54 VS藤原イズミ①
頭が沸騰してる。ボコボコとボコボコと。でも色んな感情が湧いてるいつものとは違う。
ただ目の前のやつを叩きのめしたいっていう、シンプルな沸騰だ。
さて、Bブロックが先──か。決勝の相手が誰になるかも分からない。それでも私はどちらにも、どっちの心にだってぶち届く戦いをしよう。
ついでにカルラもね。もう彼は友達だから。
友達を理由もないのになぶられて。それで普通な顔してられるほど、私は外道を歩んだつもりは無い。
私がここから先、一歩踏み出すは修羅。
修羅の道を往くことを選んだ。
なら、選ぶのはこの業だ。
「不刃流一式。終わりなき修羅の道」
***
■SIDE:綾織ナズナ
「アイツ……。一式まで……!」
折紙アレンが窓枠を掴んで叫ぶと、あたしはビクッとして彼を見つめた。
「一式って……なにかすごいの?」
「すごいとかじゃない。そういう話じゃ──……不刃流というのは元から一種類しかなかった。それが一式だ。だが──」
あたしは彼が何を言おうとしているのか分かってしまった。そう、不刃流を自らが経験した時に知った。あのあまりに大きな代償を。
「不刃流は命を削る」
私がつぶやくと、アレン君がおどろいたようにこちらを見た。けれど、直ぐに理解をして元に戻った。
「あの時、お前も不刃流を経験してわかったと思う。不刃流は身体を魔剣にする。それは身体に重大な負荷をかけるんだ」
だったらアレン君だって──。
「……ああ、そっか」
彼の口から一式の名を聞いたことは無い。即ちそれは、最も初期に作られていたが故に、最も粗いものだということだ。
「二式以降は身体への負荷が考慮されている。だが、一式だけはそうじゃないんだ」
「使えばどうなるの……?」
「死期が、早まる」
「……──そんな」
「その分強さは十二分にある。あいつはそれに賭けたんだ」
「たかが学校の試験なのに──」
「その言葉、あいつが一番嫌いな言葉だ」
「……知ってる。でもだからって」
「そうまでして倒さなければならないと思ったのならば、それを見届けるしかない」
そう言って彼は少し考え込んだ。
「──一体誰が一式を教えた……?」
戦いの緞帳は開いた。
***
思考が重たい、朦朧とする。でも、この全身にみなぎるこれは何だ、力だ。
今なら全細胞が凶器にできる。
私は藤原イズミに向け足を踏み出した。
「何故そこまで必死になる」
ピタッと足が止まる。藤原イズミの声は無気力に投げかけられた。
「お前をぶっ飛ばすため」
私は端的に答えた。歩き出す。
「できるといいな」
戯言を。私は短剣を取り出した。
Gravityでは無い。不刃流の脚力なら重力なんてどうでもいい。
──SPAN。
一瞬の破裂音を残して私は藤原イズミに切りかかる。敵は並大抵のやつじゃない。初撃でやらなきゃ押し潰せない。
──GRASH!
藤原イズミが使うは三節棍。そのスイングに当たり、私は地面にめり込むほど吹き飛んだ。
ザリリと地面に腕を突き刺し速度を緩める。
「はぁ──はぁ──」
そこで私は、自分が対峙するモノの強大さを理解することになる。
あの三節棍を使いこなしているという点では言うまでもない。だが、その魔剣技はおよそ考えうる最悪の技だった。
威力反転。私が打った分だけ、ちょうど同じ力で跳ね返す。
だから乙女カルラとの試合が長引いたのか──そう納得しかけたが、私はそれを直ぐに違うと否定した。
あの三節棍を上手く使えば早期決着など簡単に出来たはずなんだ。
なのにあいつはしなかった。
魔剣技を知って余計にムカつくとはね……。
でもそうか、相手はコピーとまでは言わないが、正確な私の写鏡だ。
私は私を超えられるか?
やって見なきゃわかんないよね──!
「Gravity 1 to billion」
ズガァン──音を立ててフィールドに突き刺さる魔剣Black Misery。
私はそれを持ち上げる。全力の不刃流で。
「大質量なら突破できると思ったか。だとすれば君は愚かだ。もし突破できなかった時、その威力は跳ね返る──」
「いいさ、それで。今はありったけの重さがいるんだ」
「何のために。俺をフィールドから出すことは無理だ。気づいているんだろ。威力は反転する」
「そう。気づいてないなら、あなたって間抜けだね」
「……淑女の使う言葉じゃないな」
「気にするタイプでもないでしょ」
「ああ、どうでもいい。勝敗も、戦いも、過程も、結果も、もうどうでもいい」
「良かった。あなたが間抜けで。その能力の穴が、思ったよりも簡単に見つかったから」
「なに?」
さっきとは少しだけ表情を変えた藤原イズミは三節棍をずっと構えた。
「じゃあもう一発やってみようかァ──」
私は思い切り振り上げたBlack Miseryを今出せるありったけの火力で振り下ろす。
剥がしてやるよ、その仮面。
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