47 VS妻鹿モリコ①
──Bブロック一組、第二回戦。
その日の授業を終えた他学年の学生も第二校舎に集まり、観客も増えた。控室からも外の熱狂がわかる。
コンコン。
なんとなく想像できたけど、ドアの向こうにいたのは対戦相手の妻鹿モリコだった。お願いなので早く水道直して……。
「あなたが浅倉シオンですね?」
「そっちは妻鹿さん?」
こくりと頷く彼女。ばっと顔を上げた妻鹿モリコは私をじっと見つめた。
「クヒ、美味しそっ♪」
ゾワッ……。
総毛立った。シイタケな目がギラついていて、ぺろっと舌なめずりしながら全身を見られた。なんなんだこの人……。
「じゃ、またあとでね」
何しに来たんだと思わず言いたくなるほどの滞在時間で彼女はその場から消える。楽屋挨拶かよ。
「……さて、行きますか」
調子を崩されたけど、まあいい。私はいつも通りにいこう……。
***
ナズナにああ言われて元気は出たものの、具体的にどうすればいいかはまだ思いついていなかった。大火力を出せる魔剣──。きっとそれ自体が脅威だというわけではない。
それを「どうやって悟らせず」にフィールドに持ち込んだのか。
からくりが分からない以上、防ぎようのない火力より、そちらの方が脅威だった。
……だけど事前情報である程度は理解出来ている。単純魔力と式だけが乗せられた「使い切り魔剣」を多重に魔剣調律して特大の技にする。
初戦の場合は増幅魔剣と爆破魔剣の合成。どうやったのかは見当もつかないが理屈は理解できる。
ナズナの利己的な遺伝子に少し似ている所もある。つまりは技の掛け算だ。
だけど、「何」が「どれだけ」重ねられているのかがわからない以上、やはり状況を打破しているとは言いづらいところがある。
ナズナの技と違うのは、その発動にどうしても巨大な魔剣が要るということ。それだけは物理的に逃れられないはずだ。
だけど、さっき何にも持ってなかったよね……?
謎は深まるばかりだった。仕方ない。ぶっつけで行こう。頭で戦うのは分が悪いかもしれない。それでも、よく考えたら魔剣師はいつだってぶっつけ本番じゃないか。
──信じることを、忘れないように。
***
さっきのシイタケ目な黒髪ロングの女子生徒は、相変わらずつなぎを着て、手には何も持っていなかった。
フィールドにも持ってきてない……?
噂に聞いていたでかい魔剣どころか、他の改造魔剣もない。それでも彼女は胸を張って仁王立ちしている。それだけが考えうる弱点だったのに──。
いや、もしこれが既に術中なのだとしたら……。
「侮れないなぁ」
動揺しても仕方がない。やろうッ!
サイレンが鳴る。
「身長154cm、体重54.2kg。プラマイコンマ4。胸はシンデレ──」
「なんで知ってんだ!!!!!」
先制攻撃にGravityを仕掛けようとした私はそう叫んだ妻鹿モリコに出鼻をくじかれた。全校生徒の前でてめぇ!
「その顔、とってもかわちいね」
「……うるせい」
「クヒヒ、鉄床先輩が直々にオートクチュールだなんて、何事かと思ったんですよ♪ でも、なんとなくわかる」
鉄床……。あ、鉄床コタツ先輩か。キュクロプス十四年生の……。
「そ、それが今関係あるの?」
「ううん、関係ないわ!」
関係ないんだ……。
「でもやっぱりあるかもだわ!」
「なんなの!?」
突っ込んじゃったよ。
なんなんだこの子……。盤外戦術なんてそう簡単に乗ってやるものかと思ってたけど私、意外と短絡的だからなぁ……。
ただ、そういうやり方に負ける程自分が育っていないとも思わない。ナズナはああ言ってくれたが、本当は自分で気が付かなきゃダメだった。
私は、私を褒めてあげないと。入学以来頑張ってきた。それは、事実なんだ。あっちこっち寄り道したり、馬鹿なこともした。でも、もう私は不倒門の前で無力さに泣く子どもじゃない。
龍王に町を壊されて泣くだけしかできない、あの子じゃない。
自分で言うのはほんとに恥ずかしいけど、それくらいの傲慢さはきっとあって然るべきだ。そうでないと、魔剣師なんてやってらんない。
「私は強い」
そう自分に伝えて、私はBlack Miseryを構え──詠唱する。
「前方向──Gravity 1 to 1000……」
「──機械仕掛けの神様」
え?
──KACHIT。
ニヤッと笑った妻鹿モリコ。歯車のような音がした瞬間に、フィールドにザッと幾何学模様が広がる。
「なにこれ!?」
「ようこそ、私の舞台へ! クヒ」
「ちょっと面白そう」と思っていただけましたら……!
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