65 後夜祭やるぞ
「それでは!! 東雲スズカ、浅倉シオンのワンツートップを祝して! かんぱーい!!!!」
「かんぱーい!!!!」
「乾杯」
「かんぱウェーーーイ!!!」
談話室を立食パーティーの会場みたいにしてラタトスク一年生は後夜祭を開催していた。
割とガヤガヤしているのは、そこに先輩たちも混ざってウェイウェイしているからである。
ちなみに未成年飲酒に関しては六年生の眼鏡先輩が擁する風紀委員会ラタトスク支部が目を光らせているので安心!
開始直後に後輩に梅酒を飲ませようとした八神ライザは粛清され破壊されたので、もっと安心。
基本的にラタトスクの人は変な人が多いがゆえ、ウェイ系のノリが嫌いであり、そういう心配は無い。
まあ、ライザ先輩も粛清されること前提のボケではあるので、笑ってみていられるけれど。
「てか、僕が居てもいいのか……? 場違い過ぎないか?」
肩身が狭そうに乙女カルラがそう言う。彼には特別入寮許可証を発行させ、参加してもらったのだ。
「なんだカルラお前まだ気にしてたのかよ。いいんだよ、あの老人会の傀儡だったお前が人と馴れ合ってんの見るの、嬉しいんだぜ?」
姫野がそう言うので、私も補足する。
「この大会ではスズカはもちろん、乙女とも友達になれたと思ってるよ。これから、よろしくね!」
私の差し出した手に、少し恥ずかしそうに手を合わせる乙女カルラ。
それで周囲はウェーイ! と盛り上がる。ウェイ系じゃねぇか。
「ちなみにだが、その後千里行黒龍はどうなった?」
「向こうから話しかけてくることはないけど、居なくなってはいないと思う」
「そうか。少し逸れるが──浅倉さんは『聖櫃』という言葉に覚えはあるか?」
聖櫃……。決勝の最中に聞いた覚えがあるような気がする。
「覚えはあるけど、何なのかは全く分からないかな」
「……そうか。龍王に訊けたら早かったが──そちらに関しては引き続き僕が調べるよ」
「仕事、続けるの?」
「僕がやらなきゃ、誰が裏方をやるんだって話だ」
「縁の下の力持ちだねっ」
「……」
すると乙女カルラは少し俯き黙ってしまった。
「あれ〜? 早乙女くんじゃらいれすかぁ〜。あははは。あたしみんながいて楽しーのすちー!」
「誰だ! ナズナに酒を飲ませたの!!」
「綾織、ミルク一杯でそうなったぞ……」
「まだ治ってないのかそれ……」
乙女カルラにだる絡みするナズナ。
「あっれ〜? もしかしてシオンの言葉がうれちかったのかにゃ〜? へへへへへへ。青春だねぇ! 赤くなってんねぇ!」
だる絡み……ウザ絡み……。将来お酒絶対飲ませんとこ……。
「カルラは女難の相が出てると俺は思う」
「私が言えたことじゃないけど、私もそう思う」
多分女子の免疫ゼロなんだろな……。ナズナに密着されて耳まで赤くなってる。わかる、わかるよ。その子、もちもちしてるもんね……。
「それはそうと、折紙はどこいったの?」
「あ、私の情報をネットに流した裏切り者の牧野」
「事実だけど不名誉すぎる!! その後手伝ってポイント回復したじゃないか」
「ふーん。ま、それで許そうか」
私も牧野に釣られて辺りを見回すけれど、折紙アレンの姿はそこにはなかった。
「あいつって別にしんみりするタイプじゃねーよな? 四位だって別に悪い成績じゃねぇし」
てっきり三位決定戦があるのかと思っていたが、そこの点差は筆記試験の点数で決めるらしい。そうなればアレンが四位になるのは自明だった。
「折紙、相当アンタと戦いたかったみたいね」
くぴくぴと両手でオレンジジュースのコップを持っているツンデレこと東雲スズカがそう言った。
「それが残念だったのよ。アイツが一々点数とか序列で落ち込む風には見えない」
「うん、たしかに!」
「だって底抜けにバカだもの」
「うん……たしかに……」
暇が出来たら探しにでもいこうかな。と言っても、みんな好きなようにしてるし、抜けてもバレないか。姫野はナンパ始めたし、ナズナはオクラホマミキサーしてるし。牧野は隅っこで映画見てるし。
やっぱ、ラタトスクって変人しか居ないな……。
けど、同じ感想を抱いたのか、スズカも隣でやれやれと微笑んだ。
「あ、そういえばスズカ」
「みっ……。な、慣れないわね」
「素敵な名前だからつい呼びたくて」
「ふ、ふぅん」
ツンデレって生き物本当に推せる。
「一位の、何でも叶う権利、どうするの?」
私はスズカの心が変化したとは思いつつ、もしかしたら理想を叶えるため、やっぱりリヴァイアサンに行ってしまうのでは無いかと危惧していた。
「あれならもう使ったわ」
「えっ」
じゃあやっぱり決めていた通り──。
「ふっ。アンタって顔に出やすいわね。そんなにアタシが遠くへ行くのが寂しい?」
「そりゃ、そうだよ。だって、やっと友達になれたのに……」
「遠くって言っても、秋学期には帰ってくるわ」
「え???」
「寮の変更しても、強くなるわけじゃない。だから、短期留学することにしたの」
「短期留学!?!?」
「ええ。王庭十二剣の中でも最強の剣、エクスカリバーがあるイギリスに」
ガタガタっと転んだ音がしたので、そっちを見ると姫野がずっこけていた。
「マジか……。ビザおりたのかよ」
「あの学長ほんと何者なのかしらね。鎖国条約を軽々と……。でもまあ、学べるもの学んで、帰ってくるわ」
「いつから?」
「一週間後に経つの。少しでも居たいから」
「オレ……オレは──」
「あー」
スズカはポケットから何かをスっと取り出した。二枚。
「そういえば、幼女学長がなんでか旅券を二枚用意してくれたのよね。なんでかしら。アタシに侍従でも居ればわかるけれど」
私は姫野の背を押してやろうと思った。でも姫野はちゃんと自分の足で歩き、その手を手で包んだ。
「オレに行かせろ。オレ以外には、行かせない」
「私もユウリしかいないと思ってた」
なんだよ! 見せつけやがって! 幸せになれどちくしょう!
恋とか愛ではないのかもしれない。けれどふたりのあいだには確かな絆がある。
そういう関係、いいなぁっ。
私は背を預け合う二人を見てぼうっとそんなことを感じていた。
「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!
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