56 VS藤原イズミ③
──GRASH、CRASH、SMASH!
藤原イズミが全力を出したらどれだけの力量差があるのかということを全く考えて居なかった私は、何度も吹っ飛ばされて防戦一方となっていた。
強すぎるでしょ……!
私的には燃えるけど、負けたら元も子もない。
相手は反射の魔剣技を三節棍に巡らせ、私の痛いと思う部分──つまり急所を的確に殴ってきた。
Black Miseryで対処出来ないことも無いけど、向こうは方向性の自由度が高く、軌道が読みづらい。
おまけにこちらがちょっとでも力を入れればその力を反射されて吹き飛ばされる──。
これ、勝ち目ないねぇ!
ブラフというか、相手とお話するためだけに言ってみた千里行黒龍の力を借りるの。やってみようかな。
まあ、出来たらもうやってるんだけどね。それに本気で反射されてそれを私が受け止め切れるとも限らないし、乙女カルラの忠告通り、それは危険な力だ。
ならこのまま不刃流一式での対応を続け……。
「──終わらせるッ!」
──ぎっ。
三節棍が私の腰を鋭く、重く叩いた。
痛みで声も出ない。全身の骨に電流が走ったみたいで、苦しい。
「魔剣を持つ不刃流。十三獣王を宿す一般人。感情任せに拳を振るう。俺の評価は間違っていない。──お前は未熟で滅茶苦茶だ」
痛いこと言われた。だけど、文字にしてみればその通りだ。今の私ほどちぐはぐなのもいない。
痛みで、思考が鈍ってるのもある。
敵に塩を送るような真似までして。ほんと、何がしたいんだろう。
迷って悩んで、選んだ道が正しいとは限らない。
私はここで負けるかもしれない。
でも、未だ後悔はないから、これで良い!
そう強く思った瞬間にこめかみへ一撃がぶち当たり、私の身体はその場で回転し地面に叩きつけられた。
脳に、スパークが走る。
『若いのう』
霞む意識の端に、声がした。
この声は、鎖の女の子……。
『我を自由にすると言ったあの約束は、まだ果たされぬのか?』
──やり方がわからない。ごめん。
『なに。お主が認めるだけでいいのだ』
──何を。
『ただ、力が欲しいと』
──力。
藤原イズミという、私を敵として見ていなかった人間を怒らせて、闘いのフィールドに引きずり下ろしたまでは良かった。
そこで正々堂々と闘って、勝って、カルラにしたことに対して、馬鹿野郎って言ってやろうと思った。
でも、私と藤原イズミの間には、努力とか機転とかそういうものでは埋まらない、力量差があった。
力があれば、形勢は逆転する。
力さえあれば──。
『叫べ。力が欲しいと! 我を求めろ』
「力が──」
──DAN。
私は強く脚を踏み込んで、立ち上がる。
鎖の少女を自由にはする。テミスを倒すためにそう約束したから。
自由にすれば力が手に入る。分かっていたんだ、彼女が千里行黒龍なのだと。
でも、今ここじゃない。
『お主、死ぬぞ』
「そう簡単に死なないよ。私、諦めが悪いから」
カカカっと笑った少女──千里行黒龍は消えた。
『いつかは、果たされよ』
本気は出す。でも、借り物で勝ったら私は一生そこ止まりだ。
自分の力を、信じて、そして全てを出せばいい。
リオン先輩に言われた。「衝動」と「Gravity」は別の魔剣技だと。
だったら、それはどんな業だろう。
なんでそんな名前をしているんだろう。
ふと視線が落ちて、自分の手のひらを見つめた。そこには、硬くなったマメがいくつもあった。
剥がれては出来て、潰れては出来て。
長い付き合いになる。
「そっか」
私はこの衝動を──剣聖になりたいという──人を守りたいという衝動を、決して止めることがないんだ。
際限なく湧出する衝動は、いずれ萌芽する。
わかった。やっとわかった。
これはそういう力だったんだね。
「浅倉シオン。次で本当に終わらせる」
「いいよ。一撃で決めよう」
「──面白い女だな」
ふたりは構える。目線が──ぶつかる。
「皇帝の鏡、Dreadnoughtッ!」
「終わりのない衝動──Furious Gravity」
***
■SIDE:折紙アレン
二人が衝突した瞬間に、生じた波で校舎一階の窓が全て割れた。土煙が巻き上がり、観衆は全て黙った。
「一体、何が」
砂塵は徐々に消えてゆく。
「どうなった!?」
「シオンは!?」
姫野と綾織が同時に叫ぶ。
そして自分の目で、その光景を見つめる。
浅倉シオンの指先から黒くなった腕に赤黒いヒビが入り、それは肘まで続く。まるで沸騰しているかのように湯気が出て、荒い呼吸をしている。
彼女の指のその遠く先では、藤原イズミが壁に磔にされて潰れていた。気絶していて、かつ場外だった。
一体……何が起きたんだ。
なにも知らない、ただ闘いを見に来ただけの観客からは大歓声が上がる。下馬評では一般家庭の子であるシオンは名家の出である藤原に負けると言われていたからだ。
それをひっくりかえした。観客は喜ぶだろう。だが、あの力はなんなんだ。
何がどうなったら、藤原家の子どもを吹き飛ばせるんだ。
肩で息をするシオンの眼は血走っていた。それが、明確に答えをくれずとも、壮絶な何かを物語っていた。
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