送りに来ていた。
「ナズナちゃん。オレの不在で泣くなよ」
「あ、うん。全く泣かないから大丈夫」
東雲流も驚きの抜刀速度で切り裂かれた姫野は地に臥せる。そんなアホを見下ろすスズカはナズナに微笑むと、ナズナはウインクをした。何この関係尊い。誰かSS書いてくれ。言い値で買う。
「エクスカリバーの持ち主に会ったら伝えて欲しいことがあるんだが──」
アレンは役立たずの姫野ではなく東雲さんに向けてそう言った。
「会えるかはわかんないわよ?」
「ああ。もしも会えたらでいい」
そして彼は言った。
「一式なんて趣味が悪いな──オリガ」
東雲さんはよく分からないという顔をしたけど、私にはそれが少しわかる。一式というのは不刃流一式のことだろう。
でも、それがどうしたのかとか、オリガって……人の名前? それは全く分からなかったから、アレンが何を言いたいのかはつまるところ全く分からなかった。
「わかった。伝えるよ」
「頼む」
そしてふたりを乗せるバスが来て、私たちは東雲スズカ、姫野ユウリ二名と夏休みの間別れることとなった。
まあ、LINEはつながってるから寂しくないけど。「女子会」っていうグループも作った。へへ。
そうして、私は本当に夏休みになっちゃったなーという実感を改めてした。
というのも、遠くから来ている学生はこの時期には帰省をする。お盆もあるし。だから寮にも部活にも人がほとんど居ないのだ。
私はと言うと、リオン先輩のバディなので、打ち込みの手伝いで寮に居残り。実家は近いので、特に帰省するほどでもないし。
あと部活で残っているのはリオン先輩とライザ先輩だ。ライザ先輩に帰省のことを聞くと──。
『え〜? やだやだ。お偉いじーさんばーさんのお酌すんだよ? 嫌すぎて蕁麻疹出たことあるし』
と、相当実家が嫌な様子で、私はそれ以上は聞かなかった。だけど、ヴァチカンからも能力を買われているライザ先輩を夏休みの間も見ていられるというのはラッキーだった。夏休みで差をつけろ!
そして、寮に残ったのは結局私とアレンと牧野。上級生なら他には眼鏡先輩。
ナズナは鼻水を流しながら新幹線に乗って、お土産めちゃくちゃ買うからねと言ってきたのでちょびっとでいいよと返した。
牧野は……。
『え? 実家? やだやだ。映画三昧出来ない。働けニートって言われる。うちの会社とか継ぐ気ねーし!!!!』
と、随分目線の低い理由から帰省を否定されたのでもう何も聞かないことにした。
カルラは天秤座、蛇使い座騒動の報告のために京都へ。イオリは心のメンテと言ってバリ島へ。おいおい、その旅行ビザどっから下りたのよ……。
アレンの事情は聞くまでもなかったが、何となく居づらい? と一応聞くと──。
「帰ったら見合いをさせられる。許嫁との挨拶もあるとか言うので帰らない」
そこで私は麦茶をぶっと吹き出した。
ぼたぼたぼた。
「あれ、言ってなかったか。そもそも、許嫁が七人居るのに縁談なんて、矛盾しているとは思わないか? 俺の事を馬鹿だと思っているのか……」
バカだとは思ってるだろうけど……。
でも許嫁とか聞いてないんですけど!?
「そういえばアレンって良い家のご令息だったね……」
「カナン……兄貴はそういうの興味無いから全部適当にしているが、俺は、生涯を共にする人はちゃんと自分で選びたい」
「あれ、それは少し以外かも。アレンって恋とか結婚とかどうでもいいと思ってそう」
「お前と出会ってからだ」
「ほぇあ?」
「俺には道を選ぶ権利がある。それは誰にも握らせない」
えっちょ、それっていわゆる、え?
「シオン。お前が自分の道を切り開くその姿が、俺には眩しかったんだよ」
「あ、そっちね、はいはい。憧れね。ありがとさん。サインいる?」
「いらない」
思わせぶりなこと言いやがってよぉお!
「さて、牧野連れて焼肉でも行くか」
「おや、珍しい。積極的だね」
「肉の気分だ。夏は肉だからな!」
どういう理論……?
「あ、それなら先輩も誘っていい? そしたら先輩が奢ってくれるよ」
「シオン、お前強欲だな……」
「ち、違うって! ライザ先輩ね、後輩に奢るの大好きなんだって。飲み会が好きだけって噂もあるけど……」
「八神ライザか。まあ、いいだろう」
「歯切れ悪いね?」
「彼女には深入りしない方がいい。王庭十二剣を持つものは──……」
アレンはそれ以上言うのをやめた。けど、私はあまりいい予感がしなかったので、その先を聞くのはやめた。
ちなみに焼肉は死ぬほど盛り上がった。




