43 VS燐燈カザネ②
身体が全く言うことを聞かない。まるで、不倒門を殴り続けて倒れたあの日の様な──。どうしようもないものに向かって逆らっている感覚。
滝を泳げば落ちていく。そんな当たり前を今、感じている。
考えろ。考えないと──頭が、働かない。
何も考えたくない。
流されていった方が、楽だ。
この重力に身を委ねて、流れよう──。
「重力……」
──GON。
私は魔剣の束を自分のおでこにぶち当てる。つーっと血が流れ、意識が澄み渡ってゆく。
雑音が──消える。
「わ、模擬魔剣で血出んの!? ヤバ!?」
燐燈カザネは口に手の平を当て驚いた様子を見せる。それは演技には見えない。これはイレギュラーなんだ。
だったら勝機はある。
でも結論を出すまでちょっと考えないといけない。集中したい。剣で剣を捌きながら考えられる? 無理だ。
この仮説が正しいならそもそも魔剣は使えない。不刃流なんてもっての外だ。
……なら、模擬戦のあれをやろうか。
***
■SIDE:牧野コウタ
何してんだ!?
「魔剣を、鞘に戻した……」
浅倉さんは気でもおかしくなったのか、魔剣を鞘に戻した。いや、これ魔剣師の試合なんだからまずいだろ!
フィールドの外にいる審判教官は何も反応しない。折紙アレンの不刃流の様な例外があるためだ。
でも浅倉さんは──。そこで彼女が不刃流を一度だけ使った話を思い出す。
「そうか! 不刃流なら高火力でどうにかできんのか!」
「逆じゃね?」
「逆だな」
逆……?
「浅倉のこと知ってりゃ不刃流に切り替えるんだろうって見えるけど、知らん奴からすれば試合を放棄したように見えるじゃん。ありゃあいつなりに喧嘩売ってんだ」
「同時に何か掴んだな。だからシオンは考えるために、剣を放棄した」
「は? どういうこと?」
考える為って……。冷静になりたいから一旦剣を手放す的な?
いやいや、そのあとどうすんのよ!
「覚えてないか、模擬戦のシオンを」
「あのボコボコにされてたやつ?」
「ああ。シオンは自分の武器である『思考』を最優先にするためなら、多少の攻撃なんて受け止めてしまうんだ」
「バカだ……」
「バカだよな~」
だけど、それで相手の──燐燈カザネの弱点と思考を全て計算できるのだとすれば、この場において、それが最善手の様にも見えた。
「諸刃の剣だよな……?」
「骨を斬らせてぶった斬る。それが浅倉の一番強いところじゃん!」
そう話している間にも、斬る道具ではなく打撃武器と化したイペタムで浅倉さんのことを攻め続ける燐燈カザネ。だが、浅倉シオンは飛ばされても飛ばされても起き上がり、計算したようにフィールドの中心に戻る。
その試合は奇しくも、あの模擬戦のルールと同じだった。
「アタシ! 正面衝突、真っ直ぐな人が好きって言ったよね! 手抜かれるのとか! マジで勘弁なんだが!!!!」
校舎まで聞こえるその声──。どこか冷徹にも聞こえるそれはブリザードのようで、燐燈カザネという女子が間違いなくリヴァイアサン寮の学生であると示していた。
「相手のギャルさん、なんもわかってねーな」
「そうだな」
「俺もなんもわからんが?」
「ならもうちょいあいつと過ごしてみりゃいいさ」
「シオンほど、正面衝突で真っ直ぐで手を抜かない奴、いないからな」
ああ。
そこで思い出した。
ラタトスク入寮の日、自己紹介で自分のモットーを一人ずつ言っていったとき、浅倉さんがなんて言ったか。
『私のモットーは全身全霊全力全開です!!!!!』
あの時は脳筋だなーと簡単に思っていたけど、それは何の嘘偽りもなく本当だったんだ。
浅倉シオンは瞑目を止める。魔剣を手に取る。相対する。
「アタシと! 正々堂々勝負しろぉおっ!!!!!!」
「Zero Gravity──考えうる全ての方向ッ!!!!!!」
***
■SIDE:浅倉シオン
一秒よりも短い時間の中で、激しい破裂音がバチバチと鳴り響き、それが終わって魔剣Black Miseryが手に戻った時、燐燈カザネと私は同時に地面に倒れていた。
何が起きたのか。それはBlack Miseryにかかっていたあらゆる力を無くした。その詠唱によって逆にすべての力が同時にBlack Miseryへと集中し、逆鱗に触れられた龍のように暴れまわった。
私も含めて、フィールドにいた人間を総てなぎ倒して。
十三獣王の名を冠するだけはある。痛すぎる。
でも、この程度の痛み、不刃流二時間食らうのに比べたら、余裕だ。
私は腕から少しずつ立ち上がり、所々血が出たところも無視して、燐燈カザネの元へ向かった。
彼女はフィールドのギリギリで横たわって目を回していた。
よかった、彼女の作った「場」はもう消えている。
どちらが重症かと聞かれたら私だ。この技は自爆的な最終手段なんだから。だけど彼女はその魔剣技によって、きっとここに上がってくるまで痛みを負ってこなかったのだろう。痛みに慣れていないのに、これを食らってまともに立ってはいられまい。
「まったく、手を抜く暇もなかったよ……もう」
私は戦闘不能の燐燈カザネをいっぱつくらいぶん殴ってやろうかと思ったけど、これ以上かわいい顔にあおたんを作るのは可哀想だったのでやめた。
そして、起き上がられても困るので、のっそのっそと彼女を転がすと、私はゆっくりと燐燈カザネをフィールドアウトさせる。
──BEEEEEEEEEEEEP!!!!!!!
決着だ。
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