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53 お前の為の花火

 本選二日目。空に花火が数本打ちあがり、第二校舎オクタンには昨日よりも多くの人が集まっている。


 世間は夏休みに突入し、一般の観客も学園に招かれているのだ。


 なんでも、幼女学長がこれは寄付を募るチャンスだよっ! と言ったそうで、中央通りには祭りの屋台なんかも展開されているらしい……。商魂たくましいな。


 らしい、と言うのはそれがすべて人づてに聞いた話だからだ。ナズナがチョコバナナとりんご飴を食べながら焼きそばにかつぶしをふっていたので間違いない。いや、食い合わせ悪すぎるでしょ。


 ……ともかく、今日は午前に準決勝二試合が行われ、午後には決勝戦が行われる。


 準決勝第一試合はクジ引きでBブロックが先に行われることになった。Bブロック一組代表浅倉シオン対するはBブロック二組代表藤原イズミ。


 私は朝早くから控室に入り、Bブロック準決勝の準備をしていた。その部屋は静かで、私はよく集中できた。


 もう、漏水は直ったのだろう。


         ***


■SIDE:綾織ナズナ


 モグモグ、モグモグモグモグ。


「お前、太るぞ……?」


 そう言って来た姫野くんのスネをゲシッと蹴る。


「いてぇよ!」

「デリカシーなさすぎ! さいてー!」


 でも確かに食べすぎかも……。


 今朝シオンに会いに行ったとき。横腹つままれて、チーズとかおもちみたいになってたの思い出した。


 ううっ……。なんもかんも、ユウリ君が美味しい夜食作るから悪いんだかんね!


「お前らやたら呑気だな……」


 ほ?


 聞いたことない声なのに、知り合いみたいに話しかけてくる人? 誰だろ。


「おう、カルラじゃん」

「あ! もしかして早乙女クリカラくん?」

「誰だよ。乙女カルラだ」


 ああ、そうそうその人。


 あたしとユウリ君の横に来たのは前にシオンを誘拐したって噂の乙女カルラ君。

 噂はのっぴきならないけど、シオンいわく色々事情があったらしくって、もう仲直りしているらしい。


「ね、ホントに誘拐した時すけべなことしてないの?」

「は!? してねぇよ……」

「誘拐? なんだカルラおめーそんなことしたんか」

「してねーよ! いやしたけど!」

「したのっ!?」

「してねーよ!!!!!」


 カルラ君、ちょっと遊び甲斐があるなぁ……。

 シオン、隠れドSだから、本能的に好きそう。自分への厳しさとかはドMなのに、ちょっと弱味を見せるとSっ気見せてくるんだから……。


「本人にはちゃんと謝ってんだから蒸し返すなよ……」

「へへへ、まあいいや。それよりもユウリくんとカルラくんって知り合いなの?」

「知り合いっつーか、年一で会う幼馴染みたいなもんかな。オレらの家って魔剣界隈じゃちょっとだけ有名だからさ」

「ほえー。なるほど。部活とかはやってないの?」

「一応、弓道部をやってる」

「双剣使いが弓ひいてるのほんとウケるよな」

「あのな、意外と一心集中とか役に立つんだぞ? ……まあ、藤原に対してはあのザマだったけど」

「そっか、Aブロックの二組だったんだよね」

「うん。ダメダメだったけどな」

「えっと、おつかれさまでした。あ、そうだ、なんかあげる!」


 あたしは食べかけのチョコバナナとか食べかけのりんご飴を見下ろしてなんか違うなとなり、スカートのポッケを探ってみたところ、キャラメルの包みを見つける。


「これ! どーぞ」

「あ、ありがとう……。なんか溶けてんだけど……」


 ポッケに入れっぱだったから溶けちゃったのかな……。


「でも食べれないことはないのです!」

「あ、うん……」


 ちょっとそっぽを向くカルラ君。あれ、やっぱ溶けたやつとかよくなかったかな。ちょっと仲良くなろうと思ったんだけど……。


 あたしが心配そうに見ると、ユウリ君が手であたしを制した。


「安心しろ。こいつは気分を害したわけではない」

「?」


 するとユウリ君はカルラ君の肩をぽんぽんと叩き「わかる、わかるぞ。天然なんだ」と告げて、後方腕組み顔をした。


 ???


 男子ってよくわかんない。


 と、そうこうしている内に、場内で拍手が巻き起こった。今までの試合はあくまで内々で行う試験だった。でも今日は観客がいる。

 その声援で、ようやく試合が始まるのだと理解する。


 フィールドの端に立つシオン。その反対側にはリヴァイアサンのエンブレムを胸に掲げる藤原イズミ。


 両者センターに歩き出し、審判に挨拶。最終試合の審判は裏社会で生きていそうな見た目の副学長が担当していた。


「両者、握手──」


 二人は一瞬の間を置いてから手を差し出す。

 二人とも、打ち合わせでもしたように左手だった。


 その両者のあまりのスポーツマンシップの無さにあたしは笑ってしまった。ユウリ君はお腹を抱えて笑っている。他のラタトスク生も笑ってると思う。困惑しているのは、事情を知らない人たちだけだ。


 補足するけれど、浅倉シオンって子はめちゃくちゃ真面目だ。人の嫌がることなんてめったにしない。人が嫌がってやりたがらないことを代わりにやってあげるくらい良い子なのだ。たまに笑いながらいじわるしてくるけど!


 でも、本気で人が嫌がることは絶対しない。それは彼女の根っこに人を守るという、優しさの正義があるからだ。


 そんな彼女が「そういうこと」をするってことは、彼女が今どういう状態か、すぐにわかる。


 ──浅倉シオンは、ブチ切れている。


 そんなの、アレン君に頭突きしたあの模擬戦でしか見たことがない。


 ラタトスク生は久しぶりに浅倉シオンじゃなくて腹黒シオンが見れると思ってうきうきしてると思う。


 あたしも、そうだもん。


「雰囲気悪すぎないか……?」


 カルラ君は動揺してそういう。フィールドのふたりはメンチを切って元の位置に戻る。


「よく見とけやカルラ。アレ、おめーの為の花火だぜ」

「え?」


 そう言うユウリ君。うん、確かにそうだね。浅倉シオンは誰かのためにしかキレないんだから。


 花火が打ちあがり、炸裂とともにサイレンが鳴る。フィールドを揺るがさんとする拍手と熱狂が辺りを包む。


 試合開始だ!


 シオン、やっちゃえ。

「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!


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― 新着の感想 ―
[一言] >双剣使いが弓ひいてるのほんとウケるよな 銃使ってるヤツが言うか(;゜Д゜) というか双剣繋げて弓に変えて魔矢を打ったりするヤツおるからカッコええイメージしかない(ぇ そして……観客の前で…
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