68 折紙の話
■SIDE:折紙アレン
俺は降神家の分家の次男として生まれた。
降神は武蔵降神家とも呼ばれ、関東の祓魔系の元締めをしている、祓魔四名家のひとつだ。
その降神の頭領が遊女と子を作ったのが分家である折紙の始まりだ。
当然、折紙への風当たりは強かった。
だが、兄貴──折紙カナンは特別に実力があった。
不刃流は降神一子相伝の業。それを独学で使いこなした。
奇しくもそれは、シオン。お前がやっているのと同じことだ。
不刃流と別な魔剣技を併用する。それによって指数関数的な強化を行う。
それも、バケモノのような練度でだ。
だから俺はシオンと戦えば、なにか掴めると思ったんだ。兄貴に似ていたから。
兄貴は本家から実力で認められる唯一の人間になった。
兄貴と俺は比べられるようになり、魔剣技の才能が全くなかった俺は、否定されて育った。
その頃から、あまり、物事について感動しなくなった。関心が死んでいくのを感じた。
魔剣はそういう世界だった。だから、俺は魔剣師が大嫌いだった。
……だが、そんな俺の頭を撫でた人がいた。それが、降神マユラ。
元剣聖にして、歴代最強の魔剣師。
マユラ姉さんは変な人だった。
剣聖のくせに、へらへらとしていて、堅苦しいことが嫌いで。
降神本家もマユラ姉さんではなくカナンに家を継がせようと本気で考えたほどだ。
だが、マユラは天才だった。
飄々としているが、彼女は誰にも負けたことがない。いかなる勝負に於いても。
たとえそれがジャンケンでも、かくれんぼでも、真剣での試合でも。
降神マユラは勝利の女神の寵愛を受けていたとすら言える。
そんな彼女は、訓練でボロボロになった俺に、手を差し伸べてくれた。
俺に、不刃流を教えてくれたのは、マユラ姉さんなんだ。
俺は魔剣になんて興味なかったが、あると便利だと教えられた。誰かを守りたいと思った時に、力はいくらでもあった方がいいと。
そう言われて俺は不刃流を握った。
──だが、六年前に千里行黒龍を討伐して以来、消息を絶った。
バカなりに、色んなところを探し回った。だが、小学生に見つけられるわけもない。
俺は、そこで初めて、剣聖を目指すことにした。
剣聖は公共交通機関のパス、特別越境パスポート、そして、特異点開閉権限が与えられる。
それがあれば、世界のどこにいても、彼女を探すことができる。
前も言ったが、それが剣聖を目指す理由だ。
シオン。お前が持つ理想とは違い、俺のものは利己的だ。本当なら、剣聖にはシオンのような奴がなった方がいい。
だが俺は、どうしても可能性を諦めることが出来ない。手放せない。
それが俺の、人生をかけた戦いだからだ。
シオンはよく俺を高く買ってくれるが、俺はそんな大した人間じゃない。
こういったエンジンでしか、進めない。
それでも俺は走り続ける。
それがきっと俺の──。
***
「──鳥かごなんだろうな」
アレンの話は、想像以上に重くて、私ひとりで受け止めるには、私の器は小さすぎた。
「シオン……? なんで泣いてるんだ」
ずび……。
「私には、知らない世界で、戦ってた、んだなって」
「知らなくていい。因習に塗れた世界だ」
「アレン」
「なんだ?」
「人を守りたいだけなのに、なんで、みんな、争うのかな……」
「人には人の正義がある。誰しもが疑心を抱きつつも、自分を正しいと思っている。それは、衝突するものだ」
「……もし、私が守りたいものが、誰かのそれと違ったら、争わなきゃならないのかな」
私はぽこんっと頭を叩かれた。
……痛くない。
「俺と東雲スズカを殴ったその拳は、何かを間違えた結果か?」
「違う」
「即答できるじゃないか。俺が規模の大きな話をしてしまったせいだな。──シオン。人と人は完全には分かり合えない」
「じゃあ、どうしよう……」
「その答えを、お前はもう知っているよ」
私に出来るのは、分からないものを分かりたいと、突っ込んでいくことくらい。
もしそれが、答えなら。
「分かろうと努力すること?」
アレンはすっと立ち上がり、私の頭をぽんぽんした。
「本物のスイカでも食うか。学園で採れたものらしい」
そう言って彼は、食堂に行った。
合ってたのかはよくわからない。でも、疑心を抱きながら自分の正義を信じるのと同じだ。
私は私に出来ることをしよう。そして出来ないことでもやってみる。
それが私の正義だ。
「アレン、私も手伝うよ!」
そう言って私は食堂に向かった。そして私とアレンは、しばらくして帰ってきたみんなと一緒に、スイカを食べた。
蝉はまだ、鳴り止まない。
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