表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/372

67 ぼーっとしよう

 夏休み!!!!!!!!!


 おっと、嬉しすぎてつい大声が出た。


 現在私は冷房魔剣(クーラー)をガンガン使用した談話室でリクライニングソファをフル倒しにしてゴロンとしている。


 蝉の声がすごい。夏っぽい!


 アレンとのエキシビションマッチを終えて、無断決闘についてこってり絞られた私とアレン。

 各々男女大浴場の掃除をさせられており、その当番が夏休み三日目にして終わった。


 これで私も夏休み突入なんすよ!!!


「冷房効きすぎじゃないか?」

「魔剣はクーラーと違って環境破壊の心配もないから、ガンガンなの」


 アレンが私のおでこにスイカバーを当てる。わ、買ってきてくれたんだ!


「じゃなくて、この温度で腹出してたらお腹壊すぞ」

「見ないでぇ!!」


 出してる側のセリフじゃないんだよなぁ。


 しかしこの寮、なんせ共有スペースが多いもんで、ついつい見られているという意識がなくなってしまう。


 第一、見られて困るもんでもない。もう、その段階はとっくに過ぎている。


 姫野は相変わらずナズナの生足追っかけてるけど。ふーむ、スズカとナズナ、どっちのことが好きなんだろ。


「何か悩みか?」


 みんな夏休みウェーイとイーストパークに遊びに行ってしまったので、寮には自習で残った先輩とか私たちしかいない。


 聞くとしたら今か……。


「ね、姫野って好きな人誰かな」

「ぶっ」


 わ、スイカバーの破片がブロックで飛んできた。痛いよう……!


「ん、ごふ……、すまない」

「いやいいよ、だいじょぶ?」

「あ、ああ。そ、そうかお前は姫野のことが好きだったんだな」

「何それ気持ち悪いありえないよ」

「可哀想だろ……」


 なんで私が姫野のこと好きになんのよ……。まあ、さりげなく気が利くとこと、割と運動神経がいいとこは評価に値するかな。デリカシー無いとことスケベなとこは万死に値するけど。


「じゃあなんで気にするんだ?」

「やや、ナズナとスズカのこと、どっちが好きなんだろうって」

「ああ。その事か。それなら……どっちもじゃないか?」

「えー? 男子ってサイテ〜!」


 ふっと笑うアレン。


「それから、お前のことも俺のことも、コウタとかイオリのことも好きなんだと思うぞ」


 そっか、姫野は良い奴だもんね。


「……あいつはあいつで鳥かごの中にいるんだね」


 するとアレンはこちらをふいっと見つめた。


「シオンはその『鳥かご』って表現をよく使うな」


 言われてみれば確かに。


「あー、昔に文鳥飼ってたからかな。本当は空を飛びたいのに、ごめんねって思ってた」


 可愛らしい鳴き声を今も覚えている。


「お前が人の事情に突っ込んでくのは、そういう後悔があるからなのかもしれない」


 シャクっとスイカバーをかじって、ふと考える。確かに、窮屈そうにしてる人を見たら何とかしてあげたいって思う。


 もしもそれが余計なお世話だったらどうしようと悩むこともある。


「迷惑だと言われても、きっとお前は踏み込んでいくだろ?」


 別なリクライニングソファにちょこんと腰掛けるアレンは私の横顔を見てそう言った。


「うん。行くかも。私、諦めが悪くてめんどくさい奴だから」


 あ、種に見せ掛けたチョコ。おいし。


「そこがお前のいい所だ。誰にもない、お前だけのいい所だよ」


 ミーン、ミンミンミン。


 ジジジジ。


 ブロロロロロロ。


 夏の音がやけにうるさく感じる。


 ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。


 胸の音すら大きくて五月蝿い。


 顔が、あつい。


 全部終わったら考えようって思ってたこと、考えても良いのかな。


 私なんかが、そんな、青春っぽいこと。漫画の中でしか見ないような、そんなことに憧れてもいいのかな。


 いいの、かな。


「いいんじゃないか?」


「へっ!?」


「夏休みなんだ。休んでなんぼだろう。部活もないんだから、たまにはゆっくりしよう」


「な、なんのこと?」


「思い詰めて、疲れた顔していたから。たまには息抜きが必要だと思って」


「なるほどね」


 優しくて、鈍感で。


 それでも、ちゃんと見ていてくれる。


 そんな彼のことを……。


 ──私はきっとアレンを好きだ。


 私に歩き出すきっかけをくれた人。


 背を押すではなく、手を引いてくれた人。


 私が一番助けてあげたいと思っている人。


 まだ彼は鳥かごの中にいる。


「そうだ」


 この気持ちは、まだ、しまっておこう。


 だって彼はまだ囚われている。


 彼を助けたい。お節介でも構わない。私は彼に救われた。


 今度は、私がその手を引く番だ。


「アレン」


 ほんとに全部が終わった時、まっすぐ目を見て、恥ずかしくっても、告げよう。


「ん?」


 この、むずがゆい、ぽかぽかを。


「アレンの話を聞かせてよ」


「俺の話?」


「今日はもう当番ないし。夕飯まで暇だし。アレンの、これまでの話」


 アレンは食べきった棒を咥えてぷらぷら動かしながら考え、うんと返事した。


「面白い話でもないが」


「うん、聞きたいんだ。アレンを、もっと知りたいの」


 アレンはリクライニングソファのリモコンに手をやって、最大まで倒す。

 二人並んで、吹き抜け天井を見つめる。


「俺は降神おりがみ家の分家の次男として生まれた──」

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


──下にある☆☆☆☆☆からご評価頂けますと嬉しいです(*^-^*)


ご意見・ご感想も大歓迎です! → 原動力になります!


毎日投稿もしていますので、ブックマークでの応援がとても励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いします!

同作者の作品

黎明旅団 ─踏破不可能ダンジョン備忘録─

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 青いッ、春ぅぅぅ!!! ……てぇてぇすぎて、直視できないぜ。。。(指の隙間からガン見。
[一言] 冷房魔剣クーラー!? いずれ洗濯魔剣とか出そうな勢いやな(;゜Д゜) そして……甘酸っぺぇ~~(≧∇≦)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ