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70 女子会後半戦

「なにそのパジャマ可愛すぎるんだが。尊すぎて目が死ぬ……」

「へぁっ!?」


 両手で身体を隠すナズナ。うさぎ柄かつふわっふわのパジャマ。すっと触るとでっかいぬいぐるみを撫でているみたいで、私はとても見せられない顔になった。


「アンタやってる事ユウリと変わんないじゃない……」


 うっ!! 私の中のスケベな一面がつい!!!


 ナズナが悪いんだよ! かわいいんだもん!!


「ア、アタシも同じとこのやつなんだけど……?」


 ドキッ……。


 この東雲スズカとかいうツンデレ、もはやツンがブチ消滅してデレデレじゃねぇかオイオイ……。


 私はスズカをためつすがめつした。やば、こっちのはさらさらの手触りなんだけどずっと触ってられる……。猫柄とか可愛すぎ。キレそう。てか喧嘩してた期間もこれ着てたのかな。無理、好き。


 私がスズカの虚乳をぺたぺたと撫でていると私はイオリとスズカに引き剥がされる。


「ねえイオリちゃん。シオンって法で規制した方がいいよね」

「うん。去勢しよう」

「去勢!? ついてないけど!?」


 つい私がそんな下ネタみたいなことを言ってしまうと、ケタケタとみんな笑い始めた。あ、良かったこれくらいのは大丈夫なんだ。


「違うよ! シオンモテるくせに人にすぐ変なことするじゃん! この人たらし!」

「モテ……? それ姫野にも言われたけど……変な冗談だよね?」

「たしかにシオンってモテるよねぇ。あの人とかあの子とか例えば身近な綾──もごごご」


 ナズナがイオリの口を塞いでベッドに押し倒す。顔が真っ赤だ。へぇ、ふぅん。なるほどね、そういうのも、ね。


「アンタいつか刺されないようにね……」


 スズカから謎の忠告を頂いたところで私たちは女子会後半戦、夜の部を開催することにした。


 私のベッドをイオリのベッドまで引きずってひとつの大きなベッドに。そこに車座になって私たちはそれぞれコップを持った。


「ナズナ、ミルクは飲んじゃダメだよ」

「だ、大丈夫だもん。この前は大変なことになったから……反省してます……」


 牛乳で泥酔できるとかもはや才能だけど。


「じゃ、定期考査も終わって夏休みに入ったということで! かんぱーい!」

「かんぱい」

「かんぱーいっ!!!」

「いえーい! わーい!」


 ゴクゴクゴク……。ぷはー!


「では、これより第一回ラタトスク恋バナ大会を開催致します」

「デスゲームかよ」


 イオリのノリが最近分かってきた。この子は不思議ちゃんではあるが、実は一番まとも……というふうに見せた変なノリの陽キャである。


 しかし、そういうの嫌いじゃない。楽しいもん。


 イオリはリモコンで電気を豆球にして雰囲気を作る。


「じゃ、スズカからね」

「アタシ!?」


 イオリがスズカを指定してちょっとほっとする。


「アタシは……その……。こ、恋とか正直わかんなくって」

「うんうんわかる」

「はー超わかる」

「わかりみが深い」


 恋が分かるやつが一人もいない恋バナ会とは。


「昔から男ってアタシにとって超えるべき相手で、ムカつく対象で……。でも、その」


 私たちは分かっていたけど、彼女の口から語られるのを待った。


「ユウリだけは、ずっとアタシを見ていてくれた。上とか下とかなくって、アタシがどれだけ嫌な性格でも、嫌わずに対等でいてくれて」


 彼女の頬がほんのり──本当に、優しく、淡く染まった。

 その色が、気持ちの温かさを示しているような気がしていた。


「主従とか……本当はどうでもいいの。ずっと傍にいて欲しい」


 私たちはきっと同じ気持ちになった。切実な言葉に胸がきゅっと傷んで、どこか切なくて、でも、ふたりならきっと上手くいくという、確信めいた祈り。


「それが多分、好きってことなんだね」


 そうぽしょっと言ったのはナズナだった。イオリは隣にいるスズカの肩に頭を乗せて、細い腕でそっと抱きしめた。


「……それなのにユウリのやつ、変態だから」

「ほんとそれ〜」

「あいつこそ去勢しよ」

「市中引き回しでいいよ」


 イオリだけ毎回過激なんだよなぁ。


「でもさ、照れ隠しの可能性とかない?」


 そう言うとスズカが「というと?」と身を寄せてきた。


「ほら、スズカってツンデレだし、気持ちを素直に伝えたら、関係壊れちゃうかもしれないじゃん」

「だ、だからってそんな遠回りなこと、する?」

「わかんないよー? 男子ってバカだもん」

「あーっ! その説絶対あるよ〜!」


 ナズナがバシバシ私の太ももをドラムしてくる。嗚呼、私は太もも太いからね……。


「もっと素直になれよ……バカ……」


 お前が言うなという野暮なことはさておき、他の三人は同時にひゃー! だのひゅー! だのツンデレー! だのと盛り上がる。


 そうして、時間は二時を過ぎ、三時を過ぎる。やいのやいのと私たちはそれぞれの内側を交換した。


 そんなことが初めて出来た私は、これが青春なのかな、楽しかったななどと思って、後々、その夜を回顧することが増えたとさ。


 その日の別な話については姫野に──。


「なー、女子会で何話したか教えてくれよー。なーなー」


 と、何度も頼まれたが、私は決まってこう答えた。


「だめ。女子会の掟だからね〜」


 そう言って誰かに目をやると「ねーっ」と必ず帰ってくる。それが少し心地よくて、私は姫野が諦めるまで、このやり取りを楽しんでいた。


 女子会の掟は、ぜったいなのだ!

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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