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66 黎明の空

 主人と侍従バレットのイチャイチャを見せつけられた私は、ふと気がついた。


 ということは、夏休み、二人は日本にいないのかぁ、ということに。


「あっ」


 私はイオリとの約束をふと思い出した。絶対叶えたかったヤツ!


「女子会っ! しよ! 行っちゃう前に!」


「やるー! やるやるやるー!」

「うん、アタシも参加したい」


 すっ飛んできたナズナと、スズカは参加決定!


 あとは体調崩して部屋にいるイオリだけだ。喜んでくれると、いいな。


「ちぇ。女子ばっかずりーよ」

「アンタたち毎晩アンタの部屋でゲームしてるじゃない」

「それとこれとは別なんだよ! 折紙のやつ探してくる! オレらも開催するぞ! カルラ! 牧野!」

「僕はそもそも寮が違うんだが」

「映画鑑賞会しようぜ!」


 結束力無いなぁ……。


「じゃ、さっそく折紙──」


 ガっと姫野を捕まえるスズカ。そして、彼女は私に視線を送って、ふいっふいっと出口の方を示した。


 私に、行けってことだ。


 スズカは、私をぶっ倒す同盟として、アレンの気持ちが分かるのかもしれない。


 なら、私が行かなくちゃ!


 私はアレンの元へ走り出した。


         ***


 外に出ると、靴を脱いで湖に足を浸しているアレンが居た。


「おーい。アレン」

「シオン」


 私もいそいそと靴、靴下を脱いで彼の隣にちょんと座り、冷たい湖面に足を突っ込んだ。


「んひゃー! 気持ちいいねぇ」

「頭を冷やしたかったんだが、そうしたら溺れたんだ。だから足にした」

「ドアホだね」


 笑うと小突いてくるアレン。


「今日はいい夜だ。月も綺麗だし、負けるのには丁度いい夜だ──」


「なにそれ。私への嫌味〜?」


「いや。自分の負けがこんな夜だったらなと、そう思ったんだ」


「へーんなのっ」


「シオンは、悩んでいたこと、ちゃんと解決出来たか?」


「うん。みんなのおかげで、前に進めた。ミーちゃんのことはまだよくわかんないけど、私個人的には、一歩前進した!」


「一歩か──。その一歩は、俺にとっては千里にも等しいがな」


「アレンも不刃流アンワイズの同時使用とか、成長してたじゃん」


「お前を倒せてない。あの昼休みに悩んでいたことで、ずっと悩んだままだ」


「そんなに私を倒したいんだ」


「シオンを超えた先に、きっと不刃流アンワイズのその先がある気がする」


「私そんな大したもんじゃないよ。まともに使えるの一式(狂化)だけだし」


「それを俺は使えない。きっと、自分の身が惜しいんだろうな。だがお前はやっている。羨ましいという感情が、恥ずかしい」


 私は彼の頬をつねった。


「いてっ」


「羨ましいと思って、そこに向けて走ることを、私は『憧れ』って呼んでる。アレンも降神マユラさんに憧れたんでしょう? それはね、なんも恥ずかしいことじゃない」


「……──」


「ね、アレン」


「ん?」


「第一競技場に忍び込みます」


 ん? と戸惑うアレン。そんな彼を残して、私はまだ腰に装備したままの模擬魔剣(イミテーション)をすっと抜いた。


 それをBlack Miseryに変えて、切っ先をアレンに突きつける。


「エキシビションマッチ。やろ」


 驚いた顔をしていたアレンの、目の色が途端にぎらりと変わった。


 それは、獲物を視界に入れた瞬間の頂点捕食者の瞳だ。


「ルールは?」

「テストと一緒」

「手加減は?」

「一切ナシ」

「勝ったら?」

「負けた方が、勝った方の言うことなんでも一個聞いてあげる!」

「なんでもは、なんでもってことだぞ?」

「へへ。なんでもこいだぜ」


 Black Miseryを向けたのを握手と捉えた折紙アレンは、不刃流アンワイズを発動してその刃を掴んで立ち上がる。


 私たちは暗い第一競技場に向かい、ナイターを付ける。バレたら怒られるかな。まあいいや!


 奇しくもその場所は模擬戦のフィールド。私とアレンが初めて戦った場所だ。


「準備はいい?」


 ストレッチをするアレンに聞く。


「ああ、いつでもいい」


 私は頷いて指を咥え、指笛を吹く。


 これが、私たちの分かり合い方だ──ッ!


「くらえッ! 私の全身全霊全力全開の大火力をっ!!!! 終わりのない衝動アンストッパブル・インパルス──Rivalry Add──不刃流アンワイズ三十一式。限界無しの天誅執行アンリミテッド・パニッシュメントッ!!!!」


「ぶちかます!!! これが俺なりの、今出せる全ての答えだッ!!!! 不刃流アンワイズ九十七式。恋の終止符(ラストリゾート)ッ!!!!!」


 戦いは日の出まで続いた。


 倒れ込んだふたりの横顔を、黎明の空が静かに見守っていた。


 ここからだ。きっと、ここから始まる。これはまだ、夜明けでしか、ないんだから。


「俺の勝ちだ」

「先にぶっ倒れたの、そっちだよ」

「いや、同時だった」

「ちがうもん」


 決着はつかなかったけど、なんか、やって良かったと思った。


 夏休み前に、ちゃんと全部スッキリ片付いた気がする。


 うん、もうこれで、やり残しはない。


 明日から、夏休みだ──!

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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[一言] 負けた方が勝者の言う事を何でも聞く……男女でその約束は卑猥ですぅ(ォィ
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