閑話休題01
■SIDE:姫野ユウリ
「なあ、牧野」
「ん?」
ズズズとミックスジュースの紙パックをすする牧野コウタ。現在は本選一日目の昼休み。
隣同士並んで、ラタトスク一年生がたむろしている教室を眺めつつ思う。
「浅倉、モテ過ぎじゃね????」
浅倉シオンという女は、現在Bブロック一組のトップを走り、次に準決勝を控えている。
そんな彼女を囲うのは女子たち。
浅倉に腕を組む綾織ナズナは肩に頭をのせている。うらやまけしからん。
浅倉の背後に立って浅倉の髪の毛をいじいじしている藤堂イオリ。澄ました顔して美しい。羨ましい。
綾織の反対側で腕を組む燐燈カザネ。ギャル。さっきまで斬り合ってた。にこにこでかわいい。羨ましい。
浅倉の足元で体育座りする妻鹿モリコ。変態だけど顔は整っている。ちょっと羨ましい。
「なんか、あれだな。ライオンの群れって感じだな」
「オレの目がおかしいのか、あいつの座ってる椅子が玉座に見えるぜ……」
アイツ、入学当初はもっとおどおどして陰気だったんだけどな。今はなんかはきはきしてるし、明るく話してるし、唇が潤ってて小さくて、目がきらきらで……。
「姫野、目を覚ませ」
「はっ!」
なんだ? オレまでやつの誘惑の魔の手にかかったというのか! 綾織というミューズがいながら!
「や、わかるよ浅倉さんがモテるの。よく考えてみろ。顔のパーツは細かくて小動物然としているのに、戦いになると大胆になるあのギャップ」
「うんうん」
「性格は控えめに見えて思ったことはちゃんとズバッと言う芯の太さ。迷いながらも答えを探して突き進む強さ。ちょっとだけSっ気があるし」
「うんうん」
「それでいて仕草は意外とちゃんと女の子っぽくて、いままで青春を送ってこなかったのか、素直な生娘感がある」
オレはその解説を聞いて震えちまった。
「なんだよ! 胸さえあれば完璧じゃねーか!」
「姫野、お前がモテないのはそういうとこだ。カス」
そうだな……。でもオレは豊かな方が好きなんだ……。
「何の話だ?」
折紙アレンがトイレから帰ってくると牧野の隣に並んだ。
「浅倉がやたらモテるよなって話してたんだよ」
「そうか」
「折紙ってマジでそういうの興味なさそうだよな」
牧野の言葉には同意する。折紙がオレたちの下世話トークに参加したことは一度もないし、コメントしたこともない。
しかし折紙は意外な言葉を発した。
「──やっぱり、モテるよな」
ぎょっとした俺と牧野は折紙の方を向くが、折紙はすたすたと歩いて浅倉の方へ行く。そして準決勝進出のお祝いを告げて、その場を去っていった。
「アレンこそ二回戦、……がんばっ」
彼の背中にそう声を投げた浅倉の目は、どこか青春の色を孕んでいた。
ははーん……。なるほどね……。
オレはそこで察してしまったが、それを牧野と共有しようとは思わなかった。珍しく。
だってそれは、言葉にしてしまえばきっと壊れてしまうような、脆く、淡いものなのだ。
ノンデリカシー日本代表の俺だって、それくらいわきまえてる。
だから、お優しいオレはピエロを演じる。浅倉には、今はスズカのことに集中してほしいからね。
「おーい、浅倉~! シンデレラバス──」
「死ね!!!!!!」
おでこにBlack Miseryが飛んできてサクッと刺さった。
ぶっ倒れながら思う。
この役、やっぱ損だぜ……。
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