57 つわものどもが
保健室での治療を終えると私は控え室に戻ることにした。ちなみに擁護教諭さんにはめっちゃ怒られた。ヒビ自体はどうにか治ったけど……。げんこつ痛かったなぁ。
そして、控え室の扉を開けると、とても久しぶりに感じる人が居た。
「や、東雲さん」
次はAブロックの準決勝だ。東雲さんも折紙アレン戦に向けて待機しているのだろう。
気まずいけど、ちゃんと会っておこうと思った。決勝じゃ、話す余裕ないだろうから。
彼女はちらりとこちらを見た。
「あれで、まだ千里行黒龍を使ってないんでしょ?」
「うん。東雲さんのためにとってるよ」
適当なことを言うと、彼女は冷たい目で睨んできた。
「アタシは使うわよ。正義決壊天秤を使ってでも、アンタを叩きのめす」
ふふっと私は笑ってしまう。やば、睨まれた。
「いやー、それくらい敵意むき出しで居られた方が、やりやすいからね」
チッと舌打ちが返ってくる。私は投げキッスだと思うことにする。
「安心して。決勝では全力出すよ。躊躇なんてしないから。全力でやろう」
「そう。ならいいけど」
それと、もう一発挑発を。
「──ぶっ飛ばして、東雲さんの心臓とったバカ天秤を引き剥がすから」
すると、東雲さんの口が動いた。悪辣な言い方で。
「ハッ、やってみろガキが」
東雲さんの声で、正義決壊天秤が喋る。そんな言葉を話すんだね。
「じゃ、それだけ。またね」
私は踵を返して部屋を出る。その背中に声がかけられることは無かった。
***
「シオン!! 腕だいじょぶ!?」
忠犬みたいに駆けてきたナズナ。かわちぃねぇ。
「うん、大丈夫。ちょっと、内側から爆発しただけだから」
「ちょっと内側から爆発!?!?」
大袈裟なところもかわいい。
「おめーの新技……? なんかどかーんですごかったな」
語彙力無さすぎるだろ。
「あれが、『衝動』ってやつ?」
カルラもいたんだ。ひょいと顔を覗かせる彼に私は頷く。
「ありがとうな。迷惑かけた僕なんかのため──」
私は左手でカルラの口を塞ぐ。そして右の人差し指を振ってチッチッチッ。
「人のために戦うのは魔剣師の仕事。私にはまだ免許がないから、つまりこれは自分のためってワケ」
「あ、ああ」
「だから、背負わなくっていいんだぜ!」
「……そ、そうか」
そう言うと、ぽかんとするカルラ。姫野とナズナがカルラの背をパシンとたたく。
「わかるよ、わかる」
「うんうん、わかる」
何がだよ。
「ま、それはともかく決勝進出おめっとさん!」
「ありがとー! まさかここまで来れるとは……」
「シオンがちゃんと頑張ったからだよー!! えらいっ!」
可愛いなぁナズナ。
「さっきの続きになるが、『衝動』について詳しく聞いてもいいか? あの時、一体何が起きたんだ」
カルラが聞くので、私は窓際に腰を預けて、自分の中でふわっとしているものを何とか言葉にできるよう頑張る。
***
「まず、終わりのない衝動っていうのは私の魔剣技なの。
それを私は、ずっと重力を操る魔剣技だと思ってた。Black Miseryだって重力操作で攻撃に使えたし。
でも、ある日部活の先輩が、重力操作は魔剣由来の魔剣技であって、私由来の魔剣技とは違うって教えてくれたの。
重力操作──Gravityは魔剣Black Miseryに由来する技なの。で、『衝動』は私の内側にある沸騰のような何かなんだって。
文字通りの衝動。それも際限のない衝動。湧き上がる気持ち。想い。そのエネルギーが『衝動』っていう魔剣技なんだ。
最後に放ったのは、Gravityに私の中に沸騰していた怒り──Furiousを足した、広域重力操作。重力波に指向性を与えて飛ばしたんだ。三節棍で跳ね返せないものは、反射のしようもないから。
たぶん『衝動』っていうのは、その名前の通り、何かを成したいって感情なんだと思う。
──感情の強さで、魔剣を強化する。
それが私の『終わりのない衝動』なんだと思う」
***
「許せねぇ──」
姫野はおもむろにこちらへ歩いてくる。
えっ、なんで。怒らせたかな。こ、これでも一応努力の末のと言いますか……あんま自分で言うことじゃないけど……でもでも頑張って手に入れた力でして……。
「許せねぇよ……。なんでお前ばっかりかっこよくて強そうな能力持ってんだよ!! もう十分モテてんだろうが!! オレにもモテ成分を分けろ! 分けろよぉおおお!!!!」
なんだ、いつもの姫野か。
カルラが姫野を殴って沈黙させ、引きずってゆく。さよなら姫野……。
一方ナズナは少ししゅんとしていた。
「ナズ──」
彼女は私の胸に飛び込んだ。わわっ。びっくりした。
「どっか、行っちゃわないよね?」
「え?」
「シオン、努力家だから、神様も見てる。その分だけ、ちゃんと強くなってる。でも、強くなったら、シオンがどこか遠くに行っちゃうんじゃっててわだじ、わだ……」
肩が少し濡れて、彼女が泣いていることがわかった。私はきゅっと引き寄せて抱きしめる。
私より大きいくせに泣き虫なんだから。背中をぽんぽんして、落ち着かせる。
「私はどこにも行かないよ。剣聖にならなきゃだもん。勉強もしたいし、きっと青春もしたい」
青春がしたいなんて言えるようになったんだ、私。それは、みんなのおかげだな。
「……うん、ずび、ずびび、うん」
私の肩に鼻水付けたナズナはしばらく泣いていた。
どこへも行くものか。うん、そうだ。
私には成りたいものがある。それが無くならない限り、この衝動は終わらない。
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