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60 Aブロック準決勝②

■SIDE:折紙アレン


「東雲流抜刀術──」


 彼岸花か。


 初撃で決めるつもりか。なら、こちらはカウンターで受ける。抜刀後に魔剣が鞘に戻るまで、東雲には隙が生まれる。模擬戦の時はそこで吹き飛ばした。


 カウンターなら五式(ミラー)か或いは──。


「──餓者髑髏ガシャドクロ


 おいおい──。


 幻覚なのか、地面から腕が生えて脚を掴んでくる。離れようとも、いくつもの腕が、移動を阻む。


「技まで闇堕ちしてるのかッ!」


 ──ZASH。


 ぐっ……。


 構えることも出来ず、カウンターすら発動するまもなく、正面から斬られる。


 模擬魔剣(イミテーション)は斬撃を無効にし、傷を作ることは無い。だからこそ模擬戦では安全装置として用いられる。


 だが、この痛みは──。


 腹を見下ろすと、服ごと皮膚を裂かれていた。


「……久しぶりだな、斬られるのは」


         ***


「アイツ斬られて笑ってんぞ……」

「アレンくんってMなのかな」


 んなわけない。え、違うよね?


「アレンは多分……嬉しいんだよ」

「やっぱり!?」


 あ、違う違う。


「久しぶりに戦い甲斐のある人と戦えるのが、嬉しいんだ」

「でも、模擬魔剣(イミテーション)で傷がつくって、威力減衰が効いてない程の威力ってことだろ? それって破格じゃねーの」

「確かにね……。どうするんだろ」


 それからはかなり一方的な試合が続いた。アレンも不刃流アンワイズを発動していたけど、いまいち届いていない。


 東雲さんの餓者髑髏(ガシャドクロ)は一撃が重く、かつ相手の行動を制限する。


 必中する彼岸花ヒガンバナと考えれば、恐ろしい。


「でも、アレンくんなんか変じゃない? いつもならもっとズガガーンでドカーンなのに」


 ナズナの語彙力が低いのはともかく、言っていることは正しい。アレンの動きにはキレがない──。


「便秘なんじゃね」


 そんなわけないだろ。


「でももし、アレンに思惑があるなら──」

「アレンくんが考えてるとこ見た事ない」

「あいつがなんか考えてるわけなくね」


 信用無さすぎるでしょうよ。


「まあ、そうなんだけど……。アホだよ? 勉強はできないよ? でも多分、気持ちがあるから、きっと、何か思ってるんだ」


 アレンはアレンで不器用だ。


 きっと言葉には出来ないから、行動で伝えているんだ。


 天秤座にじゃなくって、東雲スズカに。


         ***


■SIDE:折紙アレン


「よォ、ガキ。死ぬぞお前」


 東雲スズカとは思えない口調で話し始める東雲。


「それが天秤座か? 随分お利口だな」


 東雲はヒャハと笑う。


「安い挑発だなぁ。盤外戦術はヘタクソなんじゃあねぇの?」

「そうだ。俺は賢くない。こういうことしか出来ない」

「アァン?」


 俺は、手に流していた不刃流アンワイズをやめる。


 徒手空拳で、戦う。


「ギャハ。なるほど、それは高級な挑発だなァ。だが生憎この意識は既に──」


 東雲スズカは黙ってこちらを睨んだ。


 ああ、居ると思ったよ、そこにな。


 額から血が流れるのを感じる。視界が赤に染まる。それを拭って、見つめる。


 そこには、もう天秤座は居ない。


 俺がもう一度手を抜いたことで、完全にブチ切れた、あの日の東雲スズカが、居るだけだ。


「安い挑発ね」

「天秤座は高く買っていたがな」

「そう。まあいい。買うわ」


 東雲は餓者髑髏を地面に沈めた。


「あの日アンタは、クラスメイトを殺さないために手を抜いたわよね」

「そうだな」

「あれ、死ぬほどムカついたわ」

「シオンにも怒られたな」

「言っとくけど、アタシはまだ怒ってない。だから、まだ終わってない」


 そう来たか。


「あの日の続きをしましょうか」

「願ったり叶ったりだ」


 ふたりは互いに構える。あの日と同じように。それでも、あの日からは明確に成長した、剣を携えて──。


「東雲流抜刀術──彼岸花ヒガンバナッ!!」

不刃流アンワイズ十二式。限界無しの継戦能力アンリミテッド・アクセルッ!!」


         ***


 あれから数十分が経った。東雲は五月雨サミダレを応用した継戦剣術、蝉時雨セミシグレを使い、俺は十二式アクセル八式(業火)を使って応戦した。


 別の不刃流アンワイズを同時展開するのはシオンのアイデアだ。バカな俺にも使えるように、一緒に方法を考えてくれた日もあった。


 結果、八式で炎をまとい、十二式で手数を増やすというのが最も効率がいいとわかった。


 つまり、これが今の俺の最善手だッ!


「アンタがっ──」

「なんだ!」


 ──GRASH。


「アツくなってんの、珍しいと思ったのよ」

「赤点回避がかかってるからな!」


 ──SLASH。


「冗談はいい!」

「お前と同じだッ!」


 ──BOOOM!


「──アタシと」

「『浅倉シオンをぶっ飛ばす同盟』」


 そうだろッ! そう叫びながら東雲の膝を横に蹴り飛ばす。バキッと音がして、確実に折れたと確信する。


 地面に膝をつく東雲。


「あいつにあてられたんだ。……それまでの俺は、何も感じなかった。この世界が至極どうでもよかったんだ。でも、あいつの馬鹿みたいに真っ直ぐな目をみて、初めて心臓が揺らいだ──愛しいと思った」


 つい、口に出た。


「は、はぁ? それって──」

「だからこの気持ちが『本物』か確かめたい。あいつに勝って、それを確かめるんだ。赤点も、お前の憑き物だって本当はどうでもいい。本物を知らなければ、俺はきっと剣聖パラディンにはなれない。そう思ったんだ──」


 だから終わらせる。そして俺は決勝に行く。


 手を伸ばす。


 ──悪いな東雲。俺は本当の本気は、まだとってあったんだ。だが、出し惜しみもしてられないな。


 これが俺の、最後の全力だ──。


 一撃必殺。


不刃流アンワイズ九十七式。恋の終止符(ラストリゾート)

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― 新着の感想 ―
[一言] 一時的でも、正気に戻れてよかったねぇ。 そんだけキレッキレな事されましたからねぇ( ´∀` ) でもってまさかの最強技か!?
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