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59 Aブロック準決勝①

 フィールドにて向かい合い、互いに目を合わせ、全くそらさず、手を伸ばし合う。


 握手をしたふたりは、ほぼ同時に背を向けあい、フィールドの端へと歩き出す。


 会場の熱は、初夏の暑さなど気にならないほど上昇していた。


 Aブロック準決勝。


 東雲スズカVS折紙アレン。


「どっちが、勝つかな」


 私が呟くと、姫野はわからんと答えた。


「あのふたりが模擬戦の頃のふたりなら、スズカが負けるだろうな」


 でも、ふたりとももうあの時とは違う。


 アレンは加減をするのをやめたし、東雲さんは天秤座を宿した。


 持つ思いもきっと違う。


 まあ、ふたりとも私をぶっ倒したいという点では意気投合してるらしいけど。


 ふたりとも、負けられない戦いなんだ。


 蝉の声は遠く聞こえ、開戦のサイレンが鳴る──。


         ***


■SIDE:東雲スズカ


 アタシは昔から気難しい人間だった。


『ヒャハ。あの生意気なガキをぶち殺すの楽しみだぜ。前座はさっさと()っちまおう』


 それは自分でもわかっているし、直そうとも思った。


「殺しはしないけど、もう立てないくらいには吹き飛ばす」

『お堅いこって』


 でも、アタシはもうこういう人間だから、直らない。というか、治らない。


 だからどれだけ自分が嫌いでも、自分のことは受け入れて進まなきゃいけない。


「それにしても、正義を名乗る奴がそんな話し方するの、嫌なんだけど」


 アタシの中にいる天秤がヒャハと笑った。


『人間の物差しで語ってんじゃねぇよ宿主様よォ。中には破壊と創造が渦巻いてんだ──混沌カオスなのさァ』


 自分が嫌いなアタシと、自分のありのままを受け入れている天秤。一体どっちが、正しいんだろう。


『正しい? ヒャハ。どうしたいかで、語れェ。あのいけ好かない兄貴様をぶち殺したいんだろう?』

「そんなの言ってない」

『言ってない、だけだァ』


 アタシはどうしたいんだろう。


 優勝してリヴァイアサンに入る?


 そんなの、もうどうでもいい。


 浅倉シオンをぶっ飛ばしたい?


 それで何が解決する。


 アタシは力を手に入れた。でもそれだけだ。どうすればいいのかを知らない。


 自分がしたいことがわからないから、夢を持つ人間を否定するんだ。


 入学式、剣聖パラディンになりたいなんてふざけたことを言った浅倉シオンをアタシは嫌った。


 そう、人を嫌うことでしか、アタシはアタシを保てない。


『それでいいじゃねぇかァ』

「良くない」

『嫌いな気持ちがァ、好きな気持ちより劣っている感情なんて、不公平だろうがァ』


 天秤らしい詭弁だ。


 ふふっ。


 しまった。柄にもなく笑ってしまった。


 でもそんな詭弁を信じてもいいかもしれない。


 全部をぶっ殺せば、その先に、何かが見つかるのかもしれない。


 そしてアタシはただ勝ちたいという気持ち、そして、内在する悪感情の全てを天秤に渡して、瞳を静かに閉じる。


         ***


 東雲さんのまとう雰囲気が変わった──。


 それを見て私はぞっとした。藤原イズミも冷たい目をした人間だったけど、彼の中にはひとつの情熱という灯火が残っていた。


 今の東雲さんには何も無い。


 まるで、全ての感情を放棄しているかのような虚無さが、心臓を強く打った。


「東雲スズカはもう溶け合っている」


 乙女カルラがそう呟いた。ナズナは彼を見て言う。


「あ、早乙女カルーアくん」


 誰だよそれ。


「乙女カルラだ。……東雲スズカの心は今、天秤座と共にある」

「それって具体的にはどういうことなの?」

「僕と乙女座(スピカ)は契約をしているだけで、心を共有したりはしていない。浅倉と蛇使い座は封印という線引きがある」


 だけど、東雲は天秤座と心と身体を共有した──。


 乙女カルラの言葉は疑問を持つように語られた。


「なんでそんなことが起きたの?」

「わからない、わからないんだ」


 私は初めての授業──血刻みの時に、一度だけブラックミザリーに身体が奪われたことがある。


 でもあれは事故だったし、すぐに収まった。


「意図して自分の心をバケモノに引き渡すなんて、あると思うか?」

「……──」


 普通は、ないのかもしれない。


『お前の兄達は皆リヴァイアサンを卒業してシージとなった。ラタトスクなどというゴミ溜めに落ちたお前が、上がってくるのを期待している』


 図書館であの言葉を聞いた今は、少し思う。東雲さんは、もう何もかもが嫌になっていたのではないかと。


 自暴自棄になった東雲さんが自分の全てを悪魔に手渡していたのだとしたら──。


 それは、良くない。


「あいつ、ああ見えてメンタル弱いからさ──」


 姫野は先を言わなかったけど、何が言いたいのかはわかる。


 それを救えるのは、彼女を心から救いたいと思える者だけだ。絶対、悪魔なんかじゃない。


 そして私は、彼女を救いたい。


 今はそれだけが分かっていればいい。


 そして東雲さんは、抜刀姿勢に入る。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何もかもぶっ潰したら、それを褒めてくれる存在までいなくなっちまうぜ。そこまで行っちまったらもう孤独死な残酷な結末しか見えんぜ(;゜Д゜)
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