67 ぼーっとしよう
夏休み!!!!!!!!!
おっと、嬉しすぎてつい大声が出た。
現在私は冷房魔剣をガンガン使用した談話室でリクライニングソファをフル倒しにしてゴロンとしている。
蝉の声がすごい。夏っぽい!
アレンとのエキシビションマッチを終えて、無断決闘についてこってり絞られた私とアレン。
各々男女大浴場の掃除をさせられており、その当番が夏休み三日目にして終わった。
これで私も夏休み突入なんすよ!!!
「冷房効きすぎじゃないか?」
「魔剣はクーラーと違って環境破壊の心配もないから、ガンガンなの」
アレンが私のおでこにスイカバーを当てる。わ、買ってきてくれたんだ!
「じゃなくて、この温度で腹出してたらお腹壊すぞ」
「見ないでぇ!!」
出してる側のセリフじゃないんだよなぁ。
しかしこの寮、なんせ共有スペースが多いもんで、ついつい見られているという意識がなくなってしまう。
第一、見られて困るもんでもない。もう、その段階はとっくに過ぎている。
姫野は相変わらずナズナの生足追っかけてるけど。ふーむ、スズカとナズナ、どっちのことが好きなんだろ。
「何か悩みか?」
みんな夏休みウェーイとイーストパークに遊びに行ってしまったので、寮には自習で残った先輩とか私たちしかいない。
聞くとしたら今か……。
「ね、姫野って好きな人誰かな」
「ぶっ」
わ、スイカバーの破片がブロックで飛んできた。痛いよう……!
「ん、ごふ……、すまない」
「いやいいよ、だいじょぶ?」
「あ、ああ。そ、そうかお前は姫野のことが好きだったんだな」
「何それ気持ち悪いありえないよ」
「可哀想だろ……」
なんで私が姫野のこと好きになんのよ……。まあ、さりげなく気が利くとこと、割と運動神経がいいとこは評価に値するかな。デリカシー無いとことスケベなとこは万死に値するけど。
「じゃあなんで気にするんだ?」
「やや、ナズナとスズカのこと、どっちが好きなんだろうって」
「ああ。その事か。それなら……どっちもじゃないか?」
「えー? 男子ってサイテ〜!」
ふっと笑うアレン。
「それから、お前のことも俺のことも、コウタとかイオリのことも好きなんだと思うぞ」
そっか、姫野は良い奴だもんね。
「……あいつはあいつで鳥かごの中にいるんだね」
するとアレンはこちらをふいっと見つめた。
「シオンはその『鳥かご』って表現をよく使うな」
言われてみれば確かに。
「あー、昔に文鳥飼ってたからかな。本当は空を飛びたいのに、ごめんねって思ってた」
可愛らしい鳴き声を今も覚えている。
「お前が人の事情に突っ込んでくのは、そういう後悔があるからなのかもしれない」
シャクっとスイカバーをかじって、ふと考える。確かに、窮屈そうにしてる人を見たら何とかしてあげたいって思う。
もしもそれが余計なお世話だったらどうしようと悩むこともある。
「迷惑だと言われても、きっとお前は踏み込んでいくだろ?」
別なリクライニングソファにちょこんと腰掛けるアレンは私の横顔を見てそう言った。
「うん。行くかも。私、諦めが悪くてめんどくさい奴だから」
あ、種に見せ掛けたチョコ。おいし。
「そこがお前のいい所だ。誰にもない、お前だけのいい所だよ」
ミーン、ミンミンミン。
ジジジジ。
ブロロロロロロ。
夏の音がやけにうるさく感じる。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。
胸の音すら大きくて五月蝿い。
顔が、あつい。
全部終わったら考えようって思ってたこと、考えても良いのかな。
私なんかが、そんな、青春っぽいこと。漫画の中でしか見ないような、そんなことに憧れてもいいのかな。
いいの、かな。
「いいんじゃないか?」
「へっ!?」
「夏休みなんだ。休んでなんぼだろう。部活もないんだから、たまにはゆっくりしよう」
「な、なんのこと?」
「思い詰めて、疲れた顔していたから。たまには息抜きが必要だと思って」
「なるほどね」
優しくて、鈍感で。
それでも、ちゃんと見ていてくれる。
そんな彼のことを……。
──私はきっとアレンを好きだ。
私に歩き出すきっかけをくれた人。
背を押すではなく、手を引いてくれた人。
私が一番助けてあげたいと思っている人。
まだ彼は鳥かごの中にいる。
「そうだ」
この気持ちは、まだ、しまっておこう。
だって彼はまだ囚われている。
彼を助けたい。お節介でも構わない。私は彼に救われた。
今度は、私がその手を引く番だ。
「アレン」
ほんとに全部が終わった時、まっすぐ目を見て、恥ずかしくっても、告げよう。
「ん?」
この、むずがゆい、ぽかぽかを。
「アレンの話を聞かせてよ」
「俺の話?」
「今日はもう当番ないし。夕飯まで暇だし。アレンの、これまでの話」
アレンは食べきった棒を咥えてぷらぷら動かしながら考え、うんと返事した。
「面白い話でもないが」
「うん、聞きたいんだ。アレンを、もっと知りたいの」
アレンはリクライニングソファのリモコンに手をやって、最大まで倒す。
二人並んで、吹き抜け天井を見つめる。
「俺は降神家の分家の次男として生まれた──」
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